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初陣のようです。

どうも、画ビョウ刺さったです!

第5話になります。

今回は戦闘描写を入れましたがかなり少なくなってしまいました。

どうぞご覧下さい!


「んん…」


顔にあたる緩やかな風の前髪を揺らす感触に、僕はゆっくりと目を開ける。


真っ青な空と真っ白な雲。


目に飛び込んで来たのはそんな光景だった。


まだ目が日の光りに慣れていないのか、少し空が眩しい。目を細め擦りながら、僕はむくりと起き上がる。




「おお…」


半開きの目に映ったのは、よくゲームの世界にあるような広大な草原フィールド。短い草と土で出来たその風景は、僕の視界いっぱいに広がっている。


僕の座っている場所はちょっとした丘のようになっており、簡単に周りを見渡す事が出来る。


正面には草原が広がっていて、その先に大きな湖があり、太陽の光に反射して水面がキラキラ光っている。右側にはここから少し歩いた所に木々が林を形成している。左にはかなり離れた所に建物が見える。あれは街だろうか。後ろを振り向くと草原と林、その先には山がそびえ立っている。


正面の湖から走るように吹いた風が、草木を揺らし、僕の長くなった髪をなびかせる




「本当に異世界にやってきたんだ」


ビル群で囲まれた、日本ではあり得ない幻想的な光景に、僕は本当に異世界に召喚された事を確信した。




トスッ


「ん?」


後ろでなにかが落下した音がした。


何だろうと後ろを振り返ると、そこには先程には無かった日傘が落ちていた。


全体的に黒っぽく、縁の部分の白いフリルが盛り上がるようになっているその日傘は、僕のゴスロリにとてもマッチしていると思う。


まるで僕のために落ちてきたような……。


何となく誰がこれをくれたのかを想像しながら日傘の柄を握る。太くもなく細くもないちょうどいい太さだ。持ち上げると普通の日傘の重さ。特別重いというわけではない。


多分、これが武器なんだろうな、傘だけど。アテナさんはなんでこれを寄越したんだろう…。


僕は手に持った日傘を眺めながら考える。しかし考えてもアテナさんの意図は分からない。



そのうち考える事をやめ、僕は今やるべき事を考えることにした。


とりあえず今の自分の状態を知るのが大事なんだけど、どうすればいいかな。ゲームとか小説だと、自分のステータスが見れるはずなんだけど…。


そこまで考え、僕は目を動かす。周りを見るというよりは、自分の視界の隅を見る。


ゲームや小説ではよく視界の隅に「メニュー」に似たウィンドウが存在する事が多い。もしここがそういうゲームのような世界ならば、そういうのがあってもおかしくないんだけど…。


キョロキョロと探すが、見つからない。他の人が見たらすごく変な顔になってるだろう。


しばらく探したが、見つからないと分かり、僕はため息をつく。どうやら常時展開はしてないようだ。


もちろんそんな機能が存在していない可能性も否定出来ない。異世界とはいえ世界は世界。そんなゲームみたいに都合良くステータスなんて見れないかもしれない。



でも、もしかしたら。もしかしたらあり得るかもしれない。そんな気がしてならない。


僕は次に「ステータス」と言ってみた。常時展開型でないから、音声反応型、もしくは自分の念に反応する類いかもしれない。



……。だめだ、やっぱり出ない。


言うだけでなく、念じたりと何度か試してみたけど出てくる気配はない。気合いが足りないとかそういう根性みたいなのが関係するなら分からないが、少なくとも今の状態じゃ見れない。それだけは分かった。


もしかしたら『ステータス』という概念が存在しないのかもしれない。元の世界と同じように、ここもステータスが目に見えないということも考えられる。


しかし、そうなるとかなり厄介なことになる。相手の強さも分からないし、何より今の自分の状態が分からないのは危険だ。もし今敵に襲われでもしたら…。




あれ、これフラグじゃない?と思ったとき、ズルズルと何かが這っている音が聞こえた。


嫌な予感を覚えつつ振り返ると、そこには体調1メートルくらいの青い物体がこちらに向かってきていた。


まるで水が意思を持って動き出したかのようなその容姿は、よくゲームの最初の方に出てくる雑魚モンスターのスライムに似ている。


しまった、フラグ立てちゃった。こっちにきていきなり戦闘だなんて…。


僕は急いでその場から立ち上がり、スライム(仮)と距離をとる。


どうする?僕は闘いなんて初めてだし逃げたほうがいいかな。でもずっと逃げるわけにはいかないし。闘うにしても武器は…一応日傘があるな。これで叩けばなんとかならないかな。見た感じそこまで強くなさそうだし。


僕はスライム(仮)が何をしてきても対応出来るように、日傘を突き出すようにして構えながら近づいてくるスライム(仮)をじっと見る。










【ブルースライム】:弱い。


「ちょっと待ったー!!」


いきなりスライム(仮)の頭上に現れた文章に僕は思わず大声を出す。僕の声に反応してくれたのか、スライム(仮)は止まった。


止まってくれたスライム(仮)に感謝しながら、僕はスライム(仮)の頭上に現れたそれを凝視する。



【ブルースライム】:弱い。


これは、ステータスじゃないだろうか。というか絶対そうだろう。出てるのは名称と強さの情報だけでレベルとか体力ゲージみたいなのは出てないみたいだけど。間違いないよね。


でも、どうしていきなりこれが表示されたんだろう。もしかしてスキルが発動した?『鑑定』のスキルみたいなのが。スキルは自動発動型なのかな。それともスキル関係なく表示されるってこと?


そう考えていると、スライム(仮)ことブルースライムがぶるぶると震え出した。


僕は考えることをやめ、ブルースライムに注意を向ける。なんとなくだが、あれは攻撃の予備動作のような気がする。


注視していると、ブルースライムの体から触手が生えた。数は3本。頭部から1本、腹部から2本生えた触手はウネウネと宙をさまよっている。


「うわぁ…」


ぬらぬら光る生々しいその触手に僕は顔が引きつるのを感じた。あれには捕まりたくないなぁ、気持ち悪いし。触手に攻められるゴスロリ娘(♂)ってその手の本みたいだ。


僕が後ずさると、ブルースライムの触手1本が突然襲いかかってきた。


「うわ!」


僕は思わず地面に身を投げ、転がりながらその攻撃を回避する。スカートが捲れ上がった気がするがそんな事を気にしている場合ではない。例え捲れてしまっても誰も見てないし履いてるのは普通のトランクスだ。何も恥ずかしくない。


むくりと起き上がると、僕の回避の仕方が可笑しかったのか、それとも挑発なのだろうか、ブルースライムは3本の触手をウネウネと激しく動かしている。


ちょっと腹立たしいが、ここで感情的になったら思うつぼだ。冷静に相手の動きを見よう。そう自分に言い聞かせ、僕は再びブルースライムに向き直る。


またブルースライムが攻撃を仕掛けてくる。今度は腹部の触手2本を使った攻撃。ブルースライムの知能が低いのか、同時に触手を振りかざした。あれじゃどう攻撃するのかまるわかりだ。


僕は2本の触手の攻撃地点を予想し、その場から右に飛び退く。直後飛び退いた地点にブルースライムの触手2本が叩きつけられる。


よし、上手く回避出来た。考えてみたらこのブルースライムは『弱い』んだ。油断しなければ大丈夫なはず。鑑定さんを信じるんだ。


僕は自分の動きに満足しつつ、ブルースライムとの戦闘に集中する。


対するブルースライムは僕の回避が気に食わなかったのか、今度は3本の触手を同時に使って攻撃してきた。一気に勝負を決めるつもりだろう。




だけど、同時に僕目掛けて攻撃してくるなら。


僕はブルースライムの攻撃のタイミングとほぼ同時に今度は左に飛び退き回避し、一気にブルースライムに接近する。


ブルースライムは接近してきた僕に焦って触手を戻そうとするが、そうはさせるかと僕は右手に持った日傘を両手で握りしめてブルースライムの頭部に叩きつける。


べしゃっという音と共に頭部が潰れ、青い液体が僕の顔や服に飛び散り、ブルースライムは動かなくなった。


「うぇぇ…、べたべたする」


顔についた液体を手で拭きながら、僕は動かなくなったブルースライムを日傘の先端でつつく。






返事はない。ただの屍のようだ。


ブルースライムが完全に死んだ事を確認し、僕は緊張を解くように息を吐き出す。




『ぱんぱかぱーん!レベルアップしましたー』


いきなり聞こえた音と音声に僕は飛び上がる程驚いた。ばっとブルースライムを見るとブルースライムは動く気配はない。どうやら音の発生源はこれじゃないらしい。


初戦を終えて気を抜いた所に今のはないと思う。超びっくりした。一体なんだったんだろう。もしかして、レベルが上がったとか?モンスターを倒したから経験値が入って、レベルが上がった?今のはそれを知らせるためのアラームってこと?レベルアップしましたーっていうあの機械の音声もそういうこと?


うーん、と考えていると後ろから声が聞こえた。










「ねぇねぇ、何やってるのかなー?」



女性特有の高くて明るい声に、僕は振り返る。


そこには、和装をした一人の女性が立っていた。


背は僕より高く170センチを超えているだろう。スレンダーな体型で薄い桜色の着物に灰色の袴を着ており、腰には2本の刀を差している。整った顔には太陽のような笑顔が浮かんでおり、大きな黄金色の瞳と合わさって、思わず見惚れてしまうほどの美人だ。髪は僕と違って短く、肩にかかるほどの長さの黒髪が風でかすかに揺れている。


「日本人…?」


思わず、僕はその女性にそう問いかけた。この人の服装、そして武器。あまりにも元の世界のそれに似ている。僕と同じ転生者だろうか。そう思わずにはいられなかった。






「ん?ニホンジン?なにそれ、美味しいの?」


…どっちだこれ。知ってて言ってるのかな、知らずに言ってるのかな。


笑顔で首を傾げる女性に、僕は疑いの眼差しを向ける。


前者なら転生者の可能性がある。このネタを知ってるなら転生者だろう。でも知らないなら完全にこの世界の住人って事だよね。知らないで言ったんだとしたら中々のセンスを持ってらっしゃる。


そこまで考えて、ふと女性の頭頂部に目が止まった。



耳がある。獣…というかあれは猫耳かな?女の人の頭頂部に猫の耳がついている。付け耳には見えないから自家製って事か。ということは、この人獣人か。初めて見た。


ファンタジーの世界で比較的強い種族として描かれる事が多い獣人だが、ゲームや小説によっては人に近かったりモンスターに近かったりとまちまちだが、この世界では人に近い姿をしてるようだ。


初めての獣人に感動していると、女性が声を掛けてくる。


「ねぇ、ニホンジンって何?」


「え、ああいえ、ちょっと知り合いに似ていたので」


我ながら苦しい言い訳だけど、日本人を知らないなら分からないだろう。


「…ふーん、そっか。まあいいや。それよりそのモンスターさ、早く魔核取らないとなくなっちゃうよ」


女性の言葉に僕は首を傾げる。


魔核?もしかしてモンスターの魔核の事かな。よくモンスターを構成している物体として知られるのは知ってるけど、ここでは取り出せるのか。でもどうやって?


ブルースライムの亡骸の前で首をひねっていると、女性が僕の側までやってきた。ふわりと甘い花の匂いがした。これは何の花だろう。


「もしかして魔核の取り方が分からないの?それとも魔核を知らない?」


女性の声に僕は我に帰る。まさか初対面の女性の匂いに我を忘れていたなんて言えない。じっと僕を見つめる女性に対してあわてて応える。。


「い、いえ、魔核はその、知ってるんですけど、取り方はそのぉ…よく知らなくて」


如何わしい事をしてないのになんで普通に喋れないんだろう。やっぱり匂いを嗅いだことが後ろめたいからかな。


顔を赤くし途切れ途切れになりながら、僕は女性に言った。そんな僕を不思議そうに見ながら、女性は僕に


「じゃあ取ってあげよっか?魔核」


と提案してきた。断る理由がない僕は、お願いしますと女性にお願いする。


女性はいいよー、と言ってブルースライムに近づき、左腰に差している刀を1本抜くと、ブルースライムの亡骸の頭部を切り裂き、中から小さな青い結晶を取り出した。


あれが魔核かぁ、なんかきれいだな。でも解体は手作業か。もっとこう、魔法とかでちゃっちゃとやるのかと思ってた。


女性の手際よい解体作業に舌を巻いていると、女性が魔核を僕に差し出す。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます。助かりました」


「いいっていいって。気にしなくていーよ。それにしても魔核の取り方知らないのによくモンスターと闘ったね」


女性が親しげに僕に話しかけてくる。この人は良い人だなー、きれいだし優しいし。これは幸先がいいな。


そう思いながら、僕は女性の問いに応える。


「えっと、突然このブルースライムに襲われたので反撃してたらいつの間にか倒してまして」


「そっかー、それは危ない所だったね。でも見たところ武器とか持ってないようだけど、どうやって倒したの?」


「えっと、この傘を叩きつけたら倒せました」


「え、傘で倒したの?それはすごいなー。その傘も君も」


「そ、そうですかね」


「そうだよー普通は剣とか槍とかちゃんとした武器じゃないとダメージ与えられないんだから」


そっか、やっぱりこの傘ただの日傘じゃないんだ。アテナさんありがとう。というか、この傘がなければ今頃僕はブルースライムにやられてたかもしれないのか。


改めて、アテナさんに感謝していると、目の前の女性が思い出しかのように言った。


「そういえばさ、まだお互い名前を言ってなかったよね。私は日向夜白(ひなたやしろ)っていうんだ。君は?」


「あ、そうでしたね。僕は早乙女凛って言います」


「そっかー、凛君って言うのか。ねぇねぇ、凛君てさ」


「はい、何でしょう」


僕の言葉に、夜白さんはにこりと笑って言った。























「凛君ってさ、もしかして転生者ってやつかな?」



一際強い風が、二人の間を通り抜けた。




いきなりバレてしまった凛君。

さぁ、彼はこれからどうするんでしょう。

どうしましょう。

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