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僕の趣味のようです。

こんばんは、画ビョウ刺さったです!

3話目になります。

今回はなぜ凛君が女装をするようになったのかが中心になりました。

ほんの少しですが、凛君のお姉さんも出てきます。

どうぞご覧下さい!

 




 真っ白い空間。




 この世のものとは思えないほど純白に包まれた世界に、一人の人間と一つの光球が存在している。



 一人はマンホールに落ちて死んでしまった中学2年生の早乙女凛(♂)。


 そしてもうひとつの光球は、人々に神と呼ばれ、崇められている自称美しき女神アテナ(♀)。


 本来出会うはずのない女神と人間。


 2人の出会いは偶然だったのか、あるいは必然だったのか。


 古より定められた基準により転生することになった少年が、果たしてどのような結末を迎えるのか。


 それは誰にも、神にすら分からない。


 だが、この場において言わせてもらえるのならば、







「異世界に行ったら、女装してもいいですか?」



「は?」



 古の基準システムの見直しをした方がいいかもしれないということだ。



 ♪♪♪



「えーと、その…ちょっと待って」


「あ、はい」


 僕の質問に対して、アテナさんは待ったをかけた。



 アテナさんは、「おぉう?」とか「うぇぇい?」とか「マジデ?」とか何やら混乱した声をあげている。そのせいか、さっきからアテナさんが発している光の点滅が激しいことになっている。




 まあ正直、驚かれるだろうなぁとは予想していた。


 今日会ったばかりの人にいきなり女装していいですか?という質問をしたら、普通こうなるだろう。


 だが僕こと、早乙女凛という少年は、何も異世界転生によって頭がトチ狂ったわけではない。





 僕は真面目に、大真面目に、質問した。


 なぜなら、返答によっては僕のアイデンティティが崩壊してしまうかもしれないからだ。


 普段学校に通ってる間には女装なんて出来ないし、かと言って休みの日に女装して外を出歩けば友達に見つかってしまう。


 中学二年生という、思春期真っ只中のクラスメート達に僕の趣味がバレれば、次の日からいじめられるのは確実だ。



 だから僕は、一度も女装して外を歩いた事がない。


 家の中でさえ、両親にバレないように密かにやっていた。息子の趣味が女装だと知ったら両親は泣き始めるだろう。


 唯一姉さんだけは、僕の趣味を受け入れてくれているから堂々と出来る。というか、僕が女装好きになった理由は姉さんにあったりするが。


 とにかく、僕が趣味を興じることができるのは、両親が2人ともいない時か、もしくは姉さんと2人きりの時しかなかった。




 だが異世界ならば。


 異世界ならば、別に僕の知り合いがいるわけでもないし、ずっと女装していればバレることはないだろう。


 僕の女装はそんな簡単に見破られる程低い完成度ではない。


 外国に行ったら一生誰にも僕が男であると気づかれないで暮らしていける自信がある。姉さんからも、「超かわいい、いっそ妹になって!」と言われるほどだ。



 ここだけの話、僕が転生を題材にした小説を読んでいたのには、こういう理由もあった。


 異世界ならば、自由に生きていける。


 女装したって、何も問題ない。


 なぜなら、そこは異世界だから。


 現実世界の窮屈なルールなど、存在しないと信じているからだ。




「えーと、その…、その質問に答える前に聞いてもいいかしら?」


 ようやく落ち着いてきたのか、女神ことアテナさんは僕に恐る恐るといった感じで聞いてきた。


「はい、なんですか?」


 何を聞かれるか分からないが、とりあえず聞いてみようと思い、僕は言った。




「貴方ってその…いわゆるゲイなの?」


「違いますよ!なんて事いうんですか!」



 いきなりゲイ発言をされた僕は、思わず大声をあげて否定した。




 びっくりした、びっくりした、本当にびっくりした!


 僕の頭の中で『びっくりした』という言葉がぐるぐる回った。


 びっくりしたのは、アテナさんの質問にも、僕がここまで大きな声を出せた事にも驚いたからだろう。


 絶賛動揺している僕に、アテナさんはこてん、と首を傾げるように球体を傾けながら、


「え、違うの?私てっきりそういう人かと」


 と言ってきた。


「違います!僕はノーマルです!ちゃんと女の子が好きです!」


 その言葉に僕はきっぱりと首を降って否定した。


 女の子が好きです、と大声で言うのは若干恥ずかしかったが気にしない。


 まあ確かに、そういう人がいないとは言わない。


 所謂オネェと呼ばれる人だと勘違いしたのだろう、この人は。


 まあ世の中にはそういう人もいることは知ってる。


 だが少なくとも、僕は普通に女の子が好きだし人並みに性欲もある。


 僕は男である。ただ純粋に、女装が趣味なだけの、普通の中学生だ。



「そ、そう。なら良かったわ。……ねえ、もうひとつ聞いてもいい?」


「失礼な質問でなければいいですよ?」


「いや失礼というか、純粋な興味というか疑問なんだけれど」


 アテナさんが不規則にピカピカしている。それが僕には、アテナさんが聞いてもいいのか迷っているように思える。


 渋々といった感じで、僕はアテナさんに対して肯定の意味を含めて頷く。それを見たアテナさんは僕の前でピカピカしながら聞いてきた。






「そもそも、何で女装なんかが趣味になったの?」









 その言葉に、僕は過剰に反応した。



「趣味じゃいけませんか?男が女装することが、そんなにおかしいことですか?」



 自分でも驚くくらい低く、トゲのある言葉が口からこぼれた。


 女子と一緒にソプラノの声で歌える自信すらある程僕は声が高かった。それは小学生の時から変わらず、中学校で周りのクラスメート達の声変わりが始まる中僕はまるで声が変わらない。今でも音楽の授業は女子に混ざって女子のパートで歌っている。


 まあ女装する立場としてはその方が嬉しい。


 女装して低い声が出てしまえば男だとバレてしまう。その心配がないのは正直うれしい。このまま変わらないでいてほしいものだ。



 そんな僕の口から低い声が出たということは、それなりに僕自信が怒っているということだろう。





 どこか他人事のように思っていると、僕が発した少量の怒気を感じたのか、アテナさんは首を横に降るようにして左右に揺れる。


「ち、違うわ。私はただ、その…貴方がどういう経緯で女装を始めたのかが気になっただけで…。け、決して貴方の趣味がおかしいって意味じゃないの…!…本当よ…?」




 おかしいなぁ、こんなに成る程怒ってないぞ?


 少し、いやかなり怯えたような声のアテナさんに対して、僕はそんなに怒ったかなぁと首をひねる。


 よく普段おとなしい人程怒った時が怖い、という話を聞くが僕もその類いなのだろうか。


 いや、あんまり自覚はないけど。


 とりあえず、アテナさんにそこまで怒ってるわけじゃないことを、僕は苦笑いをしながら伝える。



「すみません、別に怒ってるわけじゃないので大丈夫ですよ。…そんなに怖がらないで下さい、軽くへこみます」




 別に全く怒ってないわけじゃないが、怒鳴り散らす程のことじゃないと思う。


 誰だって、自分の趣味を馬鹿にされたら怒る。これはそういう類いの怒りだった。


 僕の言葉に安心したのか、アテナさんはほっと息をついた。



「あ、うん。その…本当にごめんなさい。そんなつもりはなかったの」



 アテナさんは素直に謝罪してきた。こういう時に素直に謝れる人はいい人だと思う。神様だけど。



「それで、聞きたいのは僕の趣味が女装な理由でしたっけ」



 さっきのアテナさんの質問を僕はリピートする。


「ええ。えっと、いいの?聞いちゃっても」


 まだ怯えた感じが残っているアテナさんに対して、苦笑気味に伝える。



「別にいいですよ。面白いかどうかは分かりませんけど」



 いや、別に面白いとかじゃなくて…と言っているアテナさんを見ながら、僕は話す内容を頭の中で簡単にまとめる。


 本当はあんまり話したいものではない。誰にだって秘密にしたいことはあるし、何より僕も最初は女装が嫌だったということもある。


 これが学校の友達とかだったら何かの拍子に広められそうだから話さないが、相手は神様だ。他の人にはむやみに話したりしないだろう。


 そして、僕はなぜ女装が趣味になったのかついて、アテナさんに話始めた。






 ♪♪♪



「まず最初に、僕は最初から女装が好きだった訳じゃないんですよ。というのも、自分から女装を始めたわけではないからなんです」


「ということは、誰かに無理矢理やらされてたの?」


「そんな感じですね。僕が初めて女装をしたのは6才の時で、その理由は姉さんにあるんですよ」


「お姉さん?貴方お姉さんがいるの?」


「はい、でも結構年が離れてて。今僕は14ですけど、姉さんはもう22才ですから」


 僕の言葉にアテナさんはへぇ、と相槌を打つ。関心半分、続きを促す意味の相槌半分といった感じだ。


 相槌半分はともかく、関心半分の方は僕と姉さんの年が離れていることだろう。年が離れている姉弟というのがいるのは分かっていても、実際に目の前にいる僕がそうだと言われれば誰でもこういう反応をする。


 初めて周りのクラスメートに姉さんの事を話したら同じような反応をされたのを僕は覚えている。


 そんな事を考えながら、アテナさんの相槌に導かれるように僕は話を続ける。



「それでですね、僕が6才の時に姉さんは14才だったんです。その日は姉さんの誕生日で、姉さんは両親から洋服を買ってもらったんですよ。」


「洋服?誕生日のプレゼントとしてって事?」


「はい、そうです」


 僕の話が腑に落ちないのか、アテナさんは僕に聞いてきた。



「でも、普通女の子なら服なんていつでも買って貰えるものじゃない?しかも中学生って言ったら、お洒落に興味を持つ年頃だし、なんでわざわざ誕生日の日に洋服をプレゼントしたの?」



 ああ、そういうことか。


 アテナさんの問いに対し、僕はそう思った。


 確かに中学生の女の子というのはお洒落に力を入れる。


 僕の周りの女子達も髪を染めたり、化粧品の話をしていたりするのを良く聞く。


 ある程度化粧品の名前が分かってしまうのは僕が女装をするからだろうか。まあ分かるからと言って話に混ざったことは一度もないが。


 とにかくアテナさんは、僕の姉さんも同じようにお洒落をする今時の女子中学生と思ったのだろう。


 だが、僕の姉さんはお洒落なんかに興味は持たなかった。


 姉さんが興味を持っていたのは、もっと別のことだったから。


「それなんですけど、僕の姉さんはお洒落よりももっと興味のあるものがあったんですよ」


「もっと興味のあるもの?」


 アテナさんの繰り返しに、僕は頷く。


「はい、姉さんは僕が生まれる前から空手を習ってたんです」


「空手?空手ってあのスポーツの?」


 アテナさんは首を傾げるように右にこてんと傾いた。どうやら空手を知ってるようだ。


 その仕草を見ながら僕は続ける。



「はい、僕の家の近くに空手の道場があって、そこに通ってたんですよ。姉さんは武術の才能があったみたいで、色んな大会で優勝するくらい強くて、家には姉さんの勝ち取ったトロフィーとか賞状とかたくさんあるんです。あまりに強すぎるから『鬼姫』なんてあだ名があったくらいで」



「鬼姫……」



 アテナさんが若干引いたような気がした。


 まあ確かにいくら強すぎるからって『鬼姫』はないと僕も思う。誰がつけたんだろ。姉さんは特に気にしてたなかったけど。


「はい、それで姉さんはずっと空手を続けてて、中学生になってもやってたんです。ただ姉さんは、本当に空手にしか興味がなかったんです。家にいるときもほとんどジャージしか着てなくて。ジャージと道着ばっかり着てたんですよ。」


「ああ…」


 そういうことか、と納得したような声をあげるアテナさん。プレゼントの理由が分かったのだろう。



 そう、僕の両親は年頃の娘である姉さんがまるでお洒落に興味を持たないため、このままでは将来が心配になり、誕生日プレゼントとして洋服を買って娘にお洒落に興味を持ってもらおうと思ったのだ。


「なんとなく理解してくれました?」


「ええ、なんとなくだけどね。でもそれがどうして貴方の女装に繋がるのか分からないわ」


「実はですね、姉さん一着だけお気に入りの私服があったんですよ。ピンクのワンピースなんですけど、それがもう着れなくなっちゃったんです」


「着れなくなった?」


 アテナさんの言葉に、僕は頷きながら答える。


「そうなんです。なんせ小学校の時に着てた服ですからね。サイズ的に入らなくなっちゃったんですよ。姉さんもその事を気にしてたみたいで。だからプレゼントを貰った時は凄く喜んでたんです」


 でも、と僕は話を続ける。


「それでもやっぱりワンピースは捨てたくなかったみたいで。着れない服を持ってても仕方ないって母さんは言うんですけど、姉さんは頑なに拒んだんです。なんか思い出でもあったのかもしれません。そしたら母さんが言ったんです。『そんなに気に入ってるなら僕に譲ったらどうだ』って」


「あー……」


 アテナさんは何かを察したように言った。


 母さん自身は何気なく言ったに違いない。よく兄弟の間で上の子の着れなくなったものを下の子に譲る、おさがりのつもりで言ったのだろう。


 もちろん母さんは本当に姉さんが僕に譲るとは思っていなかっただろう。だが、姉さんは母さんの予想の遥か斜め上を通過した。



「それで、姉さんは母さんのいう通り、僕に自分のワンピースを着させたんです。当時僕はまだ6才でしたから、姉さんが服をくれたーって喜んでたんですけど、姉さん曰くあまりに僕のワンピース姿が似合い過ぎたらしくて、ことあるごとに着れなくなった洋服を僕に着せて観賞するようになったんです」



 それ以来姉さんは洋服に興味を持つようになったけれど、着れなくなった服を僕に着せるようになった。



 むしろそっちの方が多かった。わざわざ渋谷まで行ってきて僕のサイズに合った服を買って、「ねぇねぇこれかわいくない?凛君に買ってきたから着てみてよ」と言ってピンクのスカートを見せてきた時は本当に驚いた。もちろんしっかり着てポーズまで決めて見せたが。



 そんなわけで、姉さんは自分がどんな服を着るかということではなく、僕にどんな服を着せて楽しむかということに関心を持ってしまった。それが僕が女装するようになった理由だった。




 その事に対して、もちろんケンカしたことはある。というか、しょっちゅうあった。


 小学校の高学年にもなれば、姉さんの行動がどんなにおかしいか分かる。しかもそれが自分にされてると分かったら、反抗せずにはいられない。


 口喧嘩もしたし、時には殴り合いに近い叩き合いをすることもあった。


 殴り合いにならなかったのは、姉さんが殴ったら僕がケガをするため手加減をしていたのと、僕が姉さんとはいえ女の子を殴るなんてしたくなかったことが要因だ。



 でもケンカをしても『鬼姫』と称される姉さんに一般人の僕が勝てるわけもなく、結局毎回嫌々来て見せていた。




 それを何年も続けていれば、流石に僕の女装に対しての意識も変わっていき、次第に僕の方もノリノリになって着るようになった。


 時には一緒に服を買いに行ったりさえした。買った服の比率としては姉さんの服4割と僕の服4割(女装用)、僕の服(普通用)2割といった具合だ。


 そんなわけで、僕の趣味が女装になった訳なのだが。






「なんかその……貴方のお姉さん半端ないわね」


 僕の話を聞いたアテナさんの第一声はそれだった。若干哀れむような視線が感じるのは気のせいではない気がする。


「まあ姉さんですから。色々常識外れなんですよ、あの人」


「いや常識という点においては貴方も十分外れてると思うわ」


 はぁ、とため息をつくアテナさん。僕はそれに対して苦笑いで応える。


 転生させようとした人間が女装という特殊な趣味持ってたのだから、ため息も出るだろう。





 というか、今更だけどいつになったら転生させてくれるんだろうか。


 すっかり忘れていた大事な事を聞こうと、僕はアテナさんに声をかけようとした。しかし、ほんの少しだけ、アテナさんの方が早かった。


















「アテナさん、あのですね」


「ねぇ凛君、私のおさがりがあるのだけれど、それを着て貴方の女装姿を見せてもらってもいいかしら?」


「はい、全然いいですよ。サイズはSからMの間なら大丈夫です」







 即答した僕は、悪くないと思う。






次回、女装回になります

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