表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/53

ミッション・ポッシブル

 さて、ここからどうするか。

 里美の部屋の前で立ち尽くしながらボクは頭を巡らせた。

 里美が起き出すより早くヤサ(・・)を押さえて、実質ゲームが始まる前にカタをつけてやろうとしたボクの目論みは見事失敗に終わった。

 もしかしたらボクのこの行動を予測した里美が、前の夜から違う場所に泊まっていたという可能性も僅かながらないとは言い切れまい。時々忘れそうになることだが、里美にもそれなりに論理的思考回路が備わっているらしいから。

 念のためスマホで里美のGPSを追跡してみるが、さすがに位置情報をOFFにするのは忘れていないようだった。

 電話やメールをしたってもちろんムダだろうしね。

 もし、ボクの予想通り里美が前の夜からどこかに泊まっていたとしたら、その可能性が一番大きい場所はどこだろうか。

 まず頭に浮かぶのは言うまでもなく里美の実家だ。

 けれど思い浮かんだ次の瞬間、ボクの思考はその可能性を否定していた。


「私を探して」


 メールに記されていたあの言葉。

 とりあえず身を隠すが、探してほしい。自分を見つけ出してほしい。そういうニュアンス。

 見つけに来てほしいなら、ある程度ボクが行きやすいところにいるはず。

 里美の実家なんて、ボクにとっては敷居が高いことこの上ない。里美にしたってそのことは分かっているだろう。

 相手が場所を推測できても、実際に足を運びにくい所では意味がないのだ。

 だいたい自分の実家って、夫婦喧嘩した奥さんじゃないんだから。「私、子供を連れて実家に帰らせていただきます」みたいなさ。

 そうなると、同じ理由で内野先輩の家とかもなさそうだ。

 内野先輩の家族までいる家に突撃するなんて、敷居の高さ三倍増しだしね。

 ……ということは里美のやつ、ホントに朝早く起きてどこかに出掛けて行ったらしい。

 ボクは昇ってきた時と同様、足音を忍ばせながらアパートの階段を降りた。

 ブラリブラリと足の向くまま生まれ育った町を横切り、たまたま行き着いた公園のベンチに腰を下ろす。手にはほとんど無意識にどこかの自販機で買ったコーヒーの缶。

 しまった、微糖にすればよかったとか、そんなことをぼんやり考えながらブラックコーヒーの缶を開けた。

 さて。今日、これから里美の居場所をつきとめて、そこに向かわなければならない。

 ではここで問題。里美の居そうな場所っていったいどこだろうか?


 ラーメン屋?

 牛丼屋?

 まさか、朝からヤキトリ屋?


 ……ちょっと待った。

 居所を想像すると真っ先に飲食店しか思い浮かばないって、ボクの彼女ヤバい。しかも女子大生が一人で行きそうな店が含まれてないのが更にヤバい。

 しかもそのせいで気づいちゃったがこのミッション、昼までに達成しないと里美が飢え死にしちゃうんじゃないだろうか?

 喉元にこみあげてきた苦い物を飲み下そうと手にした缶コーヒーに口をつけるが、ブラックのせいで余計に苦い。やっぱり微糖にするんだった。

 落ち着けボク。まずは現状分析だ。

 今回の里美の腑に落ちない行動の発端が、先日の早瀬さんの一件なのはほぼ間違いない。

 里美がこれまで何度かやらかしてきた、ちょっとした勘違いとヤキモチ。それが積もって、今回の子供みたいな雲隠れの原因になっているらしい。

 私のことが大事なら、私のことがちゃんと分かっているなら、私のいる場所だって分かるはずでしょ?

 きっとそういうことなのだ。

 もっとも今のセリフを面と向かって実際に言われたら、まず吹き出すこと請け合いではあるんだけど。

 となれば、里美のいる場所はボクら共通の印象深い場所だろう。

 例えばそう、二人の思い出の場所とか。


 ……なあんだ。答え分かっちゃったよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ