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決戦! 昼下がりのバトルロワイヤル

「ひっく……、ぐすっ、……ぐすっ」

 ソファーに突っ伏した彩音ちゃんがフルフルと肩を震わせている。大井川先輩と内野先輩のWキス口撃……、失礼、攻撃に息も絶え絶えといった感じだ。

「奪われた……。陽ニィに捧げるつもりだった純潔を奪われたぁ」

 その台詞、ぐったりとしながら裾の乱れたミニスカート姿で口にされると、シャレにならないリアリティが漂うので困る。

「あはは。彩音ちゃん、ほっぺチューくらいで大袈裟だなあ」

 そうシレッと言い放つ内野先輩の方は、彩音ちゃんのほっぺたの感触を堪能できてご満悦といった様子だ。

「そうだぞ彩音。私との戦いに敗れた代償にしたらあれくらい安いモノだ。私自身はいつも陽輔にもっとスゴいコトをされているしな」

 大井川先輩のいちいち余計なコメントに、彩音ちゃんが弾かれたように顔を上げた。

「陽ニィのケダモノ!!!」

 あ。彩音ちゃん、本当に少し泣いてる。

「ちょっと大井川先輩、こんなタイミングで余計なコト言わないで下さいよ」

 しかも大井川先輩の今の台詞、彩音ちゃんに対してボクとの関係をアピールする意図が見え見えだ。早い話が、自分達の間に割り込んでくるなという牽制。

「陽ニィ、もっとスゴいコトって何!? 大井川さんとドコまで行ってるの!? まさかもう、大井川さんと抜き差しならない関係になっちゃってるの?」

 大井川先輩の揺さぶりに対する彩音ちゃんの動揺、思いのほか大きかった。

「彩音、お前『抜き差し』とか、中学生のクセにませてるな……」

「大井川さん、今何を想像してました?」

 彩音ちゃんが先輩に向けた飽きれ顔を、キッとボクの方に振り向けた。さっきの質問にきちんと回答せよ、ということらしい。

「ど……どこまでって言われても、そんな……」

 ゴニョゴニョと口ごもりながら彩音ちゃんの視線をかわすと、今度は瞳をキラキラさせた内野先輩と目が合う。

「あー。私も聞きたいなあ~、ソレ。ヨーちゃん、さっちゃんとドコまで行ってるの?」

 意外な方向から、意外な食い付きキター。

「ど……」

 彩音ちゃんの突き刺さるような視線と、内野先輩の輝くような視線が同時にボクに向けられる。

「どうでもイイじゃないですか、そんなコト……」

 そんな話、この二人にあらたまってするとか、ちょっとムリ。

「どうでもよくないよ! 日本の青少年の性の乱れという大問題だよ!?」

「いつからボクが日本の青少年代表に!?」

 彩音ちゃんの気迫に押されて後ずさるも、追及が緩む気配は一向にない。

「いいじゃないか陽輔。二人に私たちの週末ごとの愛の交歓について話してやれば」

 腕組みをした大井川先輩がそっくり返ってそう言い放った。

 くっそう。自分が話の発端のクセに余裕綽々(しゃくしゃく)とか、ものスゴい腹が立つ。

 よし、先輩がそういうつもりなら……。

「いいでしょう……」

 開き直ったボクは、大井川先輩にチラッと目をやってから重々しく口を開いた。

「彩音ちゃん。ボクと大井川先輩、ホントにラブラブだよ?」

 その言葉に彩音ちゃんの頬がピクッと引き攣り、一方の大井川先輩は腕組みをしたままウンウンと大きくうなづく。

「毎週毎週、大学のガイダンス資料で物わかりの悪い先輩の頭をはたいたり、心霊スポットで腰を抜かした先輩をおんぶして命からがら逃げ出したり、もうこれ以上ないほどラブラブだよ?」

 ボクのその言葉にポカンと開いた彩音ちゃんの口が、次第にニィッと歪んでいく。そして目を丸くした大井川先輩の方にゆっくりと向き直ると、さっきまでとはうって変わった見下ろすような口ぶりで攻撃を始めた。

「なあんだ。やっぱり大井川さん、陽ニィに介護されてるんじゃないですか。まあ『介護される権利』なら、ギリギリ認めてあげないこともな……」

 彩音ちゃんに最後までしゃべらせず、大井川先輩がソファーの上の彼女に豹みたいなしなやかさで飛びかかった。

「どうやらまだ懲りていないようだな、彩音。そういうナマイキな口をきくなら、今度は徹底的にオンナの歓びを教えてやるぞ? 今日という日を永久に忘れられないくらい徹底的にな!」

 彩音ちゃんの両腕を押さえつけた先輩がゆっくりと自分の身体を沈めていく。

「い、いやいやいやあぁぁぁぁーーーーー! ……あ、あはははは! やめ……、お願いやめてえぇぇぇーーー!!!!!」

 彩音ちゃんの声、苦しそうな反面どことなく嬉しそうに聞こえなくもない。きっと大井川先輩も憎まれ口を叩きながら絶妙な手加減をしているんだろう。

 ひょっとして、この二人って意外と仲がイイ?

「あ、また始まった~。私も私も~~~」

 当然のように内野先輩も参戦し、くんずほぐれつのジャレ合い第二ラウンドが開始された。

 ボクがもはや口も手も出すことをせず、溜め息をつきながら三人のもみ合う様を見守っていると、玄関の方からドアの開く音が聞こえてきた。ソファーの上の三人はそれに気づくどころじゃなさそうだが。

「あらあら。みんな仲良しねえ」

 買い物から帰ってきた母さんが居間に姿を現すと、あれほど激しく暴れていた三人の動きがピタリと止まった。

 さっき母さんに見せた、大井川先輩のせっかくの猫っかぶりも台無しってわけだ。

 ていうか、呑気な感想漏らしてないで止めてくれよ、母さん。

「あ、ヨーちゃんのお母さん。お邪魔してます……」

 内野先輩が慌てて彩音ちゃんのほっぺたから唇を離す。

「いらっしゃい、美佳子ちゃん」

 にっこり笑いながらそう言った母さんだったが、突然頬に手を当ててつぶやいた。

「でも困ったわ……。美佳子ちゃんまで来てると思わなかったから、ケーキ三つしか買ってこなかったの」

 なんだ、そんなことか。

「ああ、それなら別にオレの分はイイよ。オレにはコーヒーだけ頼むわ」

 別にケーキが嫌いってワケじゃないが、ないならないで別に禁断症状が出るワケじゃなし、この状況なら内野先輩に譲るのが当然の選択だろう。

「そんな、ダメだよヨーちゃん」

 内野先輩がソファーからボクの隣にピョコンと飛び降りてくる。

「私が勝手に飛び入りでお邪魔したんだから……」

 そう言う内野先輩の体が、なぜか少しづつ自分の方へにじり寄ってくるのにボクは気づいていた。多分ボクだけじゃなくて大井川先輩と彩音ちゃんもだけど。

「……だから私、ヨーちゃんの分を一口だけもらえればイイよ。ヨーちゃんに『あ~ん』ってしてもらって」

 いつの間にかボクに密着していた内野先輩がお得意のポワポワスマイルを振り撒く。

「まて、みかっち。遠慮するフリをして、なにを一番美味なトコロをかじり取ろうとしている?」

「内野さんっておとなしそうな顔して、実は大井川さんより狡猾なんじゃないですか?」

 ソファーの上で重なりあった姿勢のままで、大井川先輩と彩音ちゃんが内野先輩を睨みつけた。

「彩音、一時休戦だ」

「ええ。まずは漁夫の利を狙う不届者ふとどきものに報いを与えるのが先決ですね」

 あっという間に矛先を変えた二人が、いっせいにボクの隣の内野先輩に飛びかかる。巻き添えを食ったボクは暴れる三人に弾き飛ばされて床の上に大の字という体たらく。

「ちょっ!? 二人ともダメ! ソコはだめえぇぇぇーーー!!!」

「みかっち。お前昔から首筋が弱かったよな?」

「やーん。内野さんのほっぺたって、プルンプルンでイイ気持ち~!」

「あらあら。みんな仲良しねえ」


 ……いや母さん。だからニコニコしてないで止めろよ。

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