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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その4
92/262

ヴァンゼル家14

腰高の草が見る限り延々と広がっている。

風にそれが揺れ、幻想的な風景を醸し出していた。

馬上の景色は見慣れた視界より1段高い。

その中を突っ切る道を歩いていた。


隣国へと向かう道。

ここを通るのは何度目だろう。

毎度…碌な目に会っていないような気がする。

それぞれの折の事を思い出し、見える景色とは逆に少し陰鬱な気持ちになった。


そして。

今もまたそうだと思うのは悲観的過ぎるだろうか。







一昨日。


ミリアの所に彼女を迎えに行った折、ああいった事を人前で口走るのはやめろとしつこいくらいに注意した。

少し泣きそうになっていたが…また似たような事をやるような気がする。

彼女の抱える不満のはけ口にでもなるのならば少しは我慢してやろうとも思うが。

しかし他人を巻き込むのは出来れば勘弁して欲しい。


それを眺めて考え込むような顔をしていたレイス。

帰り道にどうかしたかと尋ねるも、曖昧に笑って見せるだけだった。

やはりミリアが余計な事でも言ったのだろうか。

結局、何を話すでもなく宿に戻った。

互いにちゃんと話はする、という約束になっている。

落ち着いたらその思いも語ってくれるだろうか。



夕食を取っている折にアレンの使いがやってきた。

「無事済ませたので心配いらない。お前達が片付けた奴らを取り逃がす可能性を懸念していた。礼を言う」

との言伝だった。

それを伝えて去ろうとする使いに、レイスに対する助力の礼と、

恐らく多忙であろう事を考慮して今回の件を終えてから顔を出す事を伝える。

しかし…余計な礼の伝言を寄越す始末だ。すんなりと済ませて来たのだろう。

関わりたくないと思っていたがここまで関係してしまった。

出来れば敵対するような事がないよう、切に願うばかりだ。




その翌日。

アレン達が帰還と目的を済ませた旨の報はミネルヴ達にも伝わり、更に翌日である今日の出発となった。

それを伝えに来たクレイルの少し考え込むような表情が気になっていたが、その理由は翌日わかった。


集合地点で挨拶する俺を半ば無視し、レイスに話しかけるミネルヴ。

そして何か勘違いしている雰囲気の騎士達。

それを笑って見ているスライと、考え込むような顔でこちらを見ていたクレイル。


追加の護衛で雇われた冒険者3人もその場にいたが、

こいつは何かやらかしたのか?というような表情で見られていた。

知った顔もいるが…こいつらにまで変な噂が広まるのは本当に勘弁して欲しい。


ミネルヴはどんな事をどのように伝えたのか。

とは言え、こんな事はしつこく追及するような話でもない。

靴の中の小石のように鬱陶しいが、取り敢えずは我慢するしかないだろう。









「…どうしたんですか?」

振り返る彼女の顔は少し笑っている。


「やっぱり気になる。何とかしてくれよ」

「それはミリアに文句を言って下さい。…謝ってましたよ?」

「ついでに取り消して回ってもらえば良かった」

「逆に話が大きくなりそうな気がしますけど…」


再び溜息をついていた。







やはり少し陰鬱な気持ちのまま馬は進み、やがて夜を迎えた。



アレン達の行動により、組織立った襲撃などはない筈だ。

とはいえ、夜間の見張りにはやはり気を使う。

騎士達も含めた3人が交代で見張りを行っている。


俺は早朝の割り当てになり、馬車の近くで眠っていた。

それでも安全が確保されている訳ではない。浅い眠りから起こされた。


「リューンさん、交代です」

やはり何とも言えない顔で接するクレイル。


「…クレイル。ちょっといいか?」

「はい、別に構いませんけど。長いですか?」

「長くない。ちょっと付き合えよ」

すぐ横で眠るレイスの寝顔を一度振り返り立ち上がる。

クレイルが先程まで見張りをしていた所まで再び付き合わせて座り込んだ。








「まぁ、何かの間違いだろうとは思いましたけど。もういいんじゃないですか?」

「改めて全員に言って回る気には到底ならないが、そんな俗物も俗物だと思われるのは癪だ」

「まぁ、ぼちぼちの立場であればそういった物を抱えるのも普通ですからね」

「何が普通だよ…」

半笑いで話を聞くクレイルに、心底迷惑している事を強調する。


「わかりましたよ。ところで、実際の所どうなんですか?」

「…殴るぞ?」

先般の同行の折から、彼とは良好な関係になっている。

冒険者などという怪しげな立場の俺を信用してくれている上に、腕も立つ。

ありがたい話だ。



「このまま国境を越えてキンロスが目的地、それでいいんだよな?」

パドルアからエルムスまでが3日、エルムスから国境を超えてソルテアまでが1日。そこからキンロスまで3日。

これらは徒歩での計算だ。全員分の馬があるので、実際にはもう少し早いだろう。


「…よく知ってますね。大まかな日程しか伝えていないじゃないですか」

「前にひどい目にあってな。色々で、キンロスに滞在した事がある」

「え?何してるんですか。…あまりそれは言わないほうがいいと思いますけど」

戦いの為の旅路ではないが、敵国の騎士の部隊で訓練していたなどとは口に出すべきではないだろう。




「どこで落ち合うんだ?最初に通るソルテアは廃墟になっているだろうし、その先は相手の同行なしじゃ危なくて仕方ないだろ」

「…本当、どこまで知ってるんですか。そのソルテアまで騎士の部隊が迎えに来てくれる事になっています」

「至れり尽くせりだな。パドルアまで来てもらえば良かったじゃないか」

「それは流石に無理ですよ…」


「向こうもヴァンゼル家みたいな権力者の家の奴らなのか?」

「えぇ。プレストウィップ家という…

「何だって?」

思わず少し大きい声で聞き返した。

振り返り、後ろで眠っているレイスを見る。

…先程と同じ格好で静かに眠っていた。


「だからプレストウィップ家です。聖マルト王国の現在の最大派閥ですよ。…どうかしたんですか?」

「いや…すまない。何でもないんだ」



隣国の、俺が知りうる限り最も英雄に近い男を思い出す。

グレトナは…プレストウィップと名乗っていた。

やはり俺の知っているそこいらの貴族や騎士とは一線を画す存在だったという事か。

思わず口元に笑みが浮かんでいた。


「…どうしたんですか?」

クレイルの奇妙な物でも見るような視線。


「本当に何でもないんだ。眠いところ悪いな、付き合わせて」

「いえ。…大事な事ですからね」

彼の半笑いの顔に当初の話を思い出し、俺の笑みはすぐさま消え去った。



クレイルが改めて仮眠に入るのを見送り、再び見張りの仕事に戻る。


結局…何も起こらずに朝を迎え、俺達は出発した。

このところ毎度毎度何か起こっていたので警戒はしていたが。

本来はこういう物の筈だ。







そのまま順調に歩みを進め、国境直前の町エルムスを越えた。

このままいけば、夕方には迎えが待つというソルテアに到着する予定だ。




かつてその町で別れた彼らの事を思い出す。

もう廃墟になるしかないだろうその町での思い出は、今も鮮やかに思い出される。

あの英雄と妹。騎士を目指していた少年兵。

そして今回の旅の目的の相手。プレストウィップ家。

それは神がかり的な確立なのかもしれないが、彼らに会う事が出来るかもしれない。


「リューン様、なんというか…嬉しそうな顔ですけど…。どうかしたんですか?」

一度振り返ったレイスが訝しげな表情で聞く。


「いや、なんでもない」

その面子との再会を期待しているなどという理由は、恥ずかしくて口に出来なかった。




そのまま無言で道のりを行く。

一刻過ぎた頃、再び悩み込むような表情のレイスが口を開いた。


「そういえばミリアなんですけど…」

「この間また何か言ってたのか?」

「いえ。少し辛そうっていうか…」

「あぁ、いい家ならそれで幸せかと言うとそうでもないんだな」


「そうじゃなくて…えぇと」

「……?」

「いえ。やっぱりいいです。今度にします」

「なんだよ。気になるだろ」

「リューン様、前見てください…」


促され視線を前に戻す。

その先。

背の低い建物が通りに立ち並ぶソルテアの町が見えてきていた。


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