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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の、新しい日常
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変わり始めた日常03

人もまばらな昼下がりの食堂で延々と文句を言われ続ける。

「お前荷物見たよな?それでなんだ、あぁ寝過ごしてしまったすまない、って。

私が今日ここに来たのは3回目だ。いつまで寝てるんだお前はっ!」


昨日輸送から帰着した王都便。現地で新規の太客となりえる相手との騒動についての報告が予想以上に厳しかったらしく、

夜半まで絞られていたらしい。

そこへきて原因の俺がこの有様だ。平謝りするしかないのだが、その八つ当たりではないかとも思われる怒りは収まらない。

…料理が冷める、などと考えていると後頭部を引っぱたかれた。

「わかった本当に悪かったよ。埋め合わせは必ずするから。もう勘弁してくれよ」


大げさに溜息をついてみせるオルビア。

直後にさっきより力強く後頭部を引っぱたかれた。

「あぁ。もういい。わかった。もういい。本当に貸しだからな?これで取引に影響出たらお前がうちのボスに謝れよ?」

疲れきった顔で吐き出すように言う。事実、本当に疲れているのだろう。

力なく近くにあった椅子を引き、俺達のテーブルに同席する。


「それとな、何度もここに来たのは他にも用事があって。一緒に行った若い子達いただろ?

途中で殺されちゃったあの子の分、うちのボス珍しく払うって言い出してさ。」


通常、任務の完了まで生き残れなかったものに報酬は無い。

残ったものにそれを等分するなどと言うことになれば、隙を見て仲間を殺すような奴が出てくる。

また、任務が完了しても支払う相手が居ないとなれば依頼者は費用を払わなくていい。

そして何より、彼女のボスは必要以上の経費を払ったりするような奴ではない。これはオルビアの弁だが。

その様な状況で、非常に珍しい事だった。


「ほぼ任務完了していた状況で、相手は若い奴ら。ギルドの方から頼まれたらしい。

どうも、受注者を増やして行きたいような意向が見える。あぁ。戦争でもやるのかな」

勘弁してくれ、と言わんばかりの顔の俺に更に続ける。

「まぁそこは前提で。それを死んじゃった子の仲間の彼らに伝えに行ったのさ。そうしたら「僕が今生きているのはお前のお陰だからその分はあの人に払ってくれ」だってさ」

「いや、それは受け取れないだろ。どう考えてもあいつらの方が資金が必要に見える」

「そう言うと思って、私からもよく言ったんだけど聞かなくてね」

「参ったな…。どこにいるんだ?直接話す」


オルビアは、だろうね、とでも言いたげな顔をし、

「あの子の葬儀、今日簡単にやるんだってさ。でね、場所まで聞いた。あんたならどうした?」

「費用を代わりに払っておくとか。共同墓地だろ?大した物は無理だろうが、墓作ってやるかな」


オルビアはさらにふんぞり返った。

「そう言って、払って来た」

驚く表情の俺に、彼女はもうひっくり返ってしまいそうだ。背もたれが軋んでいる。

「ありがとう、俺ならそうしたよ。だが、間に合わなかっただろうな。」

「これも貸しだからな。取り敢えず、昼飯を奢れ。」

言いながら厨房の方を向き、手を振る。


結局、レイスはばたばたとした会話に一度も口を挟む事も出来ず俺とオルビアの顔を交互に見て困った顔している。


気だるく過ぎる「草原の息吹亭」の昼下がりだった。






「所でオルビア。この後暇か?」

「いや、帰って寝るのに忙しい。明日は休みだから服でも見に行こうかと思ってんだけど」

何の気なしに言いながら。しまった、というような顔をした。

口の前でフォークが止まっている。

「あのさ。

「いやいや駄目だ、寝るんだ。私は寝る。よく働いた私は寝る」

「……。」

「……。」

ちょっとした沈黙が流れる。

「頼むよ」

「あぁ。本当に貸しがどんどん溜まるな…」

頭を掻きながらオルビアがぼやく。


状況が理解できていないレイスに説明する。

「今から服を買いに行こう。俺にはよくわからないから、彼女に選んでもらうといい」

「いえそんな…私は大丈夫です。今着ている服もあります」

薄汚れたドレスの胸の辺りを撫でながら言う。

「いや、色々思い出すだろ?何着か選んでもらって気分を変えるといい。

そんなに贅沢なものは買えないけど、それ位はさせてくれよ」

少し考え込み

「…はい」

俯いた、少し嬉しそうなレイスを見ながらオルビアが声を出さずに、へぇ…とでも言い出しそうな顔をしている。


「ちょっと着替えてくるから待っててくれ。あとレイス、オルビアがそれ残さないで食べるか見張っててくれ」

彼女の皿の上の人参を指差し、背中にうるさいという声を聞きながら2階に上る。


流石に薄手のシャツ1枚で、服屋が立ち並ぶ中心部に向かうのは気が引ける。

薄手の上着を羽織り、レイスの服の購入資金を引き出しから取り出した。

自分の服のくたびれ具合を確認し、自分の服も買い換えようかとも考えたが。…面倒なのでやめた。

後ろ手に部屋の扉を閉め1階に戻る。



階段を降りきると、先程まで座っていた席でオルビアが盛大に口から茶を吹き出していた。

レイスはそれを見て驚いておろおろしている。


何をやっているんだ。


厨房で布巾を数枚借りてテーブルに戻る。

げほげほと涙目で咳き込むオルビアと、やはりおろおろしているレイス。

取り敢えず、オルビアに布巾を渡すと懸命に口を押さえてなおも咳込んでいる。

レイスにテーブルを拭くように指示し、俺もテーブルを拭こうとした所で涙目のオルビアが表に行っていろ、と手をひらひらさせる。


「何してるんだよ…」

つい口から言葉が出てしまいながらも、宿の外へ先に出る。



通りを行く人を見ながら待っていると、

「死ぬかと思った」

オルビアがくたびれた顔で出て来た。

「あの、本当にすみません」

謝るレイスにいいからいいから、と力なく手を上げる。


「何してるんだよ…」

もう一度、口から言葉が出た。

だが、彼女達の間のわだかまりというような雰囲気が大分薄れているのを感じた。

元々オルビアは人付き合いの垣根をすぐに取り払える人間だ。

外見の美しさもあり、人に好かれやすく、頼れる相手も、頼られる相手も多い。

レイスも多分、頼りやすいだろう。



「さぁ、行こうか」

疲れた表情のオルビアを先頭に、俺達は町の中心部に向かった。




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