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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その4
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ヴァンゼル家04

レイスと西門に向かい歩いている。


これからまず俺達を含むギルド高ランクの者が先に合流し、パドルアを横切って東門でアレンの息がかかった者と合流する。


欠伸をしながら歩く俺の脇あたりをレイスが小突く。

昨日あまりにもだらだらとし過ぎたせいで、まだ少し体が重い。


「リューン様、…大丈夫ですか?」

「あぁ大丈夫。ちょっとだらけすぎた」

「その調子で長い休みなんて取ったらどうなっちゃうんですか…」

彼女の言う事は尤も過ぎて返す言葉がない。

少しこんな調子で休んで彼女の様子を伺うつもりだったが、流石に何もしなさ過ぎた。

昨日は昼前に目が覚めたものの、そのままベッドからでることもせず、必要な時以外は一切動かなかった。

レイスも呆れた顔をするのに飽きた頃、西門に到着した。



既にそこで護衛対象を待つ者達と合流する。

こちらを見つけたスライが手を振るのに、けだるく手を挙げて返した。


「よう。なんだお前鎧変えたのか?」

それを聞いて近くにいた銀髪の弓使いが笑う。

「やっとあれ変えたんだ、流石にもう元取ってるだろ、ってたまに話に出てたよ」

銀髪の弓使いヒルダ。元は王都の正規軍にいた彼女はいつの間にかランク5になっていたらしい。

その他に3人の冒険者がいるが、俺達2人以外の全員がランク5なのだろう。


「あれ。あんたってランク3か4とかじゃなかったっけ?」

ヒルダの質問に苦笑する。

「ご指名でね。足引っ張らないように気をつけますよ」

「なんだそりゃ。まぁあんたなら問題ないだろうけどさ」



そんな事を言いながらヒルダは他の仲間の所に行ってしまった。


「で、お前の言っていた残りの仲間は?」

そう言うスライに答える。

「あいつらは東門で合流することになっている。一応、俺の昔の仲間って事になってるから宜しくな」

「お前の昔って傭兵だった頃か?まぁ適当に合わせるからいいけどな」

「あぁ。こんな事あまり細かく決めても仕方ないからその程度にしておいてくれ」



残る皆に念の為レイスを魔術師だ、などと紹介しているうちに、

遠くに揃いの鎧を身につけた集団が見え始めた。



…あれだろう。

皆が無駄口を叩くのをやめ、騎士達と豪華な馬車が到着するのを待つ。


門から少し離れていた所で彼らを待っていたグラニスの前で一団が止まる。

先頭の馬の若い騎士がグラニスと少し話し込む。

こちらを指差すグラニスに頷き、再び一団は動き始めた。



待っていた俺達の前で再び止まった一団の先頭。若い騎士が馬から降り、こちらに向かって歩いてくる。

まっすぐこちらを見ている様な気もするが。

そのまま俺の目の前に歩み寄った騎士はこちらから目を離し、スライに向き直った。

「お久しぶりです。スライさん」

あっけにとられる俺、いや恐らくその場の全員の視線を浴びながら面倒臭そうにスライが答える。


「あー、久しぶりだな。どうだ、最近は」

「どうも何もないでしょう。いつになったら

「まぁそんな話は後でいいだろ。急ぐんだろ?さっさと行こう」

言葉に眉をひそめ、目の前で大きく手を振る。


「わかりました。あと、こちらの方がリューンさんで間違いないですか?」

「そうそう、こいつだ。まぁ後で色々と…

「時間もないので、すみません」

こちらに向き直る若い騎士はスライの言葉を遮り、こちらに敵意にも似た感情を叩きつける。

「…なんだ?」

少し狼狽する俺の目の前で、その右手が腰に吊られた剣に伸びる。



考えるよりも先に体が一歩下がる。


…俺の右後ろにレイスが立っていた筈だ。

反射的に彼女を庇う右手を広げていた。



引き抜かれた白く光る刀身が青年の手元で翻った。

小さな弧を描く軌道の先端を、顔のすぐ左で小手が受け止める。


彼女の位置がわからない。

この状況になった理由はわからないが…振り向く時間は貰えないだろう。


訳のわからない状況に対する少しの怒りと、これ以上は後ろに下がるべきではないという判断。

火花を散らしながら青年の手元に引き戻される剣を追う様に、今度は一歩前に出る。


前に出る俺を意にも介さず再び翻る刀身は先程より早い。

再び左の小手が火花を散らしながらそれを受け流し、体を回しながら右手を突き出す。

恐ろしい程の速さで手元に戻る刀身が俺の右手を払った。


…やり手だ。普通に戦ってもいい勝負かもしれない。

しかしそんな事より。一体何だこいつは。


目の前の青年は両手で持ち直したその剣を下段に構え直す。


「おいっ何やってんだお前!」

すぐ横に立っていたスライが怒声を上げるのとほぼ同時に、青年は後ろに2歩跳躍した。

今まで青年が立っていた石畳に氷の槍が突き刺さる。



背中から怒気のこもったレイスの声が響く。

「次は当てます」

振り向かなくても分かる。

彼女の怒りの表情を思い出し、そして同時に負ける筈がないという事も思い出す。



そして俺と距離を取った青年は。

…何もなかったかのようにその剣を腰に納めた。



深々と頭を下げる。

「すみません、時間がなかったので聞いていた腕を確認させて貰いました」


あっけに取られた。

護衛対象を待っていたら、それに切り掛かられる。しかも街中だ。

あまりに現実離れした状況に今まで動けずにいたギルドの者達が今更になってこちらに近づいてきた。

その目には戸惑いと、やはり怒りの炎が浮かんでいる。

依頼の間だけとは言え、同じ目的で集まった仲間が突然切り掛かられて気分のいい筈もない。


頭を下げていた青年が顔を上げる。

「本当にすみません。でも私達は…失敗する訳にはいかないんです」

その表情から見るに、言葉に嘘はなさそうだが。



「…あぁ、もういい。だがこういうのはもうやめとけ。あれが本気だったらもう死んでる」

後ろに立つレイスを指差し、未だ怒りに燃えるその顔に軽く笑い掛ける。

それに不満そうな顔をする彼女がその右手を下ろした。


「あれとかそれとか言わないで下さい。何なんですか…」

俺に八つ当たりするレイスが歩み寄るのと、肩で息をするグラニスがこの場に到着するのは、ほぼ同時だった。




「クレイル!お前、何をしている!」

グラニスの怒鳴り声が響く。

「グラニスさん、すみません。でも私達は失敗できない。非礼は承知の上です」

非礼は承知などと言いながらグラニスにも頭を下げている。


クレイルと呼ばれた青年の後ろの騎士達。

彼らは何を言うでもなく、その様を眺めていた。

この行動は折り込み済だという事だろう。



「ふざけるな、彼らは…

「グラニスさん、別にいいです。確かに俺は皆と比較してランク付けも下位です。

確認したくなるのも分からなくもありません」

苦笑して見せ、とりあえずこの場を納める。

「リューン、本当にすまない。こいつは腕は立つのだが…色々と手段を選ばない所があってな」


「お前達も気にしないでくれ。命を掛けるんだ、試して貰って差し支えないだろ」

意図を理解したギルドの者達も軽く溜息をついていきり立った雰囲気をといていく。

とりあえずこんな所で見世物みたいな真似をするのは早くやめにしたい。

1人俺の後ろで未だ怒りが収まらない風なのもいるが、まぁいい。


「そんな事より早く出発しよう。グラニスさん、一応紹介をして頂けませんか?」


俺に切り掛かった青年はクレイル・フェランと名乗った。

出来ればこいつは…囮ではない方に割り振って欲しい、などと思いつつ尋ねる。


「グラニスさん、肝心の護衛対象は?」

馬車の方へ視線をやる俺に、グラニスが俺に小声で答える。


「一度家に寄り、そこでミネルヴと騎士の半数に残ってもらう。今晩はそこで泊まり、お前達の1日遅れで出発する。

出来るだけ集まる刺客を片付けてくれ」

「なるほど。じゃあ街から出るのは少し派手なくらいでいいですね」

「そうかもな。意図しなくても騎士の鎧は目立つが…」


「囮の彼女にはパドルアを出てから自己紹介をするように伝えてある。彼女はミネルヴの侍女だ。

こんな話も何だが、重要度は低い。しかし良く出来た娘だ。出来るだけ守ってやってくれ」

「それは…囮か本体かなんてのは関係なく守ります。大丈夫です」


先頭を行くクレイルの声で囮の一団は歩き出す。

グラニスの家で荷物を積み込む体でミネルヴと残る騎士達、そしてグラニス本人とも別れ、東門でアレンの手勢、そして人数分の馬と合流する。






「よう、久しぶりだな」

気さくに声を掛けるこいつの顔を、俺は知らない。

「あぁ。元気だったか?」

取り繕う俺の顔は必死だっただろう。


彼等の1人は、先日アレンの家の前で見張りに立っていた者だった。

俺の表情を見て苦笑いしている。


その彼を含め、皆それなりに使い込まれた装備を身につけている。

僧侶は高位の者が身につける法衣を着ていた。


一体どういう集まりなのかもよく分からなかったが、アレンの言うとおり皆それなりの手練れなのだろう。









馬車1台。

騎士6人。

スライを含むランク5の冒険者が5人。

アレンの手勢が7人。

そしてランク3,2の冒険者が各1人。…俺達の事だが。


合計20人の護衛に守られた豪華な馬車は、昼前にパドルアを発った。


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