ヴァンゼル家03
食事を終えて部屋に戻り、今日の昼別れてからの出来事を説明する。
殆どがアレンの所での話だったが。
その上で、俺の中での今の所の結論を述べた。
安全とは言い難い。しかし、恐らく無事終えられるだろう。
スライがこんな情報は無かったにも関わらずこの護衛に加わる、という点だけが別の意味で疑問だが…。
明日にでももう一度訪ねてみよう。
ベッドに座るレイスは床に視線を落として考え込み、再びこちらに視線を戻した。
「私も大丈夫だと思います。でも、判断はリューン様にお任せします」
「わかった。それじゃあ基本は請ける方向で、一応明日スライの所へも行って話を聞こう」
「はい。…私も一緒に行っていいですか?」
「あぁ、一緒に行こう。今日はごめんな」
嬉しそうに頷く彼女の頭に手をやり、この話は仕舞いにする。
他愛も無い話を暫く続け、今日は早めに眠る事にした。
翌日。
再び友人の家の戸を叩く。
「あーい誰だーこんな朝から」
やはりいい加減な言葉を吐きながら、よく知る金髪が顔を出した。
「よう。エプロンつけてないのか?」
「そこかよ…」
呆れた顔をして家の中へ案内するスライについて上がりこむ。
階段の上から感じる視線に軽く手を振り、再びテーブルに着いた。
「まぁなんだ。グラニスさんから聞いたか?」
欠伸をしながら聞くスライに答える。
「ああ。他にも色々とな。それで、俺達も同行しようと思っている」
その答えにスライは意外そうな顔をしている。その顔に更に質問を重ねた。
「一番疑問なのは、何故お前がこの仕事を請けているのかだ。明らかに分が悪いじゃないか」
昨日得た情報を話す前に、一度聞く。
少し考えるような素振りを見せるスライは、しかしおどけたように答えた。
「それはお前もだろうが。俺には俺の事情があるんだって」
何か答えたくない理由もあるのだろう。しつこく聞くのはどうかと思い、こちらも把握している事を話す。
「スライ。実は暗殺を請け負っている集団の、商売敵の方に縁があってな。
そこから護衛を引っ張れそうだ。多分、お前が思っているよりずっと安全にいけると思う」
「はぁ?お前いつからそんな怪しいのとつるむようになったんだよ…」
「俺の都合じゃない。奴らがそうするってのを聞いているだけなんだけどな」
「まぁ、頭数増えるのはいいんだけどな。所でやっぱレイスも一緒に行くのか?」
スライが視線を動かした先でレイスは軽く頷いてみせる。
その顔は少し微笑み混じりだ。
スライはそれを見て軽く溜息をつきながら何かぼやいていた。
「まぁお前達が居るのは心強い。だけど危ないと思ったらさっさと逃げてくれ。こんな話、最後まで付き合う必要は無いだろ」
何か考え込むような表情のスライに再び同行する理由を尋ねたい気持ちを抑えながら、俺達はここを出た。
「リューン様。何か訳があるようですけど…」
「あいつにも色々あるんだろ。そのうち話すだろうから今はほっとこう。…グラニスさんの所に行く。返事を待ってると思う」
養成所への道を歩く。
昨日と同じようにグラニスは養成所にいた。
「グラニスさん、昨日の話、受けますよ。いつも世話になってばかりです。たまには恩を返したい」
「…そうかすまない。だがなぁ」
浮かない顔のグラニスが少し考え込み話し始める。
「やはりどうも刺客が手配されているようだ。それでな、
「ここから囮を先行させる、ですね?」
驚いた顔でこちらを見るグラニスに続ける。
「それで俺達はその囮の方に付く。その刺客の商売敵から話を聞きました。丁度いいので手勢もつけてもらえる、との事です」
「なんだと…。お前どこでそんな事…」
「それは兎も角、こんな事まで情報が流れている。出発はいつですか?あまりゆっくりしているべきではないと思います。
とはいえ、ここでこんな事を言っていても仕方ないんですが…」
そういう俺に、更に顔を曇らせたグラニスが答えた。
「出発は明後日だ。お前の言う通り情報が漏れすぎている。…それで急いで出発したらしい。今もこちらへ向かっている筈だ」
俺は…。またレイスと顔を見合わせていた。
アレンの所へ歩いている。
やはり気が進まずレイスは一度宿に戻ってもらった。
人数を出して貰えるとは言っていたが、こんな急で何人が同行出来るのだろうか。
見張りに昨日と同じ言葉を伝え、再び2階へと上がる。
やはり昨日と同じようにアレンの正面に座る。
「待っていたぞ。どうやら急ぎらしいな」
「またか。どこまで知っているんだよ…」
「大体の所はな。明後日、東門で合流させる。
話が急なもので人数は7人だがそれなりの腕の者を選んでおいた」
「…昔の仲間って事で話を合わせればいいんだな?」
「ああ。適当に合わせろと言ってある。騎士の連中も半分は囮に加わる筈だ。余程の人数で襲われでもしなければ大丈夫だろう」
「分かった。あとはギルド経由で何人来るかという所だな」
「そうなるな。所で、こちらもここまでしている。少し頼みたい事があるのだが」
体が強張る。一体何を要求するつもりだ。
「そんなに構えなくてもいい」
苦笑いするアレン。
「この間も言ったとおり、俺達の目的は相手の数を減らす事にある。襲ってきた奴らは皆殺しにしてくれ。出来る範囲でいい」
「…わかった。言われなくても襲われたときはそうしている」
「そうか。ならばもう言う事は無い。精々生き延びろ」
すっかり笑みの消えた顔に見送られ、屋敷を出た。
結局、昼過ぎに宿に戻った。
レイスと遅めの昼食を取り、一度部屋に戻る。
「もう少しゆっくりするつもりだったんだけどな…」
「私はすぐにでも、って思っていましたから大丈夫ですよ?」
少し笑ってみせるレイスに大げさに溜息をついてみせる。
「とりあえず、準備しようか」
「そうですね。リューン様、そういえば鎧、大丈夫ですか?」
「あぁそうか…」
あまりに使い込みすぎた革鎧はもはや道端にごみとして転がっていても誰も疑問に思わないような有様だ。
休みを取ると決めていたので、ゆっくり選べばいいと思っていた。
「他に何か必要な物ないか確認して後で買いに行こう。今日済ませば明日は一日休める」
「どうしても休みたいんですね」
「俺はずっと休みたいんだよ…」
結局、以前に検討していた腹回りまで守る形の革鎧を買いなおした。
それ以外に買い揃える物も思いつかずその日を終える。
先程の相談で、明日は昼過ぎまで眠り午後も何もしないと決めていた俺達は、夜半過ぎに眠りに着いた。




