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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常01
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2人の日常06

茂みの中の獣道を進む。


この中で一番経験が豊富な俺は先頭を歩かされている。

レイスは列の後方、彼女の後ろに僧侶と最後尾を守る剣士が続く。

その列の人数は10人。ほぼ全員が低ランクだが大所帯だ。

相手は情報によると4人。

先日近くの街道で商隊を襲撃し、その護衛に蹴散らされた残りだという。

今まで何件同じような事をしたのかは知らないが、ご丁寧に追っ手が掛けられる。

それなりの事をしてきた報いか、今回襲った相手が悪かったかの何れかだろう。


元の人数が何人なのかは知らないが、居場所も割れており最早死に損ないだ。

彼らも自分の運命は分かっているかもしれない。




一度足を止め振り返る。


「そろそろ聞いていた場所に近づく。向こうも同じ場所で待っているとは限らない。警戒を怠るな」

列の後ろの方に見えるレイスと目が合う。

やはり少し緊張しているようだ。


こちらを見る他の視線を軽く見渡す。

その視線の殆どがランク1に分類されている者だ。

4人相手に10人、負ける訳はないとは思うが。

低位の集まりでは、恐慌状態に陥ったり功を焦るような先走った行動をし兼ねない。

あまり当てにはしないほうがいいだろう。




振り向いて先へ進む。



昨日は何もせず、ブーツを足に慣らす為に町の中を目的もなく歩き回っただけだった。

常にいつもより少し近い位置に立つ彼女に、不安と緊張がある事は分かっていた。

先程の少し緊張した表情は昨日から変わらない。

大丈夫だ、と声を掛けてやりたいところだが、

少なくとも表面上は彼女を特別扱いする訳にも行かないだろう。



警戒を怠るな、などと発言した自分が一番関係ない事を考えている事に気づき、誰にも知られず苦笑いを浮かべる。




そのまま暫く進み、2番手を歩く盗賊風の青年から声が掛かる。

「なんだか、少し近い気がします。先を見て来ていいですか?」

「分かった。…気を付けろよ」

全員の姿勢を下げさせ、真新しい大型ナイフを腰にぶら下げたその後姿を見送る。




暫くの後。

戻らない青年に心の中で別れを告げ、ゆっくりと立ち上がった。

…その視線の届かない先で怒号が響く。


舌打ちして走り出す。

先行する事を許した自分のミスだ。せめて同行するべきだった。


彼には申し訳ないがこれで逃げられても厄介だ、などと考えながら軽く踏み慣らされた程度の道を走る。

もう隠密行動には意味がないだろう。

少し後続が遅れているのを足音で確認しそのペースを落としながら目的を目指す。


木立の中、少し開けた場所に先程の青年の躯が横たわっている。

…後続は遅れてはいるが、ほんの数秒だろう。


青年の躯の下に走り寄りながら辺りを見渡す俺に、草むらから2人が同時に切り掛かってきた。

いいタイミングだったと思う。駆け出しの若者相手であれば。


相手にせず後ろに大きく一歩下がり、そこから左に駆け出す。

彼らの正面には、残る8人がぞろぞろと突入する。

混戦に近いとはいえ2対8だ。

その8人の内、前衛が4人。流石に遅れは取らないだろう。



残りを片付ける為、金属同士がぶつかり合う音を聞きながら茂みの間を進む。

左の茂みから枝を折る音が聞こえ、視線を動かす先からこちらに振り下ろされる中型剣を小手が受け流す。

その間合いの内側に踏み込まれ、恐怖の表情を浮かべるその顔を下から右の拳が打ち上げる。

…拳などという生易しいものではない。最早鉄の塊だ。

変な音を立てて空を見上げながら仰け反る男。

その正面に立つ俺の背後。

小型剣を持って隠れていた女が飛び出した。


数歩の距離。

足音で振り向き、その切っ先の軌道を読む。

払って2撃で片付くだろう。

…しかしその切っ先が俺に届く事はなかった。


俺の目の前で、その若い女は氷の槍3本に横から串刺しにされた。

走る勢いを殺しきれず俺の足元に倒れ込むその若い女の驚きと苦悶の表情。


左足が辛うじて掴んだままの小型剣を踏みつけ、腰から青白く光る刀身を引き抜く。

「悪く思うな」

誰に向けるでもない言葉を呟きながら、痙攣する女の首元にそれを突き立てた。



立ち上がりその氷の槍を放った本人を見る。

歯を食いしばり俺を見詰めるその瞳に、未だ金属音が鳴り響く先を顎で指し、自分もそちらへ走り出す。

我に返ったようにそちらを振り向く彼女を追い越し、そこへ辿り着いた時にはもう勝負はついていた。


怪我人が1人出ていたが、大した事はなさそうだ。

先行した盗賊の青年は完全にこと切れていた。

無念に見開かれたその目を閉じてやる。




立ち上がり振り向くと、茂みの前でレイスが座り込んでいた。

僧侶が最後尾にいた剣士の右肩の辺りに傷に癒しの祈りを捧げている。

それを眺めながらレイスに歩み寄り、視線を合わせて目の前にしゃがむ。


「大丈夫か?」

「…はい」


下唇を噛み少し震えるその手を握り、伏せた目を見詰める。

背中に視線も感じるが…どうでもいい。


「…大丈夫です」

小さな声で言う彼女に軽く頷き、立ち上がる。



振り向く俺から慌てて視線を逸らす3人を無視して、土に転がる目標の2人を確認する。

その顔は少しやつれているように見える。

先程の女は恐らく弓使いだろう。襲撃の折に矢を使い果たしたのだろうか。

見渡す視線の先に、貧相な矢の刺さった矢筒が転がっているのが見えた。

…焦っていたのだろう。

追っ手が来るとは思っていなかったのかもしれない。

仲間を失い、更に追っ手が来た事を理解した彼らの心情は如何程だっただろうか。


その上、レイスの覚悟の確認程度の感覚で彼らの命を奪っている。


同情はしないが、少しの哀れみを感じながらその手から其々の獲物を奪い取る。

今回の成功の確認は、彼らの武器の回収という事だった。

死体を担いで帰る事にならないのは有難い。


未だ俺を眺めているだけの3人に、茂みの中の死体からの武器の回収を指示し、

僧侶の癒しの祈りを待つ。





目標の4人を殺害。こちらは1名が死亡。

俺達は回収した獲物を手に、パドルアへ帰還した。







安い報酬を受け取り、普通の生活に戻る。

レイスはそれ程変わった様子もなく、そこまで心配する事もなかったのだろうか、などと思わされた。

しかし眠る折になると恐らく無意識に、やたらと肌の触れ合う面積を取ろうとしている。

何も感じていないなどという事はないのだろう。


次の依頼を探そうとする彼女を諌め、数日の休みを入れる事にした。


まだ始まったばかりなのだ。

焦って必死に走る必要は、ない。



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