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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その3
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リューンとレイス05

先頭を歩き、時折振り向く。


その度、こちらを見詰める視線の幾つかと目が合う。

雰囲気からして、何かあったのは護衛達にも当然伝わっているだろう。

だが、これでは輸送も護衛もあった物ではない。


そろそろ遅い昼と言える時間だ。

もう少し進んでからにしたかったが、

少し休みを入れ、この雰囲気を何とかするべきだろう。



立ち止まり、ノイスとの距離が近くなる。


「リューンさん、大丈夫ですか?先頭、変わりますよ」

「余計な詮索するな。務めを果たせ」

目も合わさず言い放つ俺に、何か言いたげな顔をしながらノイスが通り過ぎる。


馬車が近づいてきた。

上から今にも泣き出しそうな顔でこちらを見詰めるオルビアに、昼を取る事を提言する。

そんな表情でもオルビアは、やはり俺と同じ事を考えていたようだ。

「…そうだな。このままは少し不味いだろう」


見張りを2名配置し、急ぎの昼食の準備を行う。

俺は、見張りだ。行く先の道を見張る。



先程歩いていた時と風景は変わり映えせず、

全くこの行為には意味を見出せなかったが、

そうした仕事としての行為が、今は自分を満たすのに最良に思えた。


その行為に、後ろから水を差される。

「よう、お前、ちょっと行って来た方がいいんじゃないか?」

「護衛対象は馬車の周りで大人しくしてろよ」

「護衛対象は戦わねぇよ。後で値引きを要求だな」

軽口に返事をする気分ではなく、そのまま放っておく事にした。


スライがそれを見ながら続ける。

「お前、いつもどんな事しているか、話していなかったのか?」

「話していた。でも、見ると聞くじゃ違うだろう。

戦争をしていると聞いたとしても、戦場を見た事がない奴が殆どなのと一緒だろうな」

「まぁ、確かにな」

「それにスライ、お前も面倒見てる子供らに、爆裂する火球でばらばらにした相手の絵面なんて説明しないだろ」

「…それはきついな」


少しの沈黙。

それをしてみる事を想像しているのだろうか。



相変わらず、風景に変化はない。

今日は風もない。

視界に動く物は、何もなかった。



「確かに、いきなり見るときつい物があるからなぁ。俺も最初吐いたぜ確か」

「どんなだった?」

「確か今と同じ護衛の仕事でよぉ、やっぱり返り討ちにしたんだよな。

最後の1人が命乞い初めてさ。結局殺したんだけど、その後だったかな」

「…同じような絵面を出合った直後に見せたな」

思い出し、少し暗い気持ちになる。


「お前何やってんだよ…」

「あの時は、全てに何も感じていない風だった。計算外かもな」

「その後は?」

「…養成所で遊んでいる所くらいしか見せていない。あれと現実じゃ大違いだろ」

養成所裏手の土の先。建物の扉の脇にグラニスと並び、こちらを見ていた彼女の姿を思い出す。



「…お前、あの子の事話す時、すごい表情が変わるのな」

本当に、嫌な事をいう。

黙れと言わんばかりに、その整った顔を睨みつけるが、

その相手は、言いたい事は言ったとばかりに振り向いて歩き出していた。




…相変わらず、風景に変化はない。




レイスとミリアは食事を取らなかったようだ。


グラニスも見当たらないので先程スライに確認した所、

少し疲れたので、やはり馬車の上で眠っているという。

ノイスから弓兵の件を聞き、風の魔術で狙撃を防いでいたという。

護衛の1人に矢が当たったのは、不幸中の不幸、だったという事だろう。



簡易的な食事を取り、再び進み始める前に護衛全員を集める。


「俺の個人的な事情が気になるのは分かるが、それで気を散らすな。

それで何か見落とせば、そんな事気にしていられる状況じゃなくなる。

いいか?先程1人逃がしている。他にも逃げた伏兵が居たかもしれない。

もう安全などとは考えるな。いつも狙われていると思え。

じきに目的地に着く。気を引き締めろ」


全員が声に出して返事をするのを確認し、再び同じ配置に着いた。



振り返りオルビアの顔を見る。

オルビアが馬車の上で頷くのを確認し、再び俺達は進み始めた。













ひどく聞き慣れた声が、少し離れた所で何かを話している。

レイスは、その聞き慣れた声で目を覚ました。


こちらを心配そうに覗き込むミリア。

目が合い、慌てて体を起こす。その胸に今まで顔を埋めていた。


混乱する意識はすぐに先程の事を思い出し、その表情を重くした。



「レイス、ほらご飯だって」

簡易的な皿に、水分のひどく少ない、麦を蒸したような物が乗っている。


「食欲無いかもしれないけど食べとけ、ってさっきオルビアが言ってた」

「…うん」

気のない返事に、ミリアが続ける。


「先生、やっぱり強いんだな。私も…ちょっと怖かったよ」

苦笑いして見せるミリアの顔を伏目がちに見る。


「そうだね…」

下唇を噛みながら、レイスはミリアに答えた。



やり取りの最中、馬車は再び動き出した。



彼がこういった戦いの場にいる事を、知らなかった訳ではない。

むしろ、よく知っていたと言うべきか。


深く考えなくても、戦闘するという事は、命を奪う行為だという事くらいは分かる。

少しの想像を働かせれば、その凄惨な場面も少しは想像できる。

リューンは恐らくそこに考えが至らないよう、直接的な表現を避けていたのだろう。



レイスは思う。


恐怖の視線を叩きつけられ、リューンはどう思ったのだろう。

後悔。悲しみ。怒り。諦め。

視線を逸らしてしまった彼女にはそれを推測する事しかできないが、

幾ら考えてみても、それは分からなかった。



「謝らなくちゃ…」

口を突く言葉。

しかし先日からの軋轢は、その踏み切りをひどく遠くした。


「なぁレイス、私、夜にでも様子見てきてやるよ。そういう事だろ?」

「…ありがとう。でも、何て言えばいいか、わからない」

「まぁ…夜までに考えよう。実は私もなんて声を掛けるか考えてる」

笑ってみせるミリアにレイスも笑い返す。


2人は、リューンをして尋常ではないと言わせる味の食事を、

眉間に皺を寄せながらも、しっかりと腹の中へ納めた。


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