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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その3
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リューンとレイス04

レイスは迷っていた。


出発の前日からリューンと口論になり、そこから7日が過ぎたにも関わらず、

そこから一度も会話という会話をしていない。


ミリアは気遣い、リューンに何か言ってくれたようだが、話にならないという表情で戻ってきた。



これでは、毎日苦しいばかりだ。

一緒に王都に行く。

それだけで飛び上がるほど嬉しい筈だった

それが今は、その背中だけを眺めてただひたすら歩いているだけだ。



いっその事、もうあんな事は言わない、ごめんなさい。そう謝ってしまいたかった。



だが彼女は、その為に今まで必死に魔術を習得し、その技を磨いてきた。

それが使えないとなれば、自分に何の価値があるのか。

何の価値もない自分は、リューンの本当の意味での足手まといにしかならない。


最早、生かされているのが奇跡であるとも思えた自分を、リューンは守ってくれた。

そしてその命を掛け、生きていく為の費用を稼いでいる。


どうすればいいのか分からない。


ここ数日、ミリアもオルビアも必要以上に話しかけてくれた。

そのお陰で、思考が暗い闇の中へ至るような感覚は回避できている。

しかし、何も解決はしていない。


どうすればいいのか分からない。


ただ、その背中を見詰めるしかできないのだろうか。

王都に着けば何か変わるのだろうか。





…そして、その時を迎えた。





スライが笑顔でこちらに歩いてくる。

あの幸せそうな笑顔を、少しでも分けて欲しい。


そう思ったレイスに、オルビアが声を掛ける。

「もう少しこっち歩いて。ちょっと歩きづらいんだ」

何を言うのか。今までと歩いている場所は変わらない。

ミリアと顔を見合わせ、意味が分からないといった表情で指示に従い、馬車のすぐ近くに寄る。



何を意図していたのか、それはすぐに分かった。


先頭を歩いていたリューンの前に立ち塞がる3人。

後ろを振り向く、そこにも3人。


…理解が追いつかない。

そう多分これは、いつか聞いた。野盗、襲撃、敵。


オルビアが馬車から降り、レイスとミリアの手を引く。

「大丈夫だ、流れた矢が当たるのはうまくない。ここで動かないで居よう。それで、大丈夫だ」

オルビアには、焦っている様子がない。

ミリアは明らかに動揺し、あたりをくるくると見渡している。


自分は。

膝が先程から笑っている。

…どうすればいい。

その思考は全く無意味だった。

何も出来ようが無かった。

手が、がたがたと震えている。




ノイスと名乗っていた青年がこちらに向かって駆けてくる。





それは、その向こうで展開された。



恐らく自分がこの世で一番よく知る人。

一番、やさしいと思っている人。

そして、自分の全て。



そこで展開されたのは、

そのリューンが、瞬く間に、命を刈り取る姿だった。

振り下ろされる剣を受け止め、その首を切り飛ばす。

その横顔。

何の表情もなく、たがの外れた獣のように死を撒き散らす。



オルビアが一度こちらを見て、何か叫んでいる。


逃げる獲物を狙う事をやめたそれは、次の獲物を仕留めに森の中へ駆け込む。

森の中から女のくぐもった悲鳴が聞こえる。


…もう限界だった。


その右手が、懸命に耳を塞ごうとする。

しかし、彼女にはその塞ぐ腕が1本足らない。

それを見たオルビアが、レイスを抱きしめる。



あんなに優しい。

文句を言っても、大概の事は受け止めてくれる。

何より、自分を絶望の淵から救ってくれた。

そのリューンが。

死を振りまいて駆け回っている。

先程とは違う震えが止まらない。



ほんの数刻で戦いは終わりを告げた。

矢に足を貫かれた護衛の一人が、足を押さえてうずくまっている。


オルビアがその手を離し、

ミリアがこちらを見て、その震える右手を、強く握ってくれた。



森の中からリューンが歩いてくる。


その姿は、自分がよく知る者なのだろうか。

全く表情が読み取れない。

肉食獣が、獲物を狙うようなその目付き。



オルビアが駆けていく。

その向こうで、リューンがこちらを見た。

…視線が合う。


レイスは恐ろしかった。

それが、何かひどく異質な物に見え、思わず目を逸らす。



ミリアの胸に顔を埋める。

…もう、何も考えたくなかった。








荷馬車の荷台で、そのままミリアは泣き始めたレイスを抱きしめていた。

幾許かの間も空けず、馬車は動き出す。


レイスは、そのまま泣き疲れ、眠りに落ちた。


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