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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その2
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遠い空12

翌朝から、再び同じ毎日が始まる、筈だった。


結果を端的に言うと。

俺はビュートがどこまで成長したのか、それを見届ける事は無かった。




昨日同様集まる俺達に、グレトナが告げる。


「昨晩、ギャロウェイを含む2つの町を襲撃した傭兵団共の居場所が判った」

…一度俺の方を、見た。


「俺達は、奴らを殲滅するため、出発する。繰り返しになるが。

略奪の報いを受けさせろ!正義の鉄槌を下す!」


数人が立ち上がり、それに促されるように、皆が立ち上がる。

皆、その表情は昨日までのそれとは違う。

本当の戦いを受け入れる、緊張した面持ち。


俺は。

その輪の外でその様を眺めていた。

別にその傭兵団達に、どうと言う気持ちは無い。

単純に、彼らに同意していい物か。

やはり俺は異物なのだろうか。

ゆっくりと立ち上がり、彼らの背中を見る。


その中で。ビュートが振り返り、こちらを見ている。

伺うような、困ったような顔。

…レイスが、時折見せるような。

俺と目が合うと、彼は再び前に向き直った。

グレトナが今日出発して以降の予定を説明している。





部隊の皆が準備の為に立ち去ると、グレトナがこちらにやってくる。

「リューンよ、こういう事になった。昨晩話そうとも思ったが、どうも話しこんでいる雰囲気があったからな」

「いや、気にしないでくれ。かたきを討つ。当然だろ?」

「ああ。お前の宿は町の中に用意した。商隊が出発する前に、お前に繋ぎが来る。パドルアまで片道の護衛を受けろ」

「…。すまない」


「短い間だったが、俺は楽しかった。次に合うときは敵同士かもしれない。その時は…本当に手加減しないからな?」

「縁起でもない事を言うな。俺はまだ死にたくない」

苦笑いしてみせる俺に、グレトナが右手を突き出す。

黙ってそれを握り返した俺は。


「グレトナ」

「なんだ?」

「俺も…

「駄目だ。お前の国の連中だぞ?

お前が傭兵が嫌いなのは何となくわかった。だがな、俺の国の事にお前が手を出す必要はない。

それにだ、ここでお前に死なれでもしたら後味が悪すぎる」

「グレトナ、俺も、お前達の中に死人が出るのは後味が悪い。犠牲無しという訳には行かないだろう。

一緒に行けば、1人でもその犠牲は少なく出来る。お前には敵わないだろうが、俺は決して弱くは無い。そうだろ?」

溜息をついて下を向き、頭をぼりぼりと掻くグレトナに続ける。


「それにだ、死んだ筈の人間がここまでして貰っている。その恩くらい、返させろ。

でないと、もし次にお前に戦場で会った時、俺は手を抜かないとならないだろうが」


「良く言うぜ。手抜きなんて出来る状況かよ…」


沈黙するグレトナ。

考え込んでいるのだろう。


「商隊はどこ通るんだ?帰りに途中でそっちに合流させてもらう。

本当に、そこまでだ。それでいいだろ?」


一際大きい溜息をつくグレトナが顔を上げた。

「わかった。そうしよう。実の所な、お前が居れば心強いのは確かだ」


再度突き出された右手を握り返す。


「頼むぜ、相棒」

「任せろ」

グレトナから相棒と言う言葉が出て来た事に驚きながらも、気分は良かった。






自分の荷物を纏めに部屋に戻ると、同じく荷物を片付けるビュートと顔を合わせる。

俺に気付き、深々と頭を下げる彼を制止し、俺も同行する旨を伝える。

喜びとも心配ともつかない表情をするビュートに苦笑いを見せ、自分も準備をはじめた。


荷物を背負う。

ビュートも丁度部屋を出る所だ。

「リューンさん、本当に一緒に行くんですか?」

「ああ、邪魔だって言うなら考えるが」

「邪魔なんて。…大丈夫なんですか?」

「お前らの中から死人が出るよりは余程マシだ。出来る事をやるさ」

「そうですか。でも、あの時のような事はしないで下さいね。僕も、僕達もきっとそれは本意じゃない」

恐らく、当初出会った時、グレトナを足止めする為に少人数で乱戦に飛び込んだ事だろう。


「別に俺も自殺願望があるわけじゃない。無理はしないさ」

…その無理の結果が今である事を思い出し、レイスに心の中で詫びながら、部屋を出た。



西門。

そこに集まる兵達の中を異物が歩く。

こちらを見て驚く者。

理解しかねる、といった顔をする者。

彼らに笑顔で答え、その中でグレトナの出発の声を待つ。


一段高い馬車の上、グレトナがその右手を上げる。

ロシェルが馬車の下で、彼を見詰めている。



出発の声がかかり、俺達は歩き出した。








先日、全てを燃やし、放棄された村。

その南。マルト聖王国の勢力圏の外れに、彼らは野営しているという。

放っておけば、それなりの規模の、たちの悪い野盗となっただろう。

何とかパドルアにでも戻りつければ、彼らも命を落とさなかったかもしれないが。


ここから直線で2日もあれば、近くまで辿り着く。

その後、俺が捕虜になった町に戻り、そこで商隊の護衛に移り、皆とはお別れだ。

…別れの挨拶は、少しでも多くの者と、交わしたい。








何事も無く2日が過ぎ、翌朝。斥候が戻る。

再度概ねの場所、戦力が確定された。

…奴隷を連れているという。あの町の住人だった者だろう。

怒りが伝染する中、一際強くそれを憎む感情を湛えている事を自覚し、

冷静さを失わないよう、自分に言い聞かせる。

あの時のように、冷静さを取り戻させてくれる魔術師は同行していない。


概ねの作戦が伝令された。

何のことはない。殲滅戦だ。

この先の森の中の開けた所で野営しているので、3部隊に分かれて挟撃する。

中央。獣道を突き進む騎兵。グレトナがそこに加わる。

右翼、左翼。森の中を抜け、騎兵が急襲した彼らを更に左右から叩く。


俺はその右翼の部隊に加わり、森の中を早足で歩く。

森の切れる先、少し光が差し込む場所が確認し、皆しゃがみ込み騎兵を待つ。


幾許かの間も開けず。

騎兵の突き進む地鳴りが聞こえ始めた。

戦いの怒号と悲鳴が聞こえる。


「行くぞ」

誰と無くあげた声が合図になり、俺達は走り出す。

騎兵の駆け抜けた後をグレトナが、やはり散歩でもするように、汚い身なりの傭兵達を切り伏せていき、

その後に続く兵達が扇状に広がり、効率的に”片づけ”を行う。

恐慌状態に陥り、逃げようとする彼らの前に、右翼左翼に展開した俺達が森の中から姿を現す。

突破しようとこちらに切り掛かるその剣を、左手が受け流し、右手がその顔面を陥没させる。

…少なくとも、1対1ならば相手ではない。


それなりの数の傭兵に、包囲しつつも若干乱戦気味だ。

すぐそこで。ビュートが切りつけられる長剣をかわし、一気にレイピアを突き立てる。

根元まで突き刺さり、その左胸を貫かれた傭兵がビュートに掴みかかり、

その背後から別の者が切り掛かるのを蹴り飛ばす。

「もっと浅く突け。突く時よりも引く時に早く、だな」

「…はい」

引きつった顔でレイピアを懸命に引き抜くビュートの背後を守る。


俺と、ついでに体格の小さなビュートを纏めて屠ろうとした間抜けな斧使いが、

その斧の握り手を蹴り飛ばされ、地に落ちた斧を再び拾う事無く命を落とす。


辺りを見渡すと、殲滅戦に相応しい血みどろの地が広がっている。

その大半は目的の傭兵団のものだが、しかし、それが全てではない。


ようやっとレイピアを引き抜いたビュートを後ろにつけ、

略奪者達の群れを切り開いて進む。


槍を受け流し、その首をへし折る。

切り掛かる剣激を、はじき返す。切り返し、その受け止める剣ごと首を刎ねる。

気がつけば、俺の後ろにも扇状に”片づけ”をする流れが出来ていた。



幾許かの時間も掛からず。

俺達はその目的を終えた。




おびただしい数の死体。

その中から味方の物を引き上げる。


涙を流す者。

無表情に淡々と作業を続ける者。


数人の生き残りに止めを刺して回る姿を、座り込んで眺める。

正規兵ではない彼らに、捕虜の交換や、戦争のための協定などは適用されない。

あの時の俺と同じように。


疲弊しきった、かつての町の住人数人を保護された。

…その憔悴しきった表情。

まともに歩けないほど衰弱した青年。

空ろな表情で肩を貸され、馬車に歩いていく女。

仮に、奴らにその協定などが適用されたとして、それで生かしておく気持ちになれただろうか。



「よう、生き残ったな」

努めて明るい表情を見せるグレトナ。

内心は怒りとも悲しみとも着かない気持ちで満たされているだろう。

「まあな。お前と比べたら相手になる奴なんて1人も居なかった。」

「そうかよ。まあいい。もう片付くだろ、このまま予定通りソルテアに向かう」

「ああ。わかった」


「恩は返されたからな?」

「…わかった。これで貸し借りなしだ」

突き出す拳に軽く拳を合わせ、グレトナは再びこの現況の収束に戻り、

俺も、彼らと一緒に行う最後の仕事を手伝う事にする。




昼過ぎには、俺達は再び移動を始めていた。

俺が捕虜になり、彼らと出会った街。

そして、別れの地。



夜には到着するだろう。

その足は決して重くはない。


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