表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その2
45/262

遠い空11

俺はグレトナを探し、宿舎と訓練場を歩き回る。

結局、さんざ歩き回った後、訓練場の出入り口に外から戻ってくるグレトナとロシェルをやっと見つけた。



「よう、何やってんだこんな時間に」

お前を探していた、というのも癪な俺は端的に告げる。

「明日、済まないが午前中は抜けさせて貰う。やはりあいつはレイピアなんかが向いていると思う」

そういう俺に、グレトナとロシェルが顔を見合わせ、困ったように笑い出す。


「…なんだよ」

「いや、だってお前…」

2人に苦笑され、それが収まるのを黙って待つ俺にグレトナが続ける。


「悪いな、丁度その話をしていたんだ。あぁ、ロシェル、先に帰っていろ」

ロシェルは少し不満そうな顔を浮かべながらも軽く頭を下げ、俺達に背を向ける。


「で、なんだよ」

不満顔の俺にグレトナが続ける

「ビュートがお前について回ってるのを見てると、

家の事とか無ければ、一緒にパドルアに送ってやったらおもしろいだろうな、と話していた」


「…意味がわからないんだが?」

「何でだ。修羅場だよ、子供相手に」

そう言って再び苦笑する。


「子供相手だと自分で言ってお前。というか、お前、ロシェルに話したのか?」

「あぁ悪いな、つい」

「お前…最悪だろ…」

呆れた表情をする俺。


「そんな怒るなよ、悪かった。…あいつは口堅いから大丈夫だ。

…死んだと思っていた連れが、若すぎる女連れて帰ってきたら最悪だろうな、って話をしていた」

「…趣味が悪いな」


「それで、悪趣味だからこういう話はやめよう、って所にお前が現れたんだ」

「……。」

「だから悪かったって。侘びじゃないが、いい話も持ってきた」

相変わらず不機嫌そうな顔をする俺に、グレトナが言う。



「多分、10日後に1発目の商隊が出る。状況が分からないから護衛多めに着けるって話だ」



俺は思わず、その姿勢のままで硬直してしまった。

「…それは、決まったのか?」

「いや、まだ決まりじゃねぇ。もう少し状況を見て、だな。

だが、概ねその頃には出られるだろうという見通しで動いている」



俺は。

パドルアに戻れる。

レイス。

もうオルビアはパドルアに戻りついているだろうか。

手紙は、5枚のうち、1枚でも届いたのだろうか。

色々な考えが、頭の中を巡る。



「グレトナ、俺は」

「その便が出る場合には、俺に声が掛かるようにしてある。大丈夫だ」

「…すまない」

「まぁ気にするな、俺はお前がここへ来てくれて良かったと思っている」

いつものように、にやりとするグレトナに返す



「でもさっきのは悪趣味と言わざるを得ないな」

「だからお前の間が悪いんだって…、いや、すまん」








翌朝、俺とビュートは、訓練場を出て城塞都市キンロスの武具店に向かう。

「本当にすみません、色々教わるばかりかこんな事まで…」

「あぁ、別に気にするな、こっちの武器の流行りも気になる所だったからな」


しかし2人とも勝手が分からず見当違いの所をひたすら歩く羽目になり、

結局そういった店が集まる区画についたのは、頭上の太陽が真上になった頃だった。


「…やはり戻りましょう」

「いや、もういいだろ」


時間が気になるので戻る、と主張するビュートに、

ここまで来たのだから用を済ませよう、という俺の主張が勝ち、結局、数店の武器店を巡る。


武器にも流行り廃れがあるようで、目的の品はあまり豊富とは言えなかった。

どの店でも、両手でも片手でも使える長い剣、…グレトナが使用している物、は比較的豊富だった。


4軒目で、ビュートは気に入った代物を見つけ、試しに構える。

「なかなか、様になってるんじゃないのか?」

「はい、今までの中では…一番具合がいいですね」

しかし、値札を見てそれを戻すビュート。


「…足らないのか?」

「はい少し。他を探します」

「幾らだ。少しは持ち合わせがある」

「いえ、そういう訳にはいかないでしょう」

「グレトナから小遣い貰ってるから大丈夫だって。幾らだよ」

「……。」

結局、ビュートの購入資金を若干上回るその差額を、少し多めに出してやり、目的の物を購入した。



「リューンさん、本当にすみません」

「いや、あれはグレトナの金だから、周りに誰も居ない時にあいつに礼を言ってやれ」

「…分かりました」

訓練場に向かう道をだらだらと歩く。

今戻ったとしても、訓練に合流するには微妙な時間だろう。


「ビュート、腹、減らないか?」

「正直に言うと、少し」

苦笑いしながら帰ってくる返事に、通り沿いの大衆的な食堂に世話になる事にした。


「何というか。こういうのを遊ぶと言うのでしょうか」

「…いや、違うと思うぞ」

店の中を興味深そうに眺めるビュートに、答える。


さして特徴の無い、とは言えいつもの色気のない食事と比べれば余程興味深い食事を終えた俺達は、

再び訓練場に向かう。


門をくぐると、訓練場内でもう今日は終了と言わんばかりの雰囲気が見て取れるグレトナたちが遠目に見える。

こちらに気付いたのか、手を上げるグレトナに、右手を上げて返し、まずは1度、部屋に戻った。


「本当に、ありがとうございました」

再度深々と頭を下げるビュートに、いや本当に大丈夫だから、と答える。


「使ってみるか?」

「はい。迷惑でなければ」

「よし、じゃあ行くか」


夕食を挟み、その数刻後。

…俺もビュートも昼食が遅かった為、無理矢理に食事を詰め込んだ。



俺は、ひたすらレイピアで打突の練習をするビュートを眺めていた。

意外と鋭い突き込みと、やはり少し1人で練習を、という彼の言葉に、今日は剣を打ち合わせたりはしていない。

実戦用の武器で相手をこさえて練習するのは、それなりに熟練していないと危険だ。


しかしその練習に見飽きた俺は、木にぶら下がり、

いつもの鍛錬作業を始める。

俺が疲れ果てた頃その打突は、何とか見られる程度、を少し通り越していた。


元々それなりの重さの武器を扱えるように鍛えていたこと。

一緒とは言い難いが、槍の訓練を受け、突く動作にも慣れていた事。

才能か、適性か。


「真面目に相手をしないと刺さるな…」

「また明日も、付き合って貰えませんか?」

「構わないが、長くは持たないな。集中していないと怪我しそうだ」

「すみません。でも、お願いします」

そこにかける姿勢に苦笑いしながら返し、昨晩のグレトナの話を思い出した。


「そうだな。時間もない。

ビュート、俺はあと10日位で去る見越しになった。

それまでにいいとこまで行ってくれ。気になるからな」


「え…そうですか。…そうですよね」

目を見開き、自分にも言い聞かせるよう、搾り出すような声。

「でも良かった、帰れるんですね」


「ああ。グレトナが調べてくれていた。

1便目の商隊がその頃、出るそうだ。戦争自体も規模が大きくならなくて良かった。

…だから、それまでにそれを使いこなして見せてくれ。でないと次の機会があったら、になる」


「次って。また捕虜になるんですか?また皿に顔を…

「おいおい」

「大丈夫です。また僕が、食べさせますよ」

「いや、縄解いてくれよ」

苦笑いする俺に、やはり苦笑いを返すビュート。


「その礼もあるからな。教えられることは教える。頑張れ」

「はい。よろしくお願いします」


「別に今日の明日じゃない。それに明日からはまた普通の訓練だ。

今日はもう休もう。歩きすぎて疲れた」


訓練場内は、もうとっくに誰も居ない。

夜半を回った頃か。





床板のような寝床で横になる。


…レイス。

帰ったら何と伝えればいいだろう。


彼女は怒るだろうか。

何も早まった事はしていないだろうか。


オルビアはその連絡を、きっとその口からしてくれるだろう。

そして、言い放しという事は無いだろう。

ルシアさんもいる。

心配は拭えないが。



色々な事を考えながらも、俺は早々と眠った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ