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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その2
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遠い空01

依頼が並ぶ掲示板を眺める。

低ランク受注可、短い拘束、…出来れば高報酬。

なかなか条件が揃う依頼は見つからない。

そのような条件の物を探すこと自体が間違っているのだが、時折条件のいいものもある。

正確には、あった、だ。


この所、碌な案件が無い。

隣国までの輸送護衛。高収入だが国境を跨ぎ危険な上、期間も長い。

魔物の討伐。個体数不明。オーガの目撃あり。報酬が割に合うとは思わない。

野盗の討伐。王都近辺の森の野盗の一党の討伐。戦争に行くのとあまり変わらない上に報酬もそこまでではない。


腕を組んで暫く悩み、結局そのままギルドを後にする。




レイスは再び養成所に通いだした。

再び、という程の話ではないが…諸々の問題で数日休んでいた。

今日の午後の訓練後にはズボンを買いに行く約束をしている。


「空を飛ぶ練習をする」

冗談のような話をされ、どういう意味の冗談かと思い悩んだが何のことはない。

本当に空を飛ぶ魔法の練習をする為スカートでは、という事だった。


…俺からすれば本当に冗談のような話だが。

彼女が向いているかは兎も角、魔術師当人の分野によってはやってみる物だという。

魔術の世界で彼女が今どの辺りに居るのか皆目見当も付かないのだが、

グラニスに言わせれば高位の入口といった所らしい。

理解出来ないため、それ以上は聞かなかったが。




「さて、どうするかな」

若干手持ち無沙汰だ。

言い方は悪いが、丁度暇潰しにもなっていた剣士の養成所には…あの後、行っていない。

毎朝彼女を送る折に近くまでは行くのだが、何となくその先へは足が遠のいている。


たまには顔を出すべきなのだろう。

…ミリアとセイムはどうしているだろうか。

ロランあたりと丁度その辺で会ったりすれば具合もいいのだが。




考え事をしながらゆっくりと草原の息吹亭へ戻る道を歩いていると、流れてくる人の群れの中にオルビアを見つけた。

彼女もこちらに気付いたらしく、いい物を見つけたというような表情で手を振っている。

…嫌な予感を感じてすぐさま振り向くが、早足で歩いてきたオルビアに結局追いつかれた。


「お前、今逃げただろ!」

「いや、すまない気付かなかった。ギルドに向かおうかと思っていたんだ」

「ふざけるなよ…。時間あるだろう?ちょっと、付き合え」

「一体なんだよ。そんな急ぐような話か?」

「この間、お前ら2人の話しかしていないだろうが。私は普通に用があるんだ」

「わかったよ。昼に一度迎えに行くからそれまでなら」

「十分だ」


しかし手に持った小荷物を見せられ、渡してくる物があるからそこの飲食店で待っていろ、とのご指示に従い小奇麗な喫茶店で時間を潰す事となる。


店先のデッキに置かれた小奇麗な丸テーブルに肘を突き、何をするでもなく。

場所代として購入した琥珀色の液体が冷めていく。




道を行く人の流れ。道を挟む反対側から、こちらに小走りに駆けてくる人影が目の端に映る。


…ミリアだった。

長かった髪をばっさりと落とし、良家の女性らしい清潔感のあるブラウスとスカート。

彼女の向こうに彼女の友人だろう、同年代の子達が3人こちらを見ている。

「先生、何やってんのこんな所で」

「人待ちだ。居づらくてな」

「あぁ似合わないな」

「余計なお世話だ」


以前と同じように口の端を上げて笑ってみせる。

あの時の少しやつれたような印象は、もう、ない。

大分調子も良さそうだ。

彼女がデッキの手摺に寄りかかる。


「髪切ったのか?」

「あぁ、丁度邪魔だったからさ」

「服装と髪で、誰だか分からなかったぞ。そこいらの美人さんだな」

「はは。今更褒めても無駄だぜ?」


その時、俺の背後から気色悪い声が掛かる。


「ごめんねぇ、お待たせぇ」

オルビアが猫撫で声を出しながら現れた。

何してるんだ。気持ち悪い。


「あら、またそんな若い子騙してるの?駄目じゃないのぉ」

俺の正面の椅子を引き、腰掛ける。

その顔には初めて見るような笑顔が貼り付いている。

…気持ち悪い。

横を見ればミリアの目がすぅ、と細くなっている。



嫌な予感は間違いなく当たっていたのだと確信した。



「リューン、本当にあまり若い子泣かしてると駄目よ?」

諭すように俺の方に語るオルビアに向かい、

ミリアの静かに怒りをこめた声。

「先生がそういう事する人じゃないって知ってる」

視線はオルビアに突き刺さるようだ。


オルビアが舌打ちしながら、面白くなさそうな顔でそっぽを向く。



顔を伏せ大きく溜息をつきながら、この場を収めるためにそれぞれを紹介する。



左手をミリアに向ける。

「ミリアだ。彼女と弟、その友達に格闘を教えてる。筋がいい」

何か言い始める前に、今度は右手をオルビアに向ける。

「オルビアだ。よく護衛の依頼を貰う。それ以外にも色々世話になっている」


沈黙が流れる。

上げたくもない顔を上げると、ミリアの視線は相変わらず突き刺さり続け、オルビアはそっぽを向いている。

勘弁してくれ。


「ミリア。仕事の話だ、外せ」

「…ああ。またね、先生」

ミリアはこちらに笑顔を向け、再度オルビアを睨みつけると友人達のところへ早足で歩いていく。

友達にひとしきり謝り、笑顔で何か話しながら歩いていった。


オルビアの汚いものを見るような視線がこちらに向く。

「…おい」

「なんだよ」

「この間の話の子はアレか」

「そうだな」

「あれもまた…」

「また、なんだよ」

「あれもまた、いい子だな」

意外だが、オルビアはミリアの事を評価しているようだ。


「お前は最悪だな」

「……。」

「楽しいな、色男」

「オルビア…」



「仕事の話をしよう」

「そうしてくれ」



最低な気分で聞かされた用件というのは、以下だ。

一部、仕事以外の内容が入っているが。


①隣国マルト聖王国との国境で、近々小規模な戦争になる。

・あくまで流通する物量やその価格で判断しているだけだが、多分間違いない。

・その国境に一番近い大都市はここ、パドルア。

・国境とパドルアとの間にある衛星都市や村は戦場になると思われる。

・戦争が始まればギルドの仕事は、国策で傭兵まがいの仕事だけに統一される。


②オルビアの所で前線近くまで物資を運ぶという契約を取る。

・恐らく取れる。

・王都の一部貴族にコネがあり、そこを介して高額な報酬で契約となる見通し。


③その仕事が取れた場合、護衛が居る。

・先述通り、後から護衛を集めるのは難しくなる。


④その前に、仮でいいからうちと契約しろ。

・ただし、戦争地帯に入り込むので最初から前線に出る傭兵と比べればマシだろうが、危険な事は事実。

・護衛はそれなりの規模で付けるが、相手の本隊に直接襲われれば当然危ない。


⑤嫌なら仕方ない。


⑥さっきのはレイスに言いつける。





…最後のは兎も角。

護衛とは言え、戦争だ。

陰鬱な気分になる。



荒涼とした、戦場となった町を歩く。

時折見つける、死に損ねた者。敵だったのか味方だったのか。

苦悶の声に、慈悲として止めを刺して周る。

数日前までこの場所で平和に暮らしていたであろう者の無残な亡骸。

略奪の傷痕。

死と炎しかない光景。

過去経験した戦争での記憶。



思わず無言になる。

オルビアも黙って考えているのを待っている。


「わかった。少し考える」

「いますぐとは言わない。だが、早めに返事をくれ」

「あぁ、わかった」

「荷物の量にも拠るが護衛の人数は20人程度にはなる筈だ」

「実際に行くのは…オルビアか?」

「多分な。レイスには悪いが。お前が居た方が心強い。期待している」

「わかった」


立ち上がり、デッキから人の群れを見下ろす。

ここが戦場になったらどうなるだろう。


なおさら陰鬱な気持ちになる。


「オルビア、用件はそれで以上か?」

「そうだ。早めに頼む。実際に必要になる時期は未だわからないがな」

「分かった。相談してみる」

「それがいい。頼むぞ」





そこでオルビアとは別れ、レイスを迎えに養成所に向かう。

…少しゆっくりし過ぎた。早足で歩く。


先程の陰鬱な記憶を頭の端に押しやり、昼に何を食べるかを考える事にした。


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