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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その1
30/262

ミリアとセイム11

曇り空の下、訓練場に向かう道を歩いている。

あの事件からもう3日が経った。


今日、グラニスの都合がよければリンダウ家…つまりはミリアとセイムの家を訪ねるつもりだ。

その事を話してから、レイスは言葉少なに少し神妙な面持ちでいる。



先日の出来事は昨晩、包み隠さず彼女に話した。

言い方は悪いが彼女は純真な乙女という訳ではない。

世界の暗部をさんざ這い回った彼女にとって、そこまで衝撃的な事ではないと思われたからだ。


彼女は途中で話を遮るでもなく、事実をつらつらと話す俺の話を時折相槌を打ちながら最後まで聞き、

その事実に対する言葉は特に述べなかった。

ただ、俺はどうするのか?という事だけを聞いた。


「命を掛けて守ろうとしてくれた事には報いたい。出来ることはしてやろうと思う」

という答えに、そうですかとだけ答え、それ以上何を聞くでもなかった。


話の中で、本当に何の反応もなかったのかというと。

強いて言えば、アレンの組織の目的(コーネリアの件は一応、話していない)について言及した際に眉を寄せ首を振っていた事、

ミリアの話の際には目を細め、何とも言えない悲しみとも哀れみともつかない表情を浮かべていた。


…そのまま今に至る。




何を話すでもなく養成所まで着いてしまい、その受付でグラニスを見つける。

俺達の姿を見てグラニスも用件は理解したようで、受付の女性と少し話してこちらにやってきた。

「リューン、レイス。先日は本当に悪かった」

「グラニスさん、もう大丈夫ですから。それと。都合がよければ」

「あぁ。レイスよ、すまないがまた少し借りるぞ?」

「…はい」


気乗りしない返事をし、こちらを振り向きもせず養成所の奥へ歩いていく彼女を追いかける。

「どうした」

「…いえ。何も」

「なぁ。武器もってどこか行くんじゃない。大丈夫だ」

「……。」

その手が俺の体に触れ、何か言おうとし。

「気をつけて行って来て下さい」

感情が入り混じった表情でそれだけを告げると再び顔を伏せ、講義室に入って行った。



仕方なく振り向き、来た道を戻る。

グラニスと共に養成所を後にした。


「お前だけでなくレイスにも気を使わせてな…」

「彼女には昨晩全て話しました。その上で今動いている。…彼女には後で埋め合わせをします」

「私が頼んでおいて悪いがそれはなぁ…」

「俺に出来ることをしてくる、と言ってあります。養成所が終わるまでには戻りますから」

「そうか。分かった…」


グラニスは先日の話どおり先ずロランとリンダウ家に赴きセイムと少し話した、との事だ。

少し話し込んでロランを置いて帰ってきたようで、翌日セイムは一度養成所にも顔を出したという。


通りがけに剣士の養成所を覗くと、空き時間なのだろう誰も居ない訓練場で必死に剣を振るロランの姿が見えた。

こちらに気付き頭を下げるのに片手で答え、通り過ぎる。



程なく裕福な家の集まる区画に入り、暫く行くとリンダウ家に到着した。

白を貴重としたこの区画の中でも比較的大きな屋敷だ。

門をくぐりグラニスが両開きの大きな扉を叩く。


暫しの間。

中から上品な女性の声が聞こえ、グラニスが名乗るとその扉がゆっくりと開く。

声の印象通りの女性が憔悴した顔に微笑みを貼り付けながら現れた。

「グラニスさんからお話を伺っています、いつもお世話になっていたそうで。今回はこんな事まで…」

あの2人の顔つきは母親譲りなのだろう、その上品な印象を受け継いでいる。…口の利き方を除けば。

「どうぞあがって下さい。セイムはいま少し出掛けていますがすぐに戻ります、少しお待ち頂けますか?」


丁寧に客間に通され暖かい飲み物が出される。

「2人から先生の事はお伺いしておりました。とても尊敬しているようで」

「いえ、尊敬というのとは多分違うでしょう。あの2人はとてもいい素養をお持ちです。

他の皆と同じようにというのが退屈で堪らなかったのではないかと思っています。

そこに都合のいい相手が現れた、というだけでしょう」

「私達はそんな事も気付けずに…」

すっかり自分を責めるような考えになっているようだ。

「そんな全てに気付くのは難しいでしょう。彼らもそういう年頃なんだと思います」


扉が開く音。

そこにセイムが立っていた。

「あれ、先生」

腫れぼったい顔で余程意外だったのか、調子の外れた声を出している。

「いい男だな。大丈夫か?」

「大丈夫じゃあねぇって。親父、めちゃくちゃブン殴りやがった」

嫌そうな顔をして自分の顔に拳を当ててみせる。

「ちょっと話せる?」

彼の母親のほうを振り向くと、お願いしますとでも言いたげな顔で頭を下げられる。

「あぁ。ちょっと待て」

立ち上がり、彼が扉から出て行くのを追う。


セイムは裏口から家を出ると広い庭に据え付けてあるベンチに腰掛け、俺もそれに習い隣に座った。

呼び出しておきながら何を言い出すでもなく。

暫くの間をあけセイムが切り出した。


「先生、姉貴なんだけどさ」

「あぁ。大丈夫そうか?」

「わからない」

「そうか」


「お前は大丈夫か?」

「大丈夫じゃねぇよ」

「痛むか?」

「怪我じゃねぇって」


「あの後ミリアとは話したのか?」

「…俺のせいでごめん、って言った」

「ミリアは?」

「何も言わなかった」


「ロラン、来ただろ」

「あぁ。大体話した」

「何か言ってたか?」

「いや。…もっとちゃんと相談しろって怒られた」

「いい奴だな」

「話しながらさ、俺泣いててさ。あいつも泣いてた」

「そうか」


「姉貴さ」

「あぁ」

「先生の事好きだぞ多分」

「何言ってんだ」

「最近いつも先生の話してたぞ」

「相手するのが俺ばかりだからだろ」

「そうかな」

「そうだろ」


「俺、姉貴に何すればいいかな」

「直接出来る事は無いだろ」


セイムの目に涙が滲んでいる。

後悔か。怒りか。

あの事件の翌日、パドルア中央を流れる河を死体がばらばらと流れた。

仮に復讐を果たそうとしても相手はこの世に居ない。


「セイム。お前はまだ若い。突っ走りたい気持ちもわかるが、たまに振り返れ。

後ろに誰か助けてくれる奴がいるかもしれない。俺なんて誰かに助けてもらってばかりだ」

「先生は1人で何でもやってそうだけどな」

「残念ながらそんな事はないな」

「そっか」

「そうだ」


セイムが立ち上がる。

「先生、姉貴に会って行けよ」

「あぁ。そのつもりだ」

軽く溜息をついて立ち上がり、セイムの後を付いていく。


再び裏口から入り階段を登る。

突き当たりの部屋の前で立ち止まったセイムがドアの向こうに話しかける。

「姉貴、先生、来たぞ」

「ミリア。入って大丈夫か?」


ドアの向こうで少しばたばたという音が聞こえ、だがすぐに返事は返ってきた。

「いいよ。」


…セイムがこちらを見ている。

「お前は?」

「やめとく、約束があるんだ」

そう言いながらさっさと立ち去ってしまい、残された俺は1人でその戸を開けた。




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