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1-3

出発してから3日。

王都へ向かう街道をただひたすら歩く。


距離は長いが比較的整備された一般的な道を選んでおり、時折他の商隊とすれ違う。

魔物に出会う事など滅多にない。

物取りもなくはないが、小規模で護衛のついていない行商人を襲う程度だろう。


ほぼ真上に昇った春先の太陽がやわらかい暖かさで心地よい。

このまま何もなければ助かるんだが、などと考えながら時折周囲を警戒のため見渡すが、なんら変わり映えのない森の中の道に集中力も緩んでくる。

オルビアも荷物を積んだ馬車での上で手綱を握りながら退屈そうに欠伸をしている。


夜の交代での見張りの折に聞いた所によると、同行する4人組は本当に今回が初仕事のようだ。

なぜ冒険者などというその日暮らしと変わらないような道を選ぶのかとも聞いてみたが、正直な所あまり興味もなく聞き流してしまった。

願わくば、このままひたすら歩くだけの任務であってほしいと心から願わずに入られなかった。



森を2つ抜け、川を1つ渡り、何事もなく首都バレストに到着した。

ただの散歩のような10日間だった。



王都バレストは城塞都市である。

中心に位置するバレスト城と、騎士や貴族の邸宅が立ち並ぶ区画を市民の区画が取り囲み、その外周を大きな城壁が囲んでいる。

その外に更に町が広がり、その外れになると農地が続く。

バレスト近郊といえる場所から首都の中心部までも半日はかかる広さである。



城壁の外でもあまり品の良くない区画。

背の低い建物が立ち並びごみごみとした道、そこで馬車を引くオルビアを先導して歩く。

しばらく歩くと突然道幅が広がり、2階建の一目でそれとわかるような売春宿やそれを斡旋する酒場の看板が立ち並びはじめた。

「真夜中の太陽」「夜の手品師」「うさぎ穴」

それを眺めながらよく考えるものだ、などと感心しながら大通りを歩いていく。

暫くの散歩の後、通りの正面にこの辺りとは不釣合いな背の高い塀と豪勢な門扉、そして屈強な門番を備えた屋敷が現れた。

今回の荷の渡し先は売春宿の元締、コーネリアの館である。



コーネリアはここ数年で急激に勢力を伸ばし始め、この辺り一帯を取り仕切るようになったという。

元々は奴隷商人であり、今の稼業の仕入れには事欠かなかった為と言われている。

成り上がるにあたり、裏では殺人・違法な薬物の売買なども行っているというが……。

聞く気もないが、今回の荷物もろくな物ではないだろう。




オルビアが門番と2,3言葉を交わすと門番の1人が門扉の脇の扉から中に入っていった。

暫くすると大きな門扉が重い音を立てながら開いた。


「それじゃあ商売を済ませてくる。」

オルビアが馬車を引き、一人で門扉の中へ入りかけ、立ち止まり振り返る。


「やっぱり着いてきてくれ。4人はここで待機だ。」

「構わないが…。この格好でか?」

俺は背中に大型のリュックを背負い、そのリュックの脇には大型の剣が縛り付けられている。

護衛とはいえ、明らかに人と会うような成りではない。

その証拠に門番の男も困惑したような表情を見せる。


「悪いがその鞄はここに置いていけ。安心しろ、冒険者の荷物に手を出すほど落ちぶれては居ない」

落ちぶれるという意味ではお前らと大差ないだろう、と思いながら背中の大げさなリュックを下ろした。


「もうひとつ悪いが、その物騒な小手も外して置いていけ」

「そっちにも悪いがこの小手は形見みたいなもんだ。取り敢えず外して持っておく、これでいいだろ?」

「……いいだろう。」

ベルトを緩め、がちゃがちゃと音を立てながら、手甲を取り外す。

結果的に大きな長靴をぶら下げてるような状況でなんというか、滑稽である。


「オルビア、何かないか?」

頭をかきながら荷馬車の中をあさったオルビアが、薄汚れたずた袋を投げてよこすが、小汚い袋をぶら下げていると益々滑稽だ。

袋を細長く丸め、小脇に抱えるように持つ。


「さぁ行こうか」

オルビアが苦笑いしながら言う。

お前が連れて行こうとした結果だろうが、などと思いつつその後に続いた。




門番の一人に案内され、邸宅の裏手にある倉庫に案内される。

担当の人間を呼ぶのでここで待てと言うと、男は去っていった。


煉瓦作りで大きな鉄の扉がついた倉庫である。かなりの大きさだ。

この倉庫だけで何人か住めるな、などと苦笑いしながら眺めていると、

「リューン、一応警戒しておけ。コーネリアはまだ勢力自体が新しい上に、うちも取引はまだ数える程しか行っていない。自ら商売をやり辛くするような事をするとは思わないが念のためだ。……あと。住める、というか私は子供の頃、この手の倉庫で寝ていたぞ。何十人かで」


俺は以前、オルビアが奴隷出身である事を聞いていた。

小さい頃から何人かの持ち主の元を転々とし、最終的にパドルアの売春宿で小間使いとして働いていた所を、ひょんな事から輸送ギルドの実力者だった男に買われたらしい。そこから少しずつ頭角を現し、現在はギルドの仕事を行うまでに至ったという。

余計な話で昔のことを思い出したのか、いつもの飄々とした顔ながらも気分が良くは無さそうだ。


「悪いな、余計な話をした。粗相のないように頼むぞ」

屋敷の角から門番とは明らかに違う雰囲気の男が歩いてくる。

荷物を降ろすのであろう男がその後ろから3人。


「待たせたな。荷物はここでうちの人間が降ろす。数を確認するぞ」

年は40前後か。鋭い目つき。かなりの迫力を放っている。

幹部の一人なのだろうか。裏で色々な事をやっていると言われて納得するような雰囲気だ。


残りの3人の男に注意をやりながら、オルビアとその男が積荷を確認しているのを眺める。

この3人の男もそこそこやりそうだ。双方素手でも3人を相手にしたらただでは済まないだろう。


荷物を確認している幹部であろう男とオルビアも数に入れた場合、実質的には1対4だ。

まして相手は丸腰ではない。腰に小剣を下げている。

更にこの邸宅の敷地内という状況では逃げるのも難しい。

何度か頭の中で戦いを想定してみるが、あまり芳しくない状況だった。

何かあっても極力戦闘は避けるべき、と自分の中で結論がついた頃、荷物の確認が終わる。


オルビアが書類を取り出した書類にサインをしながら男が言った。

「コーネリア様がご挨拶をしたいとの事だ。荷はこちらで降ろす。着いて来い」


……嫌な予感しかしなかった。



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