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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その1
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ミリアとセイム06

夕食をいつものように切り分け、彼女の方に押しやる。

「買って頂いたお洋服、後で着てみてもいいですか?」

「あぁ、そうしようか。靴も買うんだったか?」

「いえ、そんな…。この間、買って頂いた靴がまだ履けますし、好きなんです」

「わかった。じゃあ早く食べてしまおう」

「…はい」

子供のように嬉しそうに食事を口に運ぶ。

そんな彼女を眺めている俺達のテーブルに、グラニスがやってきた。

…スライが一緒に来ている。


「リューン、食事中すまない、少し時間を貰えないだろうか」

後ろに立っているスライがレイスと俺の顔を交互に見て変な顔をしている。

「スライ、なんだよ」

「なんだよじゃねえよ。お前…

言い終える前にグラニスに話を振る。

「グラニスさん、ちょっと待って頂いてもいいですか?」

グラニスがレイスの方に向き直る。

「すまない、こんな時間に。どうしても彼に頼みたいことが出来た。少し借りるぞ」

「…はい。でも…危ない事なのですか?」

「まだ分からん。そうなった時の為にここへ来た」

その答えに目を伏せ、こちらを見る。

「グラニスさん、すみません、そちらの席で待って頂いていいですか?とりあえず、これを食べてしまいます」

急いで食事を口に放り込む俺を見て習い、

先程とは違った理由で食事を急ぐ事になったレイスは、泣き出しそうだった。


彼女が食事を終え、2階へ向かう。

グラニスから頼まれている事では文句も言いづらいのだろう、無言で目を伏せているだけだ。


スライはスタッフを持っていた。という事は、そういう事だ。

部屋に戻ると腰周りの簡単な装備品を身につける。小手は…。目立ちすぎる。

中型の剣に適当な布を巻きつけて腰の後ろに据え付ける。裸よりは幾らか目立たないだろう。


「レイス、すまないが行くしかないだろう。代わりに明日は、新しい服を着て一日遊びに行こう。養成所は休む。いいか?」

「…はい。あの。…ありがとうございます」

俯く彼女の手が俺の右手に伸ばされるのを、途中で受け止めて握り返す。

彼女の細い指が、食い込むほど握り締めている。

「大丈夫だ、行ってくる。早く寝るんだぞ?」

「はい。気をつけて」

手を離し、俺の顔を見る彼女に微笑み、部屋を後にした。



「グラニスさん、すみませんお待たせしました」

降りてきた俺の顔と、見につけている装備を見たグラニスが立ち上がる。

「こちらの方こそすまんな。だが、すぐに出たい。状況は歩きながら話す」

ルシアに軽く頭を下げ、俺達は宿を後にした。




「先程、セイムの両親に会え、事情は話した。だが、1日2日帰ってこない事などままあるので何とも、という事だった」

「だが先程再度ロランに会った。彼は養成所で話をした後、セイムを探して町を歩いていたらしい。

町をうろついている時に、ミリアに会ったそうだ。

何をしているのかと聞かれ事情を説明した所、思いつめた顔をして彼女はどこかへ駆け出していった。

ミリアは何か事情を知っているのだろうが、彼女の行方も分からない。少なくとも先程はまだ家に戻っていなかった。

ミリアの件がなければここまで焦ったりはしない。どうも嫌な雰囲気でな。」


確かに嫌な雰囲気どころの話ではない。…杞憂で終わればそれでいい。

しかし。

ミリアも誰も居ない状況で、それでは俺達は一体何処に向かって歩いている?

「…お手上げだな。関わる人間が一人もいない状態で、このパドルア全部、人間2人を探す事なんかできないだろう」

「やはりそう思うか。それで今は私の旧知の情報屋の所に向かっている。何か知っているかもしれない」

「情報屋か。あぁ、そうだ、セイムの入っていたマフィアは、確か何とかの蜘蛛という名前だった。」

「黒い蜘蛛、だろ?」

やっとスライが口を出す。

大型のスタッフを握り、厚手のローブを着ている。

何かあっても、彼の支援を受けられるならば、大概の事は乗り切れるだろう。

「そう、それだ。情報屋にはその集団の主な活動拠点を聞く、というような事でいいのか?」

グラニスが頷く。


暫く中心街を目指して歩き、いつか買い物に来た、大きな通りの2本裏側を横切る。

流石に人ごみの中で帯剣、大型のスタッフ、というのは目立ちすぎるので避けたい。


宿を出て、大通りを超え、更に暫く歩き、町外れに近い所まで来た。

「なんで情報屋ってこういういかにもな所に店出すんだ…」

スライが呟く。

怪しげなバーが並ぶ裏通りを行く俺達に、時折鋭い視線が突き刺さるのを無視しながら、数軒目の小汚いバーに入るグラニスに俺達も続いた。



店の奥から低い男の声が聞こえる。

「へぇ、珍しい…」

扉の中は薄暗い。

幾つかのテーブルがあるが客は居ない。

カウンターに腰掛け、グラニスが答える。

「急ぎだ、黒い蜘蛛について教えて欲しい」

「なんでまたそんなどうしようもない事調べるんです?まあ構いませんがね」

特徴のない中年の男性が、3つ揃いのグラスに褐色の酒を注ぎ、俺達の前に並べた。

…酒が苦手な俺は、黙ってスライの前にグラスを滑らせる。


「黒い蜘蛛ってのは、最近王都で勢力を広げているコーネリアという人が頭の組織の、下部の下部組織だ。

パドルアに正式な支部を作りたいみたいでね、まずこっちに下部組織を用意した。

その下部組織がどうしようもねぇ餓鬼を集めて手駒作ってる。それが黒い蜘蛛だ。」

こんな所で聞きたくもない名前が出てくる事に露骨に嫌な顔をしてしまうが、それを意にも介さず男は続ける。

それに…本当に使い走りじゃないか。何をやっている。

聞きながら、先日のセイムと会話を思い出して顔が歪む。


「ただね、コーネリアさんはどうもあんまりどうしようもねぇ事が嫌いらしくてね。

余計な殺しやタチの悪い薬、無意味な犯しはやめろって通達が来ているみたいだ。

建前かも知れんがね。下部の下部なんてのはそんなの関係ない、どう仕様もない連中だ」

誰の口からそんな事が。

彼女の事を飼え、などと言うな人間の事を信用出来るものか。



グラニスが切り出す。

「それで、そのどうしようもない連中の集まっている所はどこにある?」

「グラニスさん、そんなの幾つもあるよ。俺が分かっているだけで5つはあるね」

「全て教えてくれ」

「…グラニスさん、何するつもりだい?下部の下部って言っても、その本体は洒落にならない連中だ。

3人で戦争でも仕掛けるのかい?あんた、家族とかいないのかい?」

スライのほうを見ながら男が言う。


「連れ2人は私の依頼で連れてきている。それならば彼らは問題ないだろう。

そもそも、戦争なんぞ仕掛けん。友人の子がそいつらに囚われているかもしれないのだ」

「…そいつは男か?女か?」

男は何かを知っているようだが。

「両方だ。2人ともまだ若いのだ。助けてやりたい」

力を込めて語る老人の姿に、暫く男は考え込む。

店の奥に行き、持ってきた紙の切れ端に簡単な地図を書いてグラニスに寄越す。

「私から聞いたって言うのは無しでお願いしますよ」

カウンター上のグラスを下げる男に、グラニスが頭を下げる。

「…すまない、恩にきる」

「頭なんて下げんでください、何時ぞやの礼ですよ。その地図はサービスさせてもらいます。

酒代は…」

グラニスは懐から紙幣を取り出すと、つり銭を用意する男を手で制し、店を出た。


地図に記された場所は、ここからそうは遠くない。

「行くぞ。急いだ方が良さそうだ」

グラニスに焦りを感じる。

…当然だ、情報屋が知っているという事は、実際に何かあったとして、少なくとも数刻は前の出来事の筈だ。


俺達は裏通りを抜け、閑散とした空き家が並ぶ地区を歩く。

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