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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その1
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ミリアとセイム05

昨晩の話を、レイスを同席させた上でグラニスに伝え、彼女を養成所に残してギルドに向かう。

生きていく為、新しい依頼を探しにいくのだ。

そして生き残る為に、その中から手頃な物を選択しないといけない。



養成所でかかる費用を一部負担する、というギルドのやり口がうまく回ったのだろう、依頼と受注者の数のバランスは、一定の落ち着きを見せている。

が、低ランクでも受けられる依頼は値下がりを始め、逆にランクの制限が付く仕事は報酬が値上がりしており、以前とはまた違ったコントラストを内包した状態に変化している。

現在の低ランク者が経験を積む事によってこのバランスも落ち着くのだろうが、それはしばらく先の話だろう。




ランクの制限がなく、かつ所要日数が少ない依頼を探し、依頼のボードを見て回る俺に後ろから声がかかる。

「お前さ、もっと難しいの受ければいいじゃねえか」

声の主、スライが呆れた様な表情を浮かべて立っていた。

今日は休みなのだろう、軽そうなローブをまとい、スタッフは持っていない。

長い髪を雑に後ろで縛っている姿は、買い物帰りに少し覗いたような雰囲気だ。


「いつから見てたんだよ。危ない橋は渡りたくないんだ、放っておけ」

余計な事を言うな、とでも言いたげな俺に、呆れ顔を隠しもせずに話しを続ける。

「だからランクだって上がらないんだって。職業柄どの道危ない事はあるんだからさ、少しでも報酬上げた方がいいんじゃねぇの?」

持論を展開される。

事実、彼は確か既にランク5になっている。

彼が言うには、お前は実力では間違いなくランク5、数を重ねれば場合によっては最高位の6だ、やる気を出さないのは勿体ない、との事だった。


「いいんだよ、ランクには興味がないからな。それに、そんな上級者扱いされたら、嫌な依頼も断れないだろ?」

俺のやる気のない答えにため息をつきながら、スライは少し声のトーンを落として、ぼやきのような言葉を続ける。

「いや正直な、そこそこのランクの奴と組んでも、危なっかしい事が多くてさ。

少なくともお前が前衛に居る瞬間は、あまりそう感じる事がないんだよ。全体的に、質が下がってるのかもしれない」

それなりに危ない目にもあったのだろう、スライは少し疲れたような顔をして見せる。



ふと思い出し、この所の課題の剣を扱う技術について、思いついた名前を出す。

「そう言えばユーリを最近見ないが、どうしてるんだ?少し技術的な事で聞きたい事があったんだよな」

何の気なしに出す名前に、スライは無表情に答えた。


「あいつ、この間死んだ。死んだというか、行方不明だ。同行した4人も全員」

流石に驚きの表情の俺に、半ばひとり言のように喋り続ける。

「…確かにお前の依頼の選び方は正しいのかもな」

「決して弱くは無かった筈だ。一体どんな仕事だ?」

「普通の魔物討伐依頼だと聞いている。洞窟に住み着いた魔物を、って話だったと思った。

まぁ、詳しくは知らん。何しろ全員そのまま行方不明だからな」

努めて興味がなさそうに話す彼は、しかし悼むような内心が見てとれた。



「そうか。…明日は我が身だな」

自嘲的に言う俺に、

「お前はそれじゃ駄目だろ?こないだ聞いたぜ、女と暮らしてるらしいじゃねぇか」

グラニスが余計な事を喋ったらしい。


先程と、うって変わって楽しそうに話す。

「こないだから悩んでたの、その子の事か?金髪でグラマーな年下の美人だって話じゃないか。紹介くらいしろよな?」

どこを間違えるとそうなるのか。誰だ、それは。

少し考え、”金髪でグラマーな年下”を2人思い出す。

…共に口を開かなければ、という条件付だが。

「同居するのは、少し勘弁して欲しいな…」

オルビアとミリアの2人を想像し、思わず変な顔をしながら噛み合わない感想を述べた。

「はぁ?何言ってるんだ。お前がうらやましいよ。たまには俺と代わってくれよ」

買い物のついで、というのはあながち間違っていないのかもしれない。

彼は、グラニスの教え子数人と一緒に生活している。生活というか、面倒を見ているというか。

結果彼は、俺と半ば同じ理由で長期間拘束されやすい護衛の任務を受ける事は、ない。

「まぁ、余計な話だったな。俺はもう行く、じゃあな」

好き勝手な事を言い終え、スライは恐らく本来の目的を済ますため、立ち去った。




さした収穫もなく、昼に差しかかり、レイスと昼食をとる為、養成所に向かう。

階段に座り込み、先程のスライとのやり取りや、流し見た依頼の内容などをぼんやりと思い出していた。

確かに、高報酬を狙いって仕事の回数自体を減らすのもまた、間違ってはいないだろう。

恐らく、実際、当人のスライはその口だ。

彼も先程の会話で名前が出た者のように、何処其処の誰々が死んだらしい、などといつか言われるのだろうか。

俺も同じように。


やはり、難易度も報酬もそこそこの物という基本方針は変わらない、と自分の中で結論が出た頃、後ろからそっと声を掛けられた。

今日は俺が養成所に向かわない事を知っている彼女は、少し機嫌がいい。


「今日、一緒に講義を受けていた人が居眠りをしていて、グラニスさんに…」

いつもの店で、はにかみながら午前中にあった出来事を話す。

出てきた肉料理を切り分けながら、話に相槌を打つ。


レイスは、話しながらころころと表情を変える。

初めて出会った時とは対照的に。

目は口ほどにとも言うが、それを考慮したとしても余る、豊かな表情を見せるようになった。

「リューン様、聞いてますか?」

再び表情を変え、少し怒ったような顔をする。

「ごめん、少し考え事をしていた」

「ひどいです…。でも、何ですか?宜しければ私にも…」

今度は少し困ったような、こちらを伺うような。

自然に微笑みがこみ上げてしまう。

「よく笑うようになったな、って思っていた」

「リューン様もですよ?」

と返される。

「そうか?」

「最初にお会いした頃は、時々怖い顔…。違いますね。何て言えば伝わるのでしょうか。諦めとも悲しみとも違う。

すみません、うまく伝えられないのですが。でも、この所、

あまりそういった顔をされているのを見ていません。…良かったです」

言いながら、その変化が嬉しかったのか、俺の顔を見ながら微笑んでいた。



彼女を育てる、生きていけるようになるまで面倒を見る、という目的が自分をそうさせたのかもしれない。

何の目的もない生きる為だけに生きる無軌道な生活を思い出し、あの頃の虚無感を忘れてはいない事に気付く。


目的?

目的が達せられた後、俺はどうする?


彼女が自立し、俺の元を去り、残った俺は。

再び何もない毎日を繰り返すのだろうか。


うまく表現できない、喪失と恐怖が合わさるような物を感じ、俺はその考えを慌てて頭の隅に追いやる。

少なくとも今は、彼女のために精一杯生きよう。


先程の負の感情が表に出ないうちに、顔を伏せ、食事を頬張る。





食事を終え養成所に戻ると、受付でグラニスとロランが話し込んでいた。

俺達に気付くと、グラニスがこっちに来い、と手招きする。

振り返るとレイスが不安そうな表情を浮かべている。

「とりあえず、教室に行っているといい。何かあれば、後で説明する」

「いえ、私にも聞かせて下さい」

「…わかった」

グラニスは彼女が同席している事に少し何か言いたげだったが、用件を話し始めた。

「セイムが、今日は来ていないそうだ。彼の過去の経緯からすればこういった事は珍しくもないが、

今朝ほどお前から聞いた件もある。念のため、今から彼の両親に話をしに行こうかと思う」

ロランが横でグラニスにすみません、と謝っている。

「いや、あなたが謝ることではないだろう。むしろあの跳ねっ返りに感謝されるべきだろう?

レイスよ、そういう事で午後の訓練は無しになる。場所は使って構わんが、くれぐれも無茶はしない事だ」

「はい、…どうしましょうか?」

レイスがこちらを見る。

「俺は特に用事もないから好きにしていい。たまには訓練の成果でも見せてもらうよ」

言いながら、グラニスに視線を移した。

「俺達の事より、グラニスさんは急がれた方がいいのでは?」

「あぁ、そうだな。ちょっと行ってくるか」

受付に一言二言説明し、グラニスは養成所を出て行く。

「先生もすみません。ちょっと、昨日の今日なので心配で」

ロランが申し訳なさそうな顔で頭を下げている。

「心配は、し過ぎて悪い事はないだろ。どんな事もそれ位でいいと思うぞ」

「…はい。ありがとうございます。では僕もこれで」

ロランもグラニスの出て行った扉から後を追うように出て行った。


「さぁ、どうする?俺はどちらでも構わない。少し練習して帰るか?」

「あの、もし良かったら大通りの方に…」

伺うような表情に、即座に答えた。

「あぁそうしよう。毎日頑張っているからな。何か欲しい物はあるか?」



結局、新しい服を遠慮がちに試着する彼女に、

半ば無理矢理に近い形で2着の服を買い、俺達は宿に戻った。

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