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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その1
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ミリアとセイム04

レイスは、俺が養成所に向かう事にやはりあまりいい顔をしない。依頼を受け出発する前日の夜などと比較すればまだいいが、時折眉をしかめている。


1人で鉄の棒きれを振り回す行為もあながち無駄という事はない。時折休憩中の講師ランジや依頼中に出会う中型剣の使用者との取りとめのない会話、更に実戦での経験は、その剣すじをゆっくりと磨いていく。

腰の後ろに収めた幅広の中型剣より、訓練場に無造作においてある棒きれの方が体に馴染んでいるのが今の所の悩みだろうか。



そして実施の訓練後、いつものように素手での戦闘技術を希望者に教える。

正確に言うと教えるという程の話でもなく、基礎動作と実戦だけの訓練とは程遠い代物ではあるのだが。

その程遠い代物に参加する物好きの3人は、俺の技術向上を上回る速度で、明らかにその技術を上げてきている。

特にミリアの成長は著しい。残る二人との実戦を行うと一方的で、もはやただの暴行としか言えない状況となる。

結果的に、彼女の相手をするのは俺である事が多い。俺もこの所では気を抜くと手痛い一撃を貰ってうずくまる事がある始末で、緊張感のある訓練と言えない事もない。


「先生、今のは詰めが甘かったね」

「うるさい」

体を翻し背中を向けて逃げ、ゆっくりと戻る俺を嘲笑って見せる。

その次の打ち合いでは下段を蹴り抜き、地面に叩きつけられた彼女に勝ち誇った顔をして見せた。


少し離れた所で訓練場の隅のベンチに腰掛け、話しこむセイムとロランが見える。流石に疲れたのだろう、正規の訓練が終わった後の時間だ。

しかし彼女に付き合っていると時間がかかりすぎる。何度倒しても立ち上がり再び挑んでくる彼女の精神力、というよりは最早しつこさともいえる物にこちらが疲れ切ってしまう程だ。


「よし、もう一回だ」

立ち上がりそのしなやかな腕をぐるぐると回す彼女に本日はこれで終わる旨を伝え、今まさに訓練場の端に入ってきたグラニスとレイスに軽く手を挙げて見せる。


「なんだよ、もう一回くらいいいだろ?」

後ろから俺の手を掴もうとするミリアの手を俺の左手がかわす。


「もう疲れた。また来るからもう勘弁しろ。それよりお前、あの二人を見てやれよ」

「あいつは必死さが感じられないから、なんとなくつまらないんだよなぁ。ロランはあれだ、普通すぎてつまらないって所かな」

「つまらないとかそういう問題じゃないだろうが」

「私にはそういう問題なんだよ。逆に先生はおもしろいよな、いつも全力でいける」

「人をおもちゃのように言うな。とにかく俺は帰る」

「あぁもう。わかったよ。またね」

残念そうな声を出しながらも、あっさりと踵を返し弟たちの所へ戻っていく彼女の後姿に一瞥し、不満顔のレイスの元へ歩いた。


「もう、ここに毎日くればいいじゃないですか」

「それは少し耐えられないな。同じ事の繰り返しだとたまらない気分になる」

「私にはそう見えませんけど」

不満げに口をとがらせるレイスに苦笑いしながら、宿へ向かう道を行く。




「あの、先生」

突然背後から呼び止められた。

少し驚いた顔のレイスが、すっと俺の後ろに隠れるように移動している。

ロランだった。


「あぁ、どうした?」

別に何の用でも構わないが、出来れば今は訓練に係る長話はしたくない。が、その真剣な表情に、しっかりと足を止めた。


「実は、相談したい事があるんです。少し、お時間を頂けませんか?」

「リューン様、私、先に帰りますよ?」

遠慮がちながら、少し寂しそうな声が背後から聞こえる。断り、一緒に帰ろう、という話の流れへの期待を内包しているのがわかるが。


「分かった。だけど夕飯も頼んでしまっていて時間がうまくない。……なんなら夕飯一緒に食べるか?」

「……御迷惑でなければ」

後ろを振り向くと、先程よりも更に不機嫌そうな顔をしたレイスが目を合わせないように横を向いていた。どうやら選択を間違えたようだ。

大きくため息をつき、宿への道を3人で歩く。




増えた同行者に一体何だという顔をしながらも追加の料理を用意するルシアに礼に言い、テーブルにつく。

いつも通り彼女の食事を切り分け……る必要がないように手が加えられた皿を含む料理が、3人分テーブルに運ばれてきた。

相も変わらず不機嫌そうなレイスにフォークを手渡し、自分も食事に手を付けながら切り出した。


「で、用ってのは一体何だ?金ならないぞ?」

「いえ。セイムの事なんですが」

「セイムがどうかしたか。三角関係か何かか?」

この若さの悩みなら、どうせそんな事だろうと、茶化すような事を言ってみる。


「違うんです。あいつ、マフィアの仲間をやっているのは知っていますよね?それを辞めたいって言っていたんです」

「そうか。全うにやって行くつもりなら、それがいいだろうな。」

「ああいう集まりっていうのは。辞めた、と言えば辞められるものなのでしょうか?」

彼の表情は真剣だ。心から友人を心配しているのが見て取れる。


「正直、そういう話は俺はあまり詳しくないからな……」

「僕も彼から聞いている話以上の事は知らないんですが。以前、辞めようとした人間が皆で袋叩きにされた上に今も抜けられないでいる、という話をしていたんです」

よくある話ではある。ああいった集団の常套だ。暴力と恐怖で配下の物を支配する。そこから逃げ出そうとする者に容赦などする訳がないだろう。


「手切れ金で云々なんて話ならありそうだけどな。あまり気持ちのいい話じゃないが」

彼の家は比較的裕福だ。何かあれば彼の為の出費は惜しまないだろう。ただそれが、悪い仲間との手切れ金、という事になるとどうだろうか。

まず、彼からはそんな事は頼まないだろう。ミリアは……自分で撒いた種くらい自分で拾ってこい、などとセイムを怒鳴りつけている姿が目に浮かんだ。


心配げな表情のレイスが目に入る。

余計な約束などし始めないか、気にしているのだろう。


「あぁ、心配しているのは分かった。だが、すまない、俺には何ともできないだろう」

「…そうですか」

がっくりと肩を落とす彼に、気休め程度の言い訳を続ける。


「だがな、念のためグラニスさんに話だけはしておこう。彼らのご両親と浅くない仲だって話だ。何かあれば力になってくれるだろ」

「…はい。ありがとうございます。でも、また何かあったら相談させて頂いてもいいですか?」

「それは構わないけどな。力になれるかは別だが」


椅子を引き立ち上がる彼にここからの帰り道を確認するが、大丈夫家はこの近くです、という答えと深々と下げる頭に、座ったままで手を振る。




「リューン様、何か、されるのですか?」

「いや実際何もできないだろ。その仲間の所に出向いて殴り倒しても、解決になるとは思えないしな」

その可能性を考えていた事実に彼女が心配顔をしている。


「大丈夫だって。解決になるとは思えない、って言っている。そんな事はしない」

「……本当ですよ?本当にやめて下さいね」

珍しく少し強気に言う彼女に、素直に頷くしかなかった。



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