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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その7-2
210/262

21

うんざりするという程でもないが、軽くため息をつきながら馬を端に寄せた。



「フライべルグさん。先行していた増援とも接触できました。こちらの部隊については――」

早々に合流して明日の晩の攻撃に参加しろとの事だった。要するに、そこで全て終わらせるらしい。

状況は予想通りで、中規模の街に立て籠もる敵軍とそれを包囲するクラストの軍という構図だった。

未だ魔物による散発的な攻撃もあるらしくそこに関わる注意と、俺達の部隊の配置は町の北側などという指示までついてきた。

先行していたパドルアの軍が力任せに乗り込んでいなかったのは、街の住人を懸念しているからだろう。パドルアと近い街であり無駄な犠牲はこの場合ひどく好ましくない。知り合いもいるだろうし下手をすれば出身者でさえ混ざっている筈で、包囲して停滞していた状況も理解できる。

しかしルカネ達の部隊はそうもいかない。彼らは相手を叩き潰す為に王都から出てきている。包囲して呑気に待つという事はしない筈だ。


ルカネの憂鬱そうな表情を思い出す。上手く手綱を握れているのだろうか。いずれにせよ、この連絡の主は当人だろうし、明日の晩まであの馬鹿の部隊も踏みとどまらせているのであれば順当なのだろうが。




「あんだよ……間に合っちまったなおい」

「追いついたら全滅していた、なんて話よりいいだろ」

「そりゃそうだけどよぉ。お前に着いて行くと、いつも碌でもない事に巻き込まれるんだよなぁ」

「あっちの部隊に着いて行ってたら今も戦闘中だったぞ?」

「……そうだった」

変に納得する風な顔の金髪の馬が離れていく。どうも調子が振るわないのは後ろの馬車からの視線が原因だろうか。レイスが俺の脇から隠れるようにして振り返り、後ろの様子を伺って少し満足げな顔をしている。


「もうやめとけって。そろそろ気を引き締めよう。もう一戦ある」

「はい……すみません」

先般パドルアでも、クレイルと耳長の片割れのやり取りを楽しそうに観察していた。彼女もミリアも所謂年頃の女でありそういった事が気になるのも仕方ないが、そろそろ気持ちを切り替えないといけない。一番にそれをすべき自分も、意識して心を切り替えていく。

移動ばかりで重くなり始めている体にも目を覚まして貰わないといけない。件の大斧の重さにも再び体を慣らすべきだろう。


翌日の昼前。

再び自殺願望に染まった魔物の片づけを2度済ませながら、俺達はルカネ達の部隊と再び合流していた。







街を包囲する正規軍の背面に至った所で傭兵達には一旦そこでの待機を伝え、ルカネが詰めている天幕を探す。そう長い時間もかからずそれに行き当たり、入り口をくぐった。


「……相当急いだのでは? こちらとしては助かるが」

「俺というより、傭兵達の足が速かったんです。彼らは戦わないと商売になりませんから」

「確かに。だがあまり出番もないかもしれないな」

「そうでしょうね。この状況では」

この天幕を探して歩き回っていた折、明らかに必要以上の兵が展開しているように見えた。例えは悪いがこの町をウルムのように破壊しつくす事さえ容易に感じる。

街を包囲している部隊の中で一番内側、要するに一番町に近い場所に展開しているのは例のゲランドの部隊だという。それに不安げな表情を浮かべていたのであろう俺に、薄笑いを浮かべたルカネが口を開いた。


「大丈夫だ。町の住人への略奪や放火は一切するなと釘を刺した」

しかし身内に改めてそんな事を言う心配があるという事実に、自分の顔が更に歪むのを感じながら話を続ける。


「素直に敵が出てきてくれればいいんですが。増援が……見捨てられた事は伝えたのですか?」

「先程、手紙を何枚か矢で打ち込んだ。彼らのおかれた状況が簡潔に書いてある」

「降伏の勧告は?」

「いや。気は進まないが今晩には攻撃を掛け、降伏される前に勝負をつける。先日も言ったが――」

ルカネの表情が少し曇るのを見て、慌ててその言葉を遮る。


「すみません、余計な話でした。感情論は兎も角、相手が捨て鉢になって飛び出してきてくれればこちらも楽ですね」

「そうだな。机上で習った限り、守る相手を攻略するのは兵力が3倍必要だという。城塞都市という訳ではないが、それでも手間取るだろう」

「後は……町への被害が少ない事を祈るくらいでしょうか」

「そうだな。『王都の援軍のせいで沢山の犠牲が』などと嘯かれるのは御免だ」

「確かに。それを少しでも避けるためにも……私たちの部隊はどこで待機しましょうか」

そう言いながら、机の上の地図に視線を落とした。






再び移動を始めた傭兵達の中で辺りを見渡す。正規兵達と接した事もあり、皆今までよりは少し硬い雰囲気を漂わせていた。

俺達の配置は町から見れば北西の方角であり、それを配慮と呼ぶのかはわからないが……前線だ。傭兵達の都合で考える限りは勝ち戦の前線なら願ってもない配置だろう。

俺達の部隊の中での配置にあまり大きな意味は感じられず、3人の団長には横並びで配置について貰った。


概ねの配置について遅めの昼食を食べ終えた頃にはもう日が傾き始めていた。傭兵達にまみれながら改めて装備を確認しながらその時を待つ。




座り込み、使い慣れた小手のベルトの具合を確認していた。革で出来たそれは、いつも同じ場所で固定しているために跡がついている。とんでもない状況でそれがちぎれてしまわないか、革の厚さを一度確かめて再び緩めた。

隣に座ったレイスはやる事もない為か少しそわそわと辺りを見回している。自分の準備を終えた所で軽くその背中を叩き、振り替える右目に笑って見せた。本当は頭でも撫でてやりたいところだが、流石にいまここでというのは気が引ける。向かいに座った金髪が欠伸をしながらこちらを眺めていたせいなのだが。


「……あんまりこっち見るなよ」

「お前は緊張感がねえよなぁ」

「お前が言うな」

欠伸交じりの言葉に文句を返し、腰の後ろの少し使い慣れない中型剣の柄を軽く握った。まぁこんなものだろう。


「で、どうすんだって?」

「あのゲランドって奴の部隊が正面から突撃、だそうだ」

「なんだそりゃ。作戦も何もあったもんじゃねぇな」

「挑発してみて門が開けば儲けものだと。特にあいつらはいつまでも睨み合いしている訳にもいかないしな」


「投降されちまう、ってか?」

「それもあるけれど、現場の本音は少しでも武功が欲しいって所だろ」

「相手が投降すんなら普通は有り難い話だよなぁ」

「ああ。降参しないで欲しいなんて話、そうないよな」


「けどよ。戦闘員じゃねぇ奴らが山ほど人質になってんだろ?」

「相手もそっちに手を出し始めたら簡単に死ねない事くらいわかってるだろ。というか、分かっていて欲しい。ついでに言うと、王都から来た軍の奴らもそれ気にしてたら戦えないから無いものとして動くだろ」

「あー。……なんつーかよ」

「ああ。どいつもこいつも救われないな」

「先に言うんじゃねぇよ」

仕様もないやり取りをレイスとライネが控えめに笑う。後者の笑いは、丁度現れたイェーナの声であっさりと掻き消されるが。


「随分楽しそうじゃないか?」

「楽しいわけねぇだろ。最悪だって話してたんだからよ」

「そうかい? まぁいいや。隊長さんにうちは準備できたって連絡に来ただけだから」

「わかった。カッセルとグライツは?」


「もうじき終わるんじゃないの? で、殲滅戦って事でいいんだよね?」

「そうだな。気は進まないが」

「私らはそういうの気にしないからね。やった頭数だけ報酬が貰えればそれでいい」

「そう言って貰えると助かる。……あぁ来たな」

軽く首を回すイェーナの向こうに、残る2つの傭兵団長が歩いてくるのが見えた。

2人にも改めて殲滅の指示とゲランドの部隊が作った突破口に応じて動く事までを伝える。やはり気が進まなそうなカッセルと無表情に説明を聞くグライツにもこのまま動きがあるまで待機を指示し、取り敢えずは解散した。次にちゃんと顔を合わせるのは事を終えた後だろう。


少し不満げなライネから視線を外して空を見上げる。

すっかり暗くなりつつある空を眺めながら軽く体をほぐし、改めて気を引き締めてその時に備えていた。


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