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1-2

人間は、自分達が住むこの大陸をこの世界の全てと考えた。

大陸の外には広い海が広がり、その先には別の大陸があるとも言われているが……それを捜し求め、帰ったものはいない。

人間と亜人たちはその世界を5つに分割し、互いが互いを服従させるべく泥沼の戦争を続けている。




500年前。


もはや御伽噺でしか聞かなかったような魔物がそこかしこに現れ始めた。

最初は静かに人々の噂で囁かれていた程度だった。

…そして爆発的にその数を増やした。


ある日。

何の前触れもなく空一面に暗雲が立ち込め、稲光が地を打った。


最早、吟遊詩人も紡がぬ。

カビの生えた歌の中で神や勇者に打ち倒される存在。

魔物の王が北の火山から復活した。


圧倒的な戦力差は、季節が一度巡り切らぬ内にその地の大半を魔物の支配する土地とした。

人間も亜人もその境無く、家畜として、餌として、苗床として魔物に蹂躙された。


当時、現在と異なる国境で東西南北の4国家に分かれていた人間と亜人間の世界は覆された。

その中でも特に、北の人間の国家ケルニアは完膚なきまでに破壊された。

火山を中心とした大陸北端の地は現在に至ってまでも、どの国家も領有しない不毛の地となっている。



世界はこのまま魔物の物となるものと思われた。

しかし、5人の勇者が現れ、その魔力で、神の加護で、膂力で、魔族の軍勢を薙ぎ払い、打ち砕いた。

北へと追い詰められた魔王は最後に自らの命と引き換えに、勇者達を道連れに大陸の北にある火山に消えたという。


――よくある耳ざわりの良い英雄譚。





そして後に残された者達。

人間、エルフ、ドワーフなどの亜人。そして魔物たち。

彼らは今も互いが生き残る為、争いを続けている。


集団化し、村を、町を、国家を形成し、安全な場所を手に入れた。

安全を手に入れた者は数を増やし、肥大化した集団・国家同士が互いを屈服させ、ある物は協力し、集団は現在は5つの国家に大分された。

勇者が救った人間や亜人間たちの世界は皮肉な程に、戦う相手が変わっただけだった。


今でも続く殺し合い。

種族間の生存競争が、所属する集団の生存競争に切り替わっただけ。


憎しみと復讐が蔓延している国境を行商人が渡り歩く。

その国境を少しでも広げるため、国家の名を背負った兵たちが、金で雇われた傭兵たちが、血を流し屍の山を築く。

屍を前にした者が復讐の為、兵となり、また倒れる。

全てが疲弊しきっていた。


結果的に、近年では大きく国境が動くような大規模な戦争は起こらず、

国力の低下により、現在は幾許かの平和とも言える状況が続いている。









クラスト王国。

5国家の中でも2位の領土を持つ国家である。

世襲制で騎士道と貴族。そして腐敗が牛耳る国。

比較的肥沃な地域に存在し国力も高いが、その土地を求める周辺国家より度々侵略を受けている。

地図は目まぐるしく書き換えられており、国境線の長さから傭兵の募集も多く、戦闘能力を金銭に換えやすい国である。


ここ国境の町パドルアは物々しい雰囲気ではあるものの、戦闘員を含め人の多さで賑わいを見せている。

クラスト東部最大の町で、国境寄りに要塞を内包している。




俺、リューン・フライベルグはこのパドルアで、主に首都近辺の町と往復する商人の護衛を請け負いながら生活している。

俺の所属している冒険者ギルド:バステトは傭兵以外の募集も含め、斡旋する仕事の数が群を抜いて多い。

このところ、王都に出ても仕事が兵士位しかなく、結局前線へ赴き戦うのであればという事か、経験の浅い新人も多い。

俺は同じような護衛の任務を繰り返しながら、かれこれ5年近く経っており、古株の部類となりつつある。




遅めの朝食をゆっくりと取っていたせいか、もう昼に近い。

定宿の女将に呆れられながら宿を出た。

人通りの多い表通りを避け、人通りも疎らな裏道をギルドに向かう。



ギルドは大きな石造りの建物である。

広場の石畳と相まって、荘厳とも言える雰囲気を醸し出しているおり、さながらちょっとした城か要塞のようだ。

ギルド内は、朝は当日の依頼を探すもの、夜は報酬を受け取るもの、翌日の仕事を探す者でごった返しており、

仕事の件数に比べ人が多い時などは仕事の取り合いでのいさかいも稀に起こる程だ。


この時間でも新しい仕事の依頼者や、自分のランクを確認しに来るものなどでそれなりの活気がある。

仕事にあぶれた者が広場でぼんやりと空を眺めている程度、という訳ではない。


「あらリューンさん、またオルビアさんの所の食事付きのがあるよ。受けるかい?」


大きく開け放たれた扉から入った所で中年の女性、俺がこのギルドに所属した時からいる、キマムという女性に声をかけられる。

「ああ、おはようキマムさん。それ、受けると思うけど…規模と行き先は?」

「もうこんにちはだよ。4、5人で今回は王都の往復だってさ」

人数はそこそこの頭数だ。馬車1台か2台といった所か。

「あんたも中々ランクは上がらないねぇ。報酬も変わるだろうに。」


依頼の失敗はギルドの信用失墜に繋がる為、各冒険者にランクをつけている。

明らかに力不足な者が仕事の斡旋を受ける事を避けるためである。

ランク上下の判定根拠は仕事の請負回数よりも、戦闘の経験回数やその成果と報酬金額などが大きい。

俺のように比較的安価な護衛任務ばかりを受けている者は、ランクの上昇は望めないのが現実だ。

現在のランクは3。ギルドの看板とも言える最高ランクは6である。

このペースでいくと、死ぬまでそのランクに至る事はなさそうだ。


「別に生きていくのに困らない程度は貰えるからランクは気にしてないよ。あと、その仕事は受ける。出発は?」





明日朝の出発に備えて準備を始める為、町に出ることにした。

念の為の簡易な保存食。靴や武器の念の為の整備を考えるとあまり時間はない。


足早にギルドを出る所で、絵に描いたような駆け出しの若い冒険者4人組とすれ違った。まだ幼さの残る顔。

あんな子供が冒険者なんていう、根無し草のような職業を選んでいるようではクラストも長くはない。

いや、どの国家も同じ事か。

ぼんやり考えながら行き付けの店に買出しに向かった。




翌朝。




女将に昨晩頼んでおいた早目の朝食を取り、指定の待ち合わせ場所である町の正門で早めに待機する事にした。

早朝とはいえ、パドルアはこの時間でも人の往来は比較的多い。人や農作物を積んだ馬車などがひっきりなしに行き違っている。


「やはりリューンか。もううちのギルドの護衛専属になってしまえばいいんじゃないか?」

長い金髪、豊満なスタイル、そしてそのラインが強調された細身の服。

オルビア・サーディ。パドルアでも複数ある商人ギルドを太客とする輸送ギルドに所属する女。

パドルアではそれなりに名前が知れており、どんな物でも、どんな量でもどこまででも運ぶという噂だ。

実際には、そんなものは尾ひれがついた噂で、無理な仕事は受けないと言うのは彼女の弁だが。


「残りの人数は?」

「そこにいるだろう?」

彼女が指差す方を見て目を疑った。昨日ギルドですれ違った4人組だ。


「冗談だろ?」

「冗談じゃないからお前がいるんだろ?」

「意味がわからん」

「頼りにしているって事さ」

オルビアはからかう様に笑いながらその4人組の方に俺を促し、互いに簡単な自己紹介をさせる。

別に彼女もむざむざ命を落としたい訳ではないだろうが、護衛任務の報酬は安い上に運ぶ商品によって護衛の数も上下する。

それ程の荷物を運ぶ予定ではないのだろう。

4人に簡単な自己紹介をし、出発する事とした。



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