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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その7-2
197/262

08

せわしない時間が過ぎて行く。

準備を整えた背嚢を玄関に放り投げた所で、階段から耳長2人が降りてきた。


「リューンフライベルグ。世話になった」

「護衛は南の門で合流だ。俺の名前を言えばわかる」

差し出された華奢な右手。それを握り返す。


「恩は必ず返そう」

「返して貰いに行くから待ってろ。家族にも宜しくな。ティアも元気で」

「首飾りなど頂いてしまって。いつかお礼を」

「そんなのいいって……選んだの俺じゃないしな。こんな忙しい感じですまない。落ち着いたら遊びに行かせてくれ。あぁクレイルも連れて行くと思う」

「……。」

何とも言えない表情を浮かべるティア。まぁ、筒抜けだったのだろう。表情にその答えは読み取れないが。


「じゃあ、またな」

「ああ。命は大切にしろ」

「言われなくたって」

何の因果か、出会った時と同じく革の胸当てを身に着けたままだが。

とは言え、感傷に浸る間などない。次は俺達も出掛ける番だった。彼らの背中が見えなくなったところで振り返る。


「じゃあ、行って来る」

「また家の中、寂しくなっちゃうから早く帰ってきてよね」

「分かってる。お前は大人しくしていてくれ」

「言われなくたっていつもそうしてるよ。先生がそう言ったんじゃん」


「ミリア。行ってくるね」

「うん。気を付けて。先生、お願いね」

「分かってる」

いつも通り、2人が軽く抱き合うのを眺めながら背嚢を背負う。それを背負ったまま、いつものように抱きすくめられ。

これもまたいつも通りだが。玄関で見送る彼女に軽く笑って見せた俺達は、北門へ向けて歩き出した。







先に簡単な打ち合わせをしておいたのは正解だった。北門で再度の顔合わせの後、迂回する組とも町を出た所ですぐに分かれられた。どう考えても彼らの方が時間を要する事が分かっている。必要な時に都合よく現れてくれればいいのだが。


揺れる馬の上で、傾いた日を眺めていた。

腕の中のレイスはが一度こちらに振り返り、軽く微笑んで前に向き直る。……それとは対照的な人物が、隣で文句を言っていた。


「くっそ。こういうのが嫌だから王都から出て来たのによぉ」

「そう言うなよ。正規軍に着いて行った方がよかったか?」

「両方嫌だっつってんだ俺は」

隣に並んだ馬上。見慣れた金髪の魔法使いは、顔を合わせた折からずっとこの調子だ。


「悪かった。でも、お前が居てくれると心強い」

「やめろよ気持ち悪い。って言うかあの子、よく出掛けさせたじゃねぇか」

「町自体無くなったんじゃ話にならない。……スライも一緒だろ?」

「まぁそんな所だけどな。本当、訳の分からねぇことしやがって。ぶっ飛ばしてやる」

「本当、殴り飛ばしたい。今更一体何がしたい」

「だよなぁ」


昨日の時点で、大半の冒険者が正規軍の補助か補給部隊の護衛でほぼ押さえられていた。それを無理矢理こちらについてきた貰ったのだが。正直、これは貧乏くじかもしれない。

しかし、先程の言葉は嘘ではなかった。彼の判断力や実力、言わなくても通ずる部分というのは、ランクや戦闘能力などで置き替えられるものではない。彼もそういった部分は認識してくれているのだろう。

幾分か機嫌が良くなった様子のスライから視線を外し、周りを見渡す。

大半の兵が徒歩で残りは食料や……女達を載せた馬車だ。後者はバレスティの方に限定されるが。何れにせよ、遮るものは少なく見通しは良い。先頭を行くそのバレスティは流石に騎乗している。団員たちがそれに続き、更にその後ろを追うカッセル達。その中にまみれた俺達も、彼らから見れば同じように目立つのだろう。


やがて夜となり、遅めの野営を始める事になった。一応、毎晩彼らとは簡単な打ち合わせを行う予定となっている。兵達の行列の中腹付近。彼らが打ち合わせに集まるのを待った。






簡単な食事を終え、焚火を取り囲んでいた。

その更に周りを取り囲むように野営しているのは、カッセルの部下たちだ。

自分たちの配置が列の後半な事に加え、正直傭兵をそこまでの信用などしていなかった。流石にそれはないだろうが、実は相手と繋がっていて前線で差し出される、などというのは勘弁して欲しい。

焚火を眺めるスライが欠伸を始め、カッセルが様子を見に行くべきかと言うのに、行くなら俺だろなどと返していた頃。


「いやぁ遅くなっちまった。わりぃな」

相変わらずな薄ら笑いを浮かべたバレスティが現れ一度俺達の顔を見渡す。少しカッセルが横にずれ、その隣、スライと挟まれるような位置に座り込んだ。両隣の2人が一瞬、露骨に嫌な顔をしていたが。


「で、隊長殿。調子はどうだ?」

「調子も何も、まだ何もしてないだろうが」

「そっちの団長さんとは知り合いか? 話し込んでいたみてぇだが」

「全然別の話での知り合いだった。気にしなくていい。偵察は?」


「まだ戻らねぇよ。早いんじゃねぇすか?」

「一応な。野営の煙でも見えればもうけものだろ?」

「煙ねぇ……」

丁度良く月は大きく欠けており、とてもそういった物が見えるとは思えなかった。とは言え、相手の足の速さと意図が分からない以上、一応の警戒はしておきたい。


「明日はカッセル達の方から出して貰う。大丈夫か?」

「問題ありませんね。報酬分はしっかり働かせてもらいます」

その言葉にバレスティが小さく顔を歪めている。まぁ少しでも楽をして稼ぎたいというのが本音だろう。

言い方は悪いが正規軍崩れであるカッセル達はその辺りはしっかり働こうとする筈だ。そもそも練度の向上の為に出張ってきたような連中で、普通の傭兵として認識すべきではないかもしれない。


「今日はもう十分だな。毎日簡単にでもいいから打ち合わせはさせてくれ。バレスティもカッセルも、何かうまいやり口なんかが思いついたら言って欲しい。少しでも参考にしたい」

「へいへい」

「わかりました」

返事半ばにして立ち上がるバレスティと、ゆっくりと立ち上がり軽く頭を下げて戻って行くカッセル。対照的な2人に顔を歪めているスライに私見を述べる。


「まぁ、混ぜて戦わせるのはうまくないよな」

「ありゃ無理だなぁ。大体あのおっさん、くっせぇんだよ。少しは遠慮しろっての」

「……?」

「やってたんだろ。そういう臭いだった……あぁ、レイスちゃんごめんな」

「いえ。別に大丈夫です」

静かに首を左右に振るレイスに、スライが苦笑いして見せている。

馬車に女たちが乗っているのが時折見えていた。傭兵団であればそんな事はある種普通だが……少し長期に渡ると踏んでいるという事だろうか。短期間であれば多少は我慢するだろうし、あれは娼婦たちという雰囲気ではなかった。彼らの所有する奴隷たちだろう。

レイスには思う所がありそうだが、先程から眉一つ動かさない。感情を殺す事に彼女も相当に慣れてきており頼もしくはある。……あまり歓迎すべき事ではないのだろうが。


見張りにも立たなくていい野営はどうも緊張感が薄れてしまう。周りは護衛どころではない人数の戦闘員に囲まれており、それは殊更だ。内心少しうんざりしながらも、隣で静かに横になっているレイスに一度視線を落とし、目を閉じた。


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