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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
日常パート3
196/262

05

今度はレイスを連れ、ひどい既視感を感じながら再びギルドへと向かう。


大した間もなく再び訪れた石段。受付の顔馴染みが、俺の顔を見て奥の部屋を指さした。それに軽く頭を下げ奥手の大部屋へと向かう。


十数人程が掛けられる会議室と楕円形の大きなテーブル。少し柄の悪そうな3人とこの中ではしっかりとした風な1人。その上座に座っていたヴェツラがこちらに視線を向け立ち上がった。


「フライベルグさん。お疲れ様です」

「遅くなってすみません。皆が?」

「そうです。では私の方から紹介を――」

ヴェツラから、中級騎士という役職と名前だけの簡単な紹介を済ませて貰い、次に彼らの名前と抱えた戦闘員の数を聞く。


「リューン・フライベルグだ。後ろで好き勝手な指示を出す。鬱陶しいだろうがよろしく頼む」

そのいい加減な自己紹介に、苦笑を浮かべる者が3人と、白けた表情で視線を背ける者が1人。

その苦笑を浮かべた方の1人、右目の上に派手な傷跡が残る中年の男、確か先程バレスティと名乗った男が口を開いた。


「で。騎士様はどうするおつもりなんだ? 並んで突撃でもするか?」

「正規軍相手だ。練度が落ちるあんた達に正面からぶつかって貰おうって話じゃないな」

「おぉ。はっきり言うね。」

「ああいや、悪気はない。あっちの練度が高いって話だ。無駄に死人出すよりいいだろ? 聞いてるだろうが今回の目的は、侵入してきた奴らを追い返す話だ。順番どころか、ばらけて攻撃を仕掛ける事になると思う。あんたらもその方がやりやすい筈だ」


「まぁな。他所の連中と混じって戦うってのはやりづれぇ」

「うちもアンタん所と混じって戦うのは御免だねぇ」

そこに軽口で横やりを入れたのは多分……女だろう。赤い髪と日に焼けた顔、そして恐らくこの中で一番体格のいい彼女は、確かイェーナと名乗っていた。


「何れにせよ……ヴェツラさん、地図はありますか?」

「あぁ、ちょっと待って下さい。そこまでの話になるとは思わなかったもので」

言いながら部屋を出て行ったヴェツラ。その戸が閉まった所で、白けた顔を浮かべていた銀髪の青年が口を開く。


「ならあんたついて来る必要ねぇだろ。うちは護衛は仕事外だ。行くなら他所にくっついて行ってくれ」

「おいおい。お客様だぜ?」

その突っかかるような言葉をバレスティが苦笑いを浮かべたままで窘めるが、白けた視線は相変わらずだ。

俺よりも若く見えるが、そこに掛けているという事はこれでも団長という立場なのだろう。すぐ隣の魔術師の体が少し強張るのを感じつつ、苦笑いを浮かべて見せる。


「グライツ……さんって言ったよな。自分の身くらいは守るから大丈夫だ。あんたは自分の心配しろ」

「なんだと?」

「一応確認するが、俺は依頼者だ。最近この辺りじゃあ傭兵団は商売成り立たないって聞いてる。折角の儲け話から外れるか? 次はないぞ?」

「……。」


「ぎゃあぎゃあ文句を言うつもりもないし、意見も言って欲しい。だが、舐め腐るな」

不満げに頷く青年に、説明を続ける。


「魔物と正規軍。まぁ訳が分からないのが状況だ。正直、あまり余裕はないと思う」

「……。」

不満げに視線を外したグライツと、相変わらず薄い笑いを浮かべたバレスティとイェーナ。そこへ地図を持ったヴェツラが戻りテーブルの上にそれを広げる。





「ここがパドルアだろ。ウルムには正規軍が向かうから東の街道周りは放っておいていい。この中の2人には俺と一緒に北上して貰う。残る2人は、少し東西から迂回して貰ってこの辺りで合流だ。」

地図の上、俺が指をさしたのはパドルアから北の森、それを抜けた所だった。

一旦沈黙し、続く俺の言葉を待つ彼らに説明を続ける。散開する訳を聞きたいんだろう。


「東西を任せる2人だが……誰か魔物の討伐をよく受けていないか?」

見渡した顔。その表情で簡単に判断し、嫌そうな顔のグライツとイェーナに向かって地図の上に指を広げて説明する。


「このくらいには散開して、魔物を片付けながら進んで欲しい。全てなんてのは無理だと思うが、少しでも片付けてくれ。事を構えてる最中に後ろから魔物の襲撃なんてのは御免だ。討伐自体は良くやるんだろ?」

「まだ何も言ってないじゃないか」

相変わらず嫌そうな顔のイェーナ。


「顔に書いてある。安心してくれ、報酬はそれぞれ頭数に応じて不公平なく払う。魔物だからってそこは叩いたりしない」

「で、俺達は先に突撃って事か?俺はそっちの方が不満だが」

やはりこちらも嫌そうな顔のバレスティ。


「いや。理想はここでちょっかい掛けてる間に左右から挟む形だ。もしこの辺りまで来ていないようであれば再度展開する」

「そう上手く行くかねぇ」

「色々と考えてはいたんだけどな。結局魔物を片付けて普通の戦いにもっていかないと話にならない」

「そりゃ机上ではそうだろうけどな」


「一度戦ったが、先頭辺りにいた騎士は強かった。他もそれなりだろ。両方の相手は無理だ」

「はぁ? あんた何言ってんだ?」

「ボルナの先で遭遇して、仕方なくちょっと脅して逃げて来た」

「脅かしてって。小奇麗な獲物ぶら下げて情けない嘘つくなよ」


「これはさっき買った。魔力の通った使い慣れた剣、そいつにへし折られたからな」

「はぁ?」

「黒い鎧の騎士だ。馬鹿みたいな長さの剣を振り回す。それに強い魔力があるらしい。受け止めた剣が折られた。……気を付けてくれ」


「尚更気が進まねぇよ」

「だが、一人で戦況をひっくり返せる事なんてない。周りから削って行って、じきに囲めばそれでいい。そもそも、倒す必要だってない」

その言葉に、大柄な女戦士が呆れた表情を浮かべる。


「随分と消極的だね。やる気あんの?」

「言っただろ? 招いてない客には引き取ってもらう」

「撤退しなかったら?」

「……正直に言うと。何で今、侵攻して来ているかわからない。それにこんな突き出した前線じゃ包囲されるだけだ。クラストと隣のマルトの同盟がある今じゃ尚更だろ。もし俺が攻め込むならもっと西で、面で南下する」


「そりゃあそうだね。じゃあどうなる?」

「わからん。自殺願望者なら、殲滅するしかない。引き取ってくれる事を願ってくれ」

若しくは、この状況でも自殺ではない何かがあるか、なのだが。


黙り込む彼らの顔を再び見渡す。先程から一度も喋っていない一人は、俺の視線にも軽く頷いて見せるだけだ。何処かでも見たような気もするが……まぁいい。どうやら彼とお喋りなバレスティが旅の連れになりそうだ。


「中央の2人については後方から補給を宛てられる。散開する2人は……合流したら幾らかいい飯が食えると思ってくれ。少し多めに食料を……ヴェツラさん?」

「用意しましょう。他には?」

皆が沈黙で答えるのを確認し、立ち上がる。


「夕方には出発だ。北門に集まってくれ。俺はこいつともう一人連れて行くようになると思う。……宜しくな」

だらけた返事が返るのを待って、部屋を出た。






「リューン様。あの、こんな言い方はなんですが。あの人たち、大丈夫ですか?」

「金の分は働くだろ。頭数一日単価で払う事になっていると聞いた。現地で動きが悪ければ、討ち取った数当たりの追加報酬を出す」

無意識に、思い出したくもない昔の記憶を辿る。戦闘を長引かせ、しびれを切らした依頼者が追加報酬を出すのを待ってから相手を殲滅するのはまぁ、常套手段だった。

とは言え今回の場合、相手は進軍してくる筈だ。停滞したくても出来ないだろう。


「オルビアさん達は。大丈夫でしょうか」

「正規軍に探索を依頼するよう頼んだ。あっちに行きたいが……そうもいかないだろ」

「そうですね」

軽くため息をつくレイスと……そこに掛かる声。


「リューンさん?」

振り向くとそこには先程一度も余計な口を挟まなかった、カッセルと名乗った男が立っていた。短い髪と表情の薄い鋭い顔つき。それが手に持った包みを差し出している。


「賄賂はお断りだぞ?」

「ここじゃあそれと一緒かもしれませんけどね。グレトナさんがお祝いだと」

「は? グレトナ?」

「……まさか俺の事、覚えていないんですか?」

「いや……誰だっけ?」

その言葉で、外見に似合わないような仕草で盛大にがっくりとする男。


「グレトナさんの所で一緒に戦ったじゃないですか」

以前グレトナの所にいた折……言われてみれば居たような気がする。既視感は間違っていなかったようだが。


「それがお前、なんでこんな所に?」

「クラストと関係良くなったんで西側の正規軍は暇なんです。で、グレトナさんが練度向上の為に傭兵でもやってこいと言い出して」

「なんだそりゃあ……」

「私も最初聞いた時にはなんて事させるんだって思いましたよ。でも、意外と志望者集まっちゃって、本当にやる羽目になって。で、繋ぎをつけて貰ってこっちに向かってる最中にこの話を聞いて」


「丁度よかった、って所か?」

「まぁそうなりますね。指揮するのがあなただって聞いて、流石に吹き出しましたけど。顔くらい覚えておいて下さいよ……」

細い目を曲げて笑って見せるそれが、再び包みを差し出す。


「いや悪かった。何処かで見たな、とは思っていたんだが」

「で、これをあなたに渡すように言われています。あとビュートからも宜しくと」

「みんな元気そうか?」

「元気ですよ。ただこの状況だと、みな北のウルム近くの国境に出張っているでしょう」


「戻らなくていいのか?」

「向こうで戦うとして、場所が違うだけで相手は変わりませんからねぇ」

「……わかった。頼りにさせて貰う」

「こちらこそ」

「じゃあ、後でな。グレトナに礼の手紙でも書かないとな」

「そうしてやって下さい。喜びますよ」





再び歩いている家への道。家近くで人通りが少なくなった辺りで包みの紐をほどく。

「え、今開けるんですか?」

「いいだろ? 気になる」

「子供じゃないんですから……」


レイスの呆れた視線を感じながら解いた包み。簡単な手紙と共にそこから取り出されたのは。


「もうちょっと長ければなぁ……」

「貰いものに文句つけちゃだめですよ。それに。それって、きっとすごく高価な物ですよ」

「だよなぁ」


一振りの小剣。肘から手首程の長さで、予備に持ち歩くには具合のいい大きさだろう。彼らしい装飾のない堅牢な作りの鞘。そこから引き出した刀身は薄く赤い光を放っている。

同梱されていた手紙を開く。


「強化だけしてある。好みだろ。あと、場所と日にちを教えろ」


書かれた文字は適当な1行だけで名前もないが。それは他国であるにもかかわらず、ここまで出張ってくるという宣言に他ならなかった。

思わず笑みを浮かべる俺を、見慣れた右目が変な顔をして見上げていた。


やっと出発できそうです

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