↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
日常パート3
192/262

01

少し物々しい雰囲気の北門をくぐった。


先程すれ違ったがらの悪い集団は、所謂傭兵という奴らだろう。

町の雰囲気から察するに、途中で別れた彼らは仕事を言葉通り適当にこなしてくれたようだ。……ウルムの敗残兵が辿り着いていても結果は同じだろうが。

とは言えそれを確認しない訳にもいかないし、引き受けた仕事についての報告もある。


「スライ。俺はギルドに顔出してくる。みんな連れてオルビアの家に寄って貰っていいか?」

「……わかった。そのまま帰っちまっていいか?」

「ああ。この調子じゃギルド登録者も駆り出されるな」

「だろうよ。だからさっさと帰っておきてぇんだ」

「すまない。ちょっとだけ寄り道してくれ。あと馬」

その言葉に手を挙げて答えるスライを見ながら馬から降りた。


「リューン様」

「なんだ?」

「戦争になるんでしょうか」

「……なるだろ。というか、既になってる、っていうのが正しいんだろうな」

気の乗らない返事を返しながら馬上のレイスに左手を差し出してやる。

彼女が不安げな表情でその手を掴む。馬から降りたのを確認し手綱をスライへと差し出した。


視線の先の金髪はひどく気の乗らない顔をしている。その点で言えば、俺も大差ないだろうが。

彼はここまでの道のりの最中も、必死に何かを考えている節があった。しかしこの状況で戦いを回避するような策は思い浮かばなかったのだろう。

当然ではある。既に進軍してきている相手と陥落した都市。それは事が始まっているという事実に過ぎない。


「ヴォルフとティアも一緒に行って先に戻っていてくれ。なるべく早く済ませてくる」

4人をそこに残し、俺はギルドへと歩き始めた。





パドルアの通りは、いつになく物々しい雰囲気を醸し出している。武装した人間の比率が異様に多いが、それを憲兵たちが諫める様子もない。つい先日の出来事ながら、そういった出来事の噂は風のように伝わっているようだ。

しかし、俺はその中でも殊更に気の浮かない表情をしていただろう。

やがて辿り着いたギルドの石段を早足で登り、受付に声を掛けた。


程なく現れたパドルアのギルド長であるヴェツラは流石に憔悴を張り付けている。その憔悴に更に張り付けた無理矢理な笑顔は少し痛々しい。


「フライベルグさん。無事で良かった。概ねの話は聞きました。ウルムに回ったと聞いて心配していたんです」

「ウルムは遠目に見て諦めて帰ってきました。別れた彼らは?」

「町で避難の希望者を募ってここまで戻ってきました。町の大半を引き連れて一昨日こちらに着いたんです」

「……一昨日?」


「良くしてやってください。相当に疲れていました」

「そうします。あの……ウルムに向かった輸送ギルドの護衛が出ていた筈ですがそちらは?」

「今のところ、戻っていません。それ以外にも行方が分からない者等もいて、こちらでも把握できていない状況です」

「……そうですか。輸送ギルドの件、オルビアという者なのですが友人なんです。何か手掛かりがあれば教えてください」


「わかりました。ただ、あまり期待しないでください。情報自体が少ない上に、何が正しいのか把握しあぐねています」

「分かっています。もし何かあればでいいんです」

「わかりました。留意しましょう」

「こんな事を聞いておいてなんですが……あまりこの先には関わりたくない」


「あなたについての人となりも伺っていますし、気持ちもわかります。ですが、何があったのかは聞かせてください。あと……私の方からもお話だけはさせて下さい」

「……わかりました」


先日ここを発ってからの事をかいつまんで説明する。その後、告げられるパドルアの現在の状況。

ウルムとボルナ、2方面で迎え撃ちたい。

その為、傭兵団を差し向けるべく手配しているが、それが固まらない為に数の少ないパドルア付正規軍も発てない事。

隣国へ情報共有という体の支援要請を行っており、それも王都への報告に含まれている事。


「ウルムの生き残りは?」

「把握できていませんが、こちらに逃げてきている人間も居ます。その中の一人から話を聞いていたのですが、情報が混乱していて真実はわかりません。隣国へ逃げた者がいるという話も聞いています。……フライベルグさん。実は折り入ってお願いがあるのですが」

「前線で戦えってこと以外なら一応、話は聞きます」

「……少しだけ違います。少しですが」

「……。」

「傭兵達です。その指揮をお願いしたい」

その言葉に、即座に首を横に振って見せる。


「戦争に出張るような話は立場を放り投げても断ろうと思っていた。大体、傭兵なんぞの頭数で何とかなる話じゃないでしょうが」

「仕事の匂いを嗅ぎつけて隣国からもこちらへと向かっている傭兵団が居ます。今居る者達と合流すれば数百になる。正味の戦闘員はもう少し少ないのでしょうが、一旦の数では必要十分でしょう。彼らの後ろで指示を出すだけで構いません」

「そんなの、俺じゃなくたって――」

「彼らのような輩に正確な指示を出すには、立場と実力、その両方が必要です。出来る相手をただ皆殺しにして来いという話であれば兎も角、あなたから聞く限り今回は相手が正規軍の上に魔物を引き連れているという」


「……。」

「フライベルグさん。このパドルアで彼らに頭ごなしな指示を出せる階級の人間で、あなたほど腕が立つ人間がいると思いますか? それに。場合によってはここも戦場となる。それは望まないでしょう?」

「……少し考えさせてください。逃げるようなら早めに言いに来ます」

「わかりました。いいお返事を期待しています」

言葉とは裏腹に申し訳なさそうな表情のヴェツラと別れ、ギルドを後にした。




歩きながら幾度もすれ違う帯剣した人間。それらを、何か他の世界の事のように眺め歩いていた。

ひどく申し訳なさそうな表情を張り付けていたヴェツラの言葉。

「場合によってはここも戦場となる。それは望まないでしょう?」

そんな事は分かっていた。ここが戦場になる事だってあり得る。それを防ぐ為に大芝居まで演じて見せた。

しかし。それでは足らず、この町を人質に戦場へと駆り出されようとしている。


古巣がこの世から消えてなくなるのは気分が悪いが、全て投げ出して逃げるという選択肢をとっても彼女達2人を守りたいと思っているのは事実だ。

しかし。ゆっくりと脳裏に浮かぶ人物たち。

スライと彼らが面倒を見ている子供たち。行方の分からないオルビア。3人の使用人。結局さんざ世話になってしまったグラニス。先程通り過ぎた草原の息吹亭のルシアや他の従業員。武器屋の店主。ギルドの面々。アレンをはじめとした組織の連中。養成所の講師たち。当人がそもそも守る対象であるミリアにだって家族や友人がいる。


知らず知らずのうちに足元から絡みついた何か。以前はそんな物を感じる事もなかった。それを温かいと思ううちにいつの間にか取り込まれていた俺の体は。

……それらを振り払う事など、出来るのだろうか。





やがて家の周りの見慣れた風景に辿り着く。その風景に映るレイスと耳長2人。向こうもこちらに気付いたらしく、レイスが右手を振って見せている。


「どうだった?」

俺の問いに片腕の魔術師が首を左右に振って見せる。そちらに戻っていたら、と薄い期待を抱いていたが。


「家の中も見ました。あの感じだと出掛けた時のままだと思います」

「隣国に逃げた連中もいるらしい。グレトナに手紙を出してみる」

「はい。あの――」

「わからん。でも、言っただろ。あいつはしぶとい。今頃酒でも食らって寝てるって」

「……そうですよね」

少し潤んだ彼女の右目を正視できなかった。そんな確証などある訳がない。強いて言えば、あるのは嫌な予感だけだ。

この状況で彼女を探しに出かけるというのは流石に難しいだろう。正規軍に占領された町に潜入する、などと言う話であればまだ伝手や方法を考えたりもする。しかし魔物なんぞを引き連れた軍と燃え落ちた町という状況では、仮に生き残っていたとしてもどこをどう探せばいいのかまるで見当がつかない。

ざらつく感覚と無力感に大きくため息をついていた。その仕草を見上げる見慣れた右目。

それを誤魔化すよう、後ろの2人に話を続けた。……こちらも必要な話だ。


「あぁそうだ。ヴォルフ、ティア」

「なんだ?」

「こんな所で悪いが……明日にでも、ここを発ってくれ」

「リューンフライベルグ。お前は――」

「駄目だ。帰ってくれ。あんた達はここにいるべきじゃあない」

「……。」

「迷惑だなんて全く思っていないし、今回だって本当に感謝してる。本当は俺が送っていきたかった。……また落ち着いたら顔でも出しに行く。分かってくれ」

「わかった。では明日か明後日にでも発つとしよう」

ヴォルフの隣、ティアも一度こちらに視線を寄越して小さく頷いて見せた。


大きくため息をついて、再び家への道を歩く。


「リューン様」

「ああ。」

「早くミリアに会いたいです」

「……そうだな」


あと少しでやっと辿り着く、帰るべき住処。

遅い、とでも言いたげなミリアの不満顔が浮かぶ。

隣の魔術師の髪に一度軽く触れ、その足を少し早めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。