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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その7-1
185/262

01

早朝、人気の少ないのパドルアの通りに響く4人分の足音。

隣を歩くレイス。そして俺達の後に続くヴォルフとティア。

念のための確認で振り返る。もう3度目なのだが。


「なぁ。出発してからやっぱりやめた、っていうのは無しだ。……本当に行くのか?」

「リューンフライベルグ。何か来て欲しくない事情があるならそう言え。私達はそうすると決めた」

「困る事なんてない。けど命の保証だってできない。わかるだろ?」

「森を出た時点でそれは分かっている。別に自殺したい訳ではない。わかるだろう?」

わざと同じ言葉を選んだのであろうヴォルフに大げさにため息をついて見せ、再び前に振り返った。


南からの客人を同行させるに至った経緯。経緯という程でもないそれを一度思い出す。

出発の準備が整った俺達を送りに出てきたミリア。彼女に、行ってくる、などと告げている所に旅支度を終えた2人が降りて来たのだ。まさか今から2人で帰るのかとも思ったが、彼が告げたのは俺達と一緒に行くという、想定の斜め上の言葉だった。

本音を言えば、頼りになる弓兵と神官、そして若い騎士が居ない今の状況で、彼らが同行してくれるのは相当に有り難いのだが。実力が間違いない味方が居るというのは、戦いになった折に相当に動きやすい。

その彼らがいる状況に慣れ過ぎていた事実も認めざるを得なかった。


昨日アレンの所へ向かいヒルダとライネについて尋ねた所、彼らの留守と共に、いい加減気楽に使うのはやめろ、などという有り難い言葉も頂いた。本音とは言い難い雰囲気で苦笑いと共に吐き出された言葉ではあったが、言葉面だけを受け取ればその通りである。

ついでに聞いた彼らの行き先は、オルビアが絶対に避けろなどと言っていたウルムだという。流石にその用件までは聞けなかったが。

件の手紙を渡している事を伝え、何かまずい雰囲気があるならオルビアと共に戻らせてやってくれ、という良くわからない事をついでに頼んだ。なんだそれは、といった顔をするアレンに俺もわからんなどと言いつつ。これで少しでも借りを返せれば、とも思ったが、正直意味の分からない頼み事だった。




「リューン様。大丈夫でしょうか」

「あいつ、殺したって死なないだろ」

「……そうですよね」

ここで不安を口にして暗い雰囲気を纏う必要もない。

ある意味では非常に不真面目な回答に、レイスが頷きながら別の問いを口にする。


「あの。ミリアは昨日大丈夫でしたか?少し落ち込んでいたように見えました」

その言葉に、少し考え込んだ。


昨日。大きな鞄を担いで階段を降りてくる所で、丁度戻ってきたミリアと顔を合わせた。

荷物を見て全て理解したらしい。何か話そうとしていたのであろう、明るかった表情は静かに消えて行く。スライが戻っていない事を告げると更に暗くなるその頬に触れながら、守りに行った村を焼いてなきゃいいんだが、などと軽口を吐きながらその目が上向くのを待った。

やっと上向いたその顔が口走った言葉は、今日は早く寝るか、という問いだった。一瞬その意味を考えたあと視線を逸らしながら、少しだけ、などと返した俺の手を一度握ったミリアは、その後はいつも通りだったように見えたのだが。

宣言通りいつもより少しだけ早く眠ったが、その眠るまでの間しつこいほど頭を抱きすくめられた事を思い出す。我ながらどうかと思うが、彼女の心中をさておいて少し緩みそうになる顔に右手を当てた。レイスがどうかしたのか、とでも言いたげな顔でこちらを見上げている。


「何でもない。さっさと連れ戻してこよう。ミリアが待ってる」

「……そうですね。あれ。あの人達、そうでしょうか」

その言葉で浮つくような心は落ち着きを取り戻し、レイスが指さす先へと視線を向けた。

北門の近く、たむろしている冒険者たちが見える。恐らく全員は集まっていないのだろう、そこには3人の比較的若い者達が座り込んでいた。

歩いてくる俺達に視線を向けた若い男は一度俺達4人に視線を流し、再びその視線を地に落とす。


「北に行く集まりでいいんだよな?まだ集まってないか?」

「あんたらも騎士様のお守りを頼まれた口か? 昨日戻ってきて今日また出発だけど何とか頼むとかってさ。人使い荒いよなぁ」

明らかにこちらの素性をわかっていないその愚痴じみた言葉に、流石に苦笑いを浮かべた。


「人使い荒いって所は同意だな」

「だよなぁ。大体その騎士様って冒険者出身らしいけど、俺の知ってるランク5とか6の連中にはそんな奴いないんだよ。なんだか知らねぇけどさ、足引っ張んないで貰いたいよな」

流石に堪えきれず、少し吹き出してしまう。隣のレイスもあらら、とでも言うように明後日の方へと視線をやっていた。吹き出す俺に訝しげな表情を向けるその若者から、苦笑いのまま視線を逸らした。


「よう、久しぶりじゃねぇか!」

通りの少し先からこちらに掛かる大声に振り返る。この所顔を合わせる事もなかったが、以前何度か一緒に仕事をした事のある大斧使いだった。

軽く手を上げて見せる俺の近くにたどり着いた彼は、俺の後ろを見渡しながら大きな声で話し始めた。


「随分偉くなったみたいじゃねぇか。俺も仲間に入れてくれよ」

「お前みたいにオーガと間違えられそうな奴は勘弁してくれ」

「ひでぇな。俺あんなに顔赤いか? 飲んでりゃわからねぇかもしれねぇけど」

「飲んだらなるのかよ。みんな怖がるからやっぱり無しだな」

「飲まなきゃいいのか……」

緊張感のまるでないやり取り。先程愚痴を吐いていた若者が、目を見開いてこちらを見ていた。


程なく集まった彼らを前に、軽く状況を説明する。

「大体は聞いていると思うが、馬で北に向かう。ランク5の魔術師が率いた一団が戻っていない。この所魔物も多い。あまりいい雰囲気には感じないが、生きていると信じて救援に向かう。理想は帰り道の彼らに途中で会う事だろうな。最悪なのは……まぁいい」

そこまで言った所で皆の顔を見渡す。一人の若い魔術師が、俺の後ろ、恐らくはティアの方を凝視していた。その視線を遮るように一歩右へと移動する。


「おい、お前聞いてるか。足引っ張るなよ? 俺も冒険者出身だが、ランクは3だった。この中には俺より腕が立つ奴もいるだろう。俺も足は引っ張らないように努力する。無理のない範囲で守ってくれ。頼むぞ」

話の終盤、先程の斧使いが軽く笑っていた。






早足で進む馬上の景色。前後を護衛に挟まれており、どうも今までにない状況で少し調子が狂う。

ヴォルフとティアが増えた事もあり馬が1頭足りなかった為、レイスは俺の前に乗せていた。ヴェツラが気を利かせて余計に用意をしていなければ、彼らには帰宅して貰っていたかもしれない。

一度視線を巡らす。同行者たちの質はまちまちに見えるが、そう悪い事はないだろう。再び前へと視線を向けた俺の隣に、先程の大斧使いが馬を寄せてきた。


「お前さ、守ってくれ、とか言ってんのな」

「守られるのも仕事だからな」

「そんな仕事あるかよ。気にしなくていい分、俺らは楽だけど」

「逆に気を引き締めてくれ。スライに関しちゃあ殺しても死なないと思っていた。それが戻っていない話だ」

「わかってるって」

少し顔を引き締めて戻って行く大斧使い。その距離が再びある程度のものになった所でレイスが振り返った。


「あの人、強そうですね」

「前にオーガに両腕折られてたけど、あの選択は正しかった。やる方だと思う」

「他の人は知っているんですか?」

「見た事がある程度が3人って所か。腕はわからない。……まぁ安心しろ、お前は守る」

「何言ってるんですか。私達、騎士様の護衛ですよ?」

「あのなぁ……」

顔を歪める俺を見て、レイスは満足そうに振り返った。




速度が衰えない所を見るに、ヴェツラは具合のいい馬を用意してくれたらしい。この調子でいけば、3日目の昼には到着する予定だった。

何事もなければ、という前提だが。


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