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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
日常パート2
180/262

08

結局、日を跨いでしまいました。慣れない事はするべきではありません。

昼を回ったテーブル。

2人を送り出し少しと言うには長い時間が過ぎた。そこで好き勝手に繰り広げられる話をぼんやりと聞き流している。


「クレイルさんってさ。引っ張ってくれる人の方が合うような気がするんだよねぇ」

「ティアさんはもっと穏やかな感じの人の方が、って思うんすよ。なんか一日中座ってそうだし」

「でもさ、そんな調子の人なんてそう居ないでしょ」

「ヴォルフさん、どういう関係なんすかね」

「別にそういうのじゃないらしいよ。この間、そんな話してなかったっけ?」

戻るまでは乗じてはいたものの、既に食傷気味な話題から意識を遠ざけ、庭の外を眺める。

大きめの樹木の下で座り込む噂の渦中のヴォルフは、朝見かけた時とその姿が変わっていない。本当にそのまま風景の一部になってしまいそうだ。

いつもはその隣にもう一人耳長が座り込んでいるが、連れの有無にその行動は関係しないらしい。

少し気になる事も出来た俺は、話が飛び交うテーブルから立ち上がり彼の元へと向かう。




「ヴォルフ?」

「……なんだ?」

微動だにしなかったその顔が、ゆっくりとこちらを向く。


「お前らってみんないつもそうやって……なんて言うか。座り込んで動かないのか?」

「今はその必要がないからな。別にいつもと言う訳でもない。私の集落にも落ち着きがない者もいるが、それでもお前達の様に毎日騒がしくはないな」

「月日が過ぎるのが早そうだな。老け込まないか?」

「お前達と比べれば私たちは寿命も長い。そういった意味では、お前たちが過ぎる時間に焦りを感じるのも理解するが」


「余裕だな。みんな幾つくらいまで生きるんだ?やっぱり100年くらい普通に行けるのか?」

「100歳?私はいま80くらいだ」

「は?」

「80だ。門の部族長は300くらいだな。……こういう答えでいいか?」

流石に狼狽しつつ言葉を返す。まさか嘘ではないだろう。


「長寿だとは聞いていたが。参考までにだが。ティアはその……幾つくらいなんだ?」

「彼女は私より年上だ。確か100歳前後だと思うが。何かあったか?」

「いや。……何でもない」

一応、俺は年長者に対してはそれなりに丁寧に対応しているつもりだった。両者とも自分より年下に見えていたのだが。経緯は兎も角、胡椒なんぞを買いに行かせてしまった。

ついでと言うかなんというか。クレイルがこれを聞いたらどんな顔をするのだろうか。

そして、その彼らと昼食の材料が未だここへ戻らない事を思い出す。流石に遅い。

家の方へと視線を向けると、話し疲れたらしいミリアがテーブルの上に突っ伏してこちらを見ていた。

ヴォルフとの話を切り上げた俺はそれに軽く笑って見せ、再び家を出た。




少し早足で家を出て一区画も過ぎない頃。後ろから駆けてくる足音に足を止めた。

「ご主人。ちょっといいすか?」

「なんだよ。昼作るの手伝うんじゃないのか?遅いから少し見て来ようと思っただけですぐ戻る」

「私今日は買い物担当で料理はしないし、ちょっと聞きたい事があるんすよ」

「歩きながらでいいか?」

「あー、大丈夫っす」

相変わらず適当な赤髪の言葉を聞きながら、再び俺は歩き始めた。


「で。話ってなんだ?」

「ご主人。エステラに何か言いました?」

「何かってどういう意味だ。質問の意図を判りかねるぞ」

「……怖がらせるような事、言ってないっすか?」

「あのな。むしろ何であんなに嫌われているのか、こっちが知りたいくらいだ」


気の進まない話をしながら、彼らが向かった筈の店を目指し通りを北上していく。

あまり宜しくない雰囲気の区画を抜けた先にその店はあり、いつもはそこを迂回していた。アンナが同行しているが今は少し急いでおり、そこを通り抜けようとしていたのだが。

人気の少ないその通りを横切ろうとした所で、彼らはあっさりと見付かった。


「だから悪かったって言ってるでしょうが!」

「は?悪いで済むかよ。なぁ?」

がらの悪い若者に絡まれる2人の姿が少し先に見えた。

同意を求めるような少年の声に、その取り巻き4人がにやにや笑いながら口々にそれへの同意と脅迫するような言葉を口にする。

少ない人通りを行く者が、その様を見て見ぬふりで通り過ぎて行った。



剣を引き抜いた彼の姿を知っていればそんな口の利き方などしないだろうが。生憎彼は普段着でその右手には頼まれた物が収まった布袋をぶら下げている、それ以外の何者でもない。

その後ろ、一体何が起きているのかわからないといった表情のティアを庇うように立っている。


「あー、面倒くさそうっすね。……やっちゃうんすか?」

その物騒な言葉に、やるって何をだよ、などと返しながら彼らの元へと歩き出す。


視線の先で彼らを取り囲む一人が、クレイルの横に回った。

それを遮るようにクレイルも半歩動き、恐らくは手を出すか迷っているのであろうその左手が軽く動いている。

5人相手に殴りかからないのは正しい判断だろう。そういう問題でも無いような気もするが。


「おい。何やってんだ」

彼らの中ではそのまま通り過ぎる筈だった俺から掛かる声に、若者2人がこちらへ視線を向けた。それを無視して言葉を続ける。


「クレイル。何かしたのか?」

「すみません。足、踏みました」

「……そうか」

その脱力するような理由に思わず顔が歪む。


「んだよ、あんた?」

「勘弁してやってくれ。足踏んだだけだろ?」

「あんたにゃ関係ねぇだろうが」

「お前ら、アレンの所とは関係ないのか?」

「……そんな有名人の名前出して引っ込むと思ってんのか?」

少し動揺はしているようだが、残念ながらやめる気にはならないらしい。しかしアレンやその組織との関係をここで声高に説明するというのは、流石になしだろう。

それに本来、彼らとの正式な関係などない。

何れにせよ何やらよくわからない状況に、思わずため息が出る。もう真面目に取り合うのが面倒だ。


「大体。そいつの持ってる荷物がないと昼食が食べられないだろうが」

「はぁ?」

「クレイル。刃物には気を付けろ。そんな物出したら本気で潰すけどな」

物騒だが念の為の脅しを宣言しつつ。後ろで眉一つ動かさない赤髪にちょっと下がってろ、などと手をひらひらとさせて見せる。


「は? ふざけん――」

彼らにしてみればそれでも5対2で、危機には感じていなかったのかもしれないが。残念ながら相手が悪いと言わざるを得ない。


俺の視線の先、クレイルに食って掛かっていた少年は、言葉を最後まで言えずに横から顔面を殴り飛ばされた。こちらも目の前の1人を一応は手加減して殴り倒す。もう一人に掴みかかられながらそれを力任せに地面に引き倒すクレイル。それを見ながら、目の前で目を泳がせるもう1人の顔面に掌を叩き込んだ。

倒れ込む姿を見下ろす視線の端。残る一人がティアの方へ手を伸ばそうとしている。舌打ちしながらそちらへと足を踏み出そうとした時だった。


赤みのかかった短めの髪と少しだらしないエプロンが俺の視界を横切り、男の脇腹に拳をめり込ませた。

苦痛の表情で振り返る男が突き出す腕をエプロンを翻しながらかわし、その咽喉元へと伸ばした指先を突き立てる。

目を見開く俺の前で、男が声にならない苦痛を吐きながらうずくまった。


軽く息を吐くアンナがこちらへ振り返り、顔を歪める。

口を半開きにしたクレイル。さすがに驚いた表情のティア。うずくまった若者。ついでに丁度通りかかった通行人。その場の全員の視線を集めた赤髪はすごすごと俺の後ろへと戻り、わざとらしい咳払いをして見せた。


「お前……」

「ご主人、そっちが先っす」

調子を取り戻したらしいアンナが、路上に倒れた若者たちを指差す。

聞きたい事はあるものの。取り敢えずはその尤もな指摘に従う事にした。


「もうやめとけ。しつこいようだとあちこち手を回すぞ?」

最初に殴り倒された若者が顔を抑えながら上半身を起こす。


「あんた。リューンなんとかか?」

「まぁ、その何とかだ。悪いが復讐とか考えるのはやめとけ。こっちも本気になる」

「本当にあの人と仲間だったのかよ」

「勘弁しろ、仲間なんかじゃない。……ていうか、そいつ大丈夫か?」

アンナに喉を突かれた男が石畳の上で痙攣している。仲間が慌ててその頬を叩いていた。





結局。意識を戻した彼も含めしつこく絡んだ事について謝罪されつつ。本気だったら死んでいた、命を無駄にするな、などと説教を垂れ。やっと家へと戻る道を歩いていた。


「ご主人。すみませんが……内緒っすよ?」

「内緒ってお前。一体何者だ」

改めて半歩距離を置く。正直、あれは素人の動きではない。もっと訓練された何か。仮に、先程口に出したアレンが戦うとするとああいった類の動きとなるだろう。

ただ逆に、何か害を為すのであればそんな機会は幾らでもあった。

周る思考に軽く顔が歪む俺を見ながら、飄々とアンナが答える。


「何者だなんて言い方はひどいっすよね」

隣のティアがそれに同意するように頷いて見せた。


「そういう常識が通じない所に同意を求めるなよ……」

「むかし色々やってただけで。女の過去を詮索するのは上手くないっすよ、ご主人」

そのいい加減な返しで顔を歪める俺に、赤髪が少し困ったような顔で言葉を続ける。


「ちゃんと話しますって。でもちょっと待って貰ってもいいっすか?」

変わらず不信の顔の俺に、心なしか肩を落としたクレイルの方を指差して見せる。

赤髪の正体も気にはなるが、こちらも気にかけるべきだろう。一応、彼の為に使いに行って貰ったのだ。


「まぁなんだ。昼、食べていくか?」

「すみません。道を間違えてしまって――」

「リューンさん、私が店に長居し過ぎたんです。すみません。町の中でもあんな者がいるとは思いませんでした」

そう責めるつもりもなかったが、耳長の思わぬ助け舟に振り返る。


「少し急ぐべき、と私が言いました。クレイルさんは悪くありません」

「わかった。まぁ気を付けてくれ。人間が沢山いれば変な奴もそれなりに居る」

「そうですね。勉強になりました」

「勉強というか、悪いな。仕様もないものを見せた」

ゆっくりと顔を横に振って見せるティア。助けるような事を言われ、ひどく幸せそうな表情のクレイル。そして飄々とした雰囲気で明後日の方向を見ながら歩くアンナ。


「一体何なんだよ……」

混沌とした状況に吐き出す小さなぼやきは、ただ石畳に吸い込まれるだけだった。




結局。

家に戻った時には既に遅い昼食が並んでおり。クレイルがぶら下げていた物が使われるのはその2日後となった。


すみません。結局日を跨いでしまいました。

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