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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その6
166/262

11-3

アルメは、前を歩くミデルの背中を眺めていた。

その足の行き先は、ミデルの背中の遥か先にあるクラスト西端の都市へと向かっている。






話は数日前に巻き戻る。


何とか生き延びたアルメは、浮かない表情でひたすら馬を歩ませていた。

食料は携帯食のみ。

故郷に戻るのは危険だと考えていたが、ではどこへ行こうというのか。

唯一の相談相手である勇者様は丸1日眠ったままだ。

追手が来る可能性も否定できない。

……明るい顔などできる訳もないだろう。

とは言え立ち止まる訳にもいかない彼女は暫しの思案の後、うろ覚えの街道を左へと逸れる。

渦中のエルフ達が保管されているというロスマレン、理由は違えどそこにいるミデルの叔父を訪ねる以外には当てにできる相手も思いつかなかった。




「って事でいま進んでるけど。どう思う?」

「しょうがないよね。でも本当にごめん。こういう話の可能性も想定できた」

「それは私も悪いと思った。危ないかもしれないって思っていたからね」

故郷への道を大きく逸れた二人の近くで燃える控えめな焚火。

丸一日と少しの間ねむりこけていた勇者様は、目覚めるなり少し小柄な戦士にさんざ責められ、悪い顔色をさらに悪くしていた。

そこへ来て更に最低な味の携帯食を無理矢理に飲み込む。

更に悪くなる顔色はしかし、未だ死体のそれではない。

それは結局、当面は必死に生きるしかないという事だった。

アルメが再び口を開く。


「でも、取り敢えず死なずに済んでよかった。次はさっさと逃げてよね」

「わかったよ。でも、次はそもそもあんな状況にならないようにする」

「ていうかさ、次があるの? 懲りそうなもんだけど」

「懲りるっていうか……。少し無理し過ぎたかな」

「少しじゃないでしょ……」

揺れる炎が、アルメの不満顔とミデルの苦笑いを弱々しく照らしていた。




3日の後。

あくまで備えだった携帯食は底を付き、疲れ果てながらも何とか目的地へと至った。

先日の折といい今回といい、物取りにも遭遇しなかったのは幸いだった。

とは言え、金目のものと言えば借り物の馬くらいしかなく、金になるという点では若い女であるアルメ自身が何とか該当する程度であり。


むしろ彼ら自身が食料を得る為の物取りになり兼ねない状況に陥っていた頃。

それは丁度リューン・フライベルグが目の前の女から視線を逸らして空を見上げ、その晩の豊かな夕食について考えている頃だった。





しかし。

辿り着いたロスマレンでミデルは叔父に経緯を説明するも、そんな事を話された叔父当人もどうかできるような話ではなかった。

何しろ、余計な事を知る人間が消され兼ねないのは目の前のミデル当人で証明済みであり、間違った相手に伝えれば自身も危険な話だ。


……状況は最低だった。

安全が確保されたとは到底言えない。

そしてその状況と引き換えに手に入れた情報も、何の意味も成さない。


悔しそうに俯くミデル。

その隣、顔をしかめながら今後の身の振り方と故郷の実家を懸念するアルメ。


所が、その2人に転機の打診があった。

叔父の古い友人がクラストの都市との交易商隊におり、その護衛として一度隣国に向かってはどうかという話だった。

おあつらえ向きに、次の便は明後日の出発であり、なおかつ行先はクラスト西端の大都市ヴァイデンである。

状況が落ち着くまで大人しくしているとしても日銭を稼ぐ必要があるが、大都市であれば何かしら仕事は見つかる。

そして、先日彼らを助けたクラストの人間を探してみる事さえできる。

乗らざるを得ない、むしろ乗らない理由がない話だった。







再び遡った時間を戻す。

アルメは、前を歩くミデルの背中を眺めていた。


最近では国家間の微妙な緊張から、結果的に小競り合いも少ないと聞く。

旅慣れた商隊に同伴しており、その護衛は15人。

この調子でいけば数日後には国境付近を超えるだろう。

ここ数日では最大限に気を抜いているアルメ。

ようやっと体調が戻りつつあるミデルも、ロスマレンでのような暗い表情ではない。


彼はこの暫くの後。

彼自身がそうでありたいと願った正しさの、その凄惨な顛末を見る事となるのだが。

未だそんな事は知る由もない。








数日の後。

気が抜けた顔のアルメと、すっかり顔色の良くなったミデル。

2人は奇しくもリューン達と同じヴァイデンの石畳を踏む事となった。


途中、商隊の人間から次の便が3カ月後に再びここを訪れる事まで聞いており、彼らはここで短期の生活基盤を築く方向で話し合っていた。

生活する上での日銭を稼ぐ為、冒険者ギルドの近くに同業者が長期で借りるような安い宿を探す。

当然あてには出来ないがリューンと名乗った人物を探すことや、スノアとの関係に関する情報の入手、そういった事を考えれば尚更にこういった所は都合がよかった。


裏路地の安っぽい宿で暫くの滞在を伝えるアルメ。

当然の如く1番安い部屋を1つだけ抑えようとした彼女は、後ろから小突くミデルを無視してそのまま手続きを進める。

前払いの家賃が切れれば部屋の中身は処分して構わない、などの内容が記載された簡単な誓約書にサインする彼女に、しつこく食い下がるミデルをうるさいと一括する。


仕様もないやり取りを眺める恰幅のいい主人が、面倒くさそうに2つ取り出していた鍵の1つを鍵箱に仕舞い込む。

叔父が工面してくれた少ない手持ちを確認するミデルは結局1部屋の半月分の宿代だけを支払い、2階の狭い部屋へと上がった。

しかし。

扉を開いた先に広がる狭い部屋と、安っぽいベッド。

1つしかないその狭いベッドを見てミデルは絶句していた。


「あのね、2部屋も借りる余裕あると思ってんの?」

「いや、でもさ」

「ていうか、そういう事考えてるわけ? 帰ったら親父さんに言いつけてやる」

「それは割と本気でやめてほしい……」

アルメは頭を掻くミデルを無視して荷物をベッドの脇に放り投げ、その安っぽいベッドに倒れ込んだ。

寝心地の悪さは想定の範囲内だった。

困った顔をしてこちらを見下ろすミデルを、頭の後ろで手を組み逆に見上げる。


「大丈夫。あんたが床に寝れば問題ないでしょ。着替えの時は出てってよね」

「問題だらけだよ。……早く仕事探さないと」

「あぁ、登録だけでも済ませにいこっか。あと一応、あのリューン何とかって知らないか聞いておかなきゃ」

「リューン・フライベルグだよ。教えて貰えなくなるような事は言わないでよね」

「そんな事、分かってるってば」

生活に困窮する可能性も否定できない状況に反し、明るい表情のアルメがベッドから起き上がる。

少なくとも3カ月は滞在する予定だった狭い部屋の扉を、2人は再び通り抜けた。






宿からそう遠くないギルド。

登録を済ませてまだ2日目、改めてランク1の新人冒険者となった2人は依頼の用紙を眺める。

取り敢えずで仕事を受け始める前に、依頼の傾向を掴んでおきたかった。


若干の緊張を内包した国家関係からか、護衛の仕事は比較的多い。

とはいえ実際に国家間の紛争となった場合、この程度の護衛で何ができるのか。

アルメはそんな事を考え顔を歪めていた。

それを見る隣のミデルが、若干ずれた事を口走る。


「やっぱりこんな大きな町で人探すのは難しそうだね」

しかしもはや彼女の中では段々とどうでもよくなりつつあるその話に、少し呆れた顔をして返事をする。


「そりゃそうだ。でもいいじゃん。無理しない感じの仕事を受けてさ」

「うーん。でも早くもう1部屋借りないとね」

「そんなに嫌なわけ?」

それはそれで内心傷つくなどと考えている彼女は、しかし帰らない返事に隣のミデルへと振り向く。

しかしその言葉をまるで聞いていないミデルは視線の先で目を見開いている。

ついでに言うと、口まで開いていた。


「ねぇ、何か言いなよ。あと口開いてるよ。馬鹿みたいだからやめなよ」

再び呆れ顔でその視線を追い、ミデルとは逆に振り向く。

その彼女の視線の先に広がる光景。


つい先程、もうどうでもいいなどと思っていた人物。

リューン何とか。

その当人がギルドの大きな入り口を背に立っていた。

向こうもこちらに気付いたらしく、先日も一緒だった片腕の連れを庇うようにしてこちらを伺っている。


まさかこんな所でやり合うつもりなどない。

理由も……なくはないが、まぁ今は良い。

反射的に少し下げた姿勢を、その意思がわかりやすいように棒立ちに戻して見せる。


意図せず見つけてしまった目的の当人。

こちらを見ながら2,3言葉を交わした彼らが、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。

やっつけ仕事感がすごいですね。

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