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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その6
165/262

15

パドルアを出て11日目の朝。

俺達は西の都市の東門へと到着した。


ヴァイデンはパドルアとあまり変わらない規模の比較的大きな都市である。

違いと言えば、この所の隣国との関係からか物々しい雰囲気を湛えている所だろう。

それを表すような少し重武装とも言える門兵に先頭の騎士が何か告げると、血相を変えた男が振り向いて走っていく。

結局その帰りを待つ為に足を止められた俺達は馬を降り、東門から通りの先を眺めていた。



パドルアも王都もそうだが、往来の人間の活気とその多様性には目を見張る。

恐らく、逆側の門ではスノアとの交易便などが輪を掛けたような活気を醸し出しているだろう。

南へ下った折に立ち寄った南端の村を思い出す。

同じ国境付近とは言え全く比べ物にならないそれを観察するのにも飽きてきた頃。

振り向いた先の馬車から、丁度レイスが降りてくる所だった。


「大丈夫か?」

「……ちょっと腰が痛いです」

深呼吸をしながら背筋を伸ばし、呻くような声を出す彼女に笑って見せた。


「なぁ。経緯は兎も角、ここまでは来たな」

「はい。しかも馬車と馬です。大出世ですね」

「本当だよな……」

いつか彼女と、この先の国境を越えスノアにまで旅をしてみたい、などと話した事があった。

その折には資金的な面で不可能という結論に至ったが、皮肉な程あっさりとその近くまで来てしまった。


「そのうちに、この先にも行ける事があるかもしれませんね」

「そうだな。軍としてじゃあないといいんだが」

「そう……ですね」

あながち冗談とも言えないその言葉に彼女が、大きく傷跡が残る見慣れた顔を曇らせる頃。

行った時と同じ、血相を変えたままの門兵がこちらへと駆けてくるのが見えた。








「で。宿は自分で探せって?」

「だそうだ。俺はあっちでもよかったらしいけどな。息が詰まりそうだから辞退した」

「ああいうのは辞退って言いませんよ。絶対に嫌だなんて言ってたじゃないですか……」

呆れ顔のレイスと、面倒くさそうに歩き始めるスライ。


事前に先行した早馬が、ミネルヴ一行の来訪は先ず伝えていた。

しかし面倒な来客であろう彼女の目的ラール・ゲルリッツは、得体の知れない手先達まで屋敷で寝泊まりさせるつもりはないらしい。

役職からすると俺は構わない様子だったが、顔見知り程度の騎士連中と居心地の悪い部屋に押し込まれ、結局は床に転がって眠る事を想像し……同行する気には到底なれなかった。


屋敷にほど近い場所で宿を探す。

今晩行われる簡単な会食への同席も命じられており、あまり遠いのも面倒だった。

この人の多さに、まっとうな宿は満員に近い。

3軒目の宿でやっと人数に合致した空き部屋を確保し、その支払いを済ませた。


荷物を適当に投げ込んだ部屋の窓からのぞく太陽はまだ高い位置にある。

呼び出されるまでにかなりの猶予がある事を教えるそれから視線を外した俺は、ベッドの上にだらしなくひっくり返る同室のスライに少し出掛ける旨を伝え部屋を出た。






訪れた事もない街を、目的もなくうろついていた。

隣を歩くレイスが軽く笑みを浮かべている。


「どうした?」

「いえ。こうしていると、初めてパドルアに行った時の事を思い出します。毎日新しい事ばかりで。あの頃は生きているのがこんなに嬉しい事だなんて知りませんでした」

「……色々あったな。なんだか、大体が心配かけた話だった気もする」

「大体じゃないです。ほとんどですよ?」

「そうかぁ?」

「そうです」

一段と嬉しそうに笑うレイスが続ける。


「いつもいつも。ちょっと出かけるって言ってそのままいなくなっちゃうんですから」

「いやいや、俺のせいじゃないだろ? ……それに、言う程いなくなってないと思うんだけどな」

「それでも駄目です。もう、一人じゃないんですから気を付けて下さい。ミリアにも怒られますよ?」

「まだ何もしていないのに、いま怒られているのはどうなんだよ……」

「別に怒ってなんていません」

「そうか?」

とりとめのない話を続けながら目的もなく歩く足が、武具の類が並ぶ店が集まる区画を通り抜ける。

興味はあるが今のところ用もないその奥に、ギルドと思しき大きな石造りの建物を見つけた。


「ギルド、覗いてみませんか?」

「ああ、依頼の傾向でも確認するか」

もうその必要もない冗談じみた返事に、薄く微笑みながら答えるレイス。


「もしここで登録したら、同じランク1からですよね。そうしたら足を引っ張る事も無いでしょうか?」

「足を引っ張る? 何言ってんだ。頼りにしているぞ」

「本当ですか?」

「それは本当なんだが……悪いな。結局こんな事をさせている。守ってやるなんて言ったのにな」

「……以前にも言いました。私はあなたの為に何かできるのならとてもうれしいんです。それじゃあ駄目ですか?」

こちらに振り返る不満そうな色を湛えた右目。

そしてその目がゆっくりと目じりを下げた。


「それに。私はこれから先も楽しみなんです。また置いて行かれちゃったら……その先だって見られないじゃないですか」

「あぁ……」

返す言葉もない俺に、一段と目じりを下げたレイスが階段を早足で昇っていく。

それを追いかけるよう、冒険者ギルドの大きな扉をくぐった。








再び、死地を切り抜けた彼らの元へと場面を移す。


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