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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その6
159/262

10

俺はヴォルフから少し離れた別の倒木に腰掛けた。


一応というかなんというか。

個人的な考えは兎も角、当初の目的を伝えるべきだろう。


「クラストはあんた達と手を組みたいと考えている。嫌ならばせめて双方不可侵という約束だけでもしておきたい」

「今までもそうだった。今更何をしようとしている?」

「まだどうなるかわからないが。スノアとやり合うのにあんたらが手を貸してくれると助かる。最悪でも敵になって欲しくない、って所だろ」


「我々は人の世界に興味などない。それを貴様ら人間の都合で。何故――」

「話を切って悪いが。俺もわからない事だらけだ。文書もここへ来る途中で入手した物だからな」

「貴様もそうだ。同じ人間同士で争うとはな。やはりこの先も交わることはなさそうだ」

「あれは持ち主がワイバーンに襲われていたのを助けた結果だ。生き残りは国に返してやった。そう野蛮人扱いしないでくれ。争わなくていいように話をしに来ている訳だろ?」

「……。」


「とは言え、さんざ殺しあってきたのは事実だから偉そうには言えないがな。そんな事より。仲間、どうするんだ? 講和すれば返すという話だったが」

「それは我らの問題だ」

「……。」

「それに。死んだ者は戻らない」

今までは露にしなかった怒りの表情。

握りしめている細い指。


不干渉もいい所だったところに、彼らからしてみれば突然降って沸いた侵略のような物。

結果戦いに発展し、更に犠牲者が出ている。


その状況で、彼らで言う所の人間を目の前にしているのだ。

いい気分ではないだろう。

それを考慮に入れれば、突きつけられた矢も含めて穏やかな森の住人という表現は正しいのかもしれない。

謝るのも筋違いだろう。

自分はその人間の代表を名乗る気もないし、そういう柄でもない。


とは言え。

出来る範囲、彼らの立場、感情で考えるとすれば。


「その仇が。だれの指示で動いているのかもわからない」

「……。」

「結局。誰が得をすると思う?」

「?」


今まで彼に向けていた視線を外し振り向き、少し離れた所のスライとクレイルを手で招いて見せる。

後ろで頷く青年に、彼らを取り囲む者たちが一歩下がった。





「一体何の話してんだよ?」

結局引っ張られた金髪が文句を垂れる。


「なぁスライ。今の状況、どう思う?」

「はぁ?」

気が乗らなそうながらも少し考え込む風なスライが口を開く。


「やっぱりうちに担がれたって話なら絵面が分かりやすい。けどここまでやるなら口封じまですると思うぜ? 雑すぎんだろこれじゃ」

その言葉に訝しげな表情を浮かべるヴォルフに、言葉を続ける。


「所で。仲間は戻るって考えているのかもしれねぇけど。これって人質だってわかってんのか?」

「……貴様ら人間の考えそうな卑劣なやり口だな」

「人間人間て。一括りにするんじゃねぇよ田舎者」

その言葉に視線を強めるヴォルフを無視してスライが続ける。


「人質取ってりゃスノアも条件出せる。これも動機になるだろ? しかしその文書を持ってきた人間も途中で襲撃された。要するに。さっぱりわからねぇ」

やはり今の情報で確定などできる訳もない。

もう知るかとばかりに明後日の方を向くスライを見ながら代わるように口を開く。



「人間で一括りにしていない事はわかっているんだ。現にこうして話を聞いてくれている」

「……。」

「俺もわかる範囲の本音で話している。どちらの国にも戦争になれば儲かるって立場の奴がいるもんだ」

「その都合で同胞が蹂躙されたと?」

「そういう事かもしれないし、俺が知らないだけで双方の国の総意かもしれない。もっと言えば、この訳の分からない状況こそが狙いなのかもしれない」


考え込むヴォルフが、仲間の方へ視線をやる。

追った視線の先、やはり細い2人がこちらに歩いてきた。

その1人に、後ろのクレイルの顔が緩む。


「おい」

「わかってますよ」

とは言え。

こちらに来たその2人が俺達と何を話すでもない。

話し込んでいる3人と惚けた顔のクレイルを放っておき、白い砂の上に置いてきた3人の方を眺める。

流石に不安げなレイスとライネ。

そしてもう関係ないとばかりに座り込んでいるヒルダ。


暫くの後、ヴォルフが再びこちらに向き直った。

「概ねの状況は理解した。お前の所持している文書も一度すべて受け取ろう」


彼らが出した取り敢えずの結論。

一度他の集落も回って総意を確認したい。

彼らの中にも序列があり、集落を束ねる長というものがいるのだという。

また、既にスノアはおざなりな国境辺りを超えない所まで兵を引いており、その人質たちの懸念があるとは言え多少の時間はある。

そして、正味な所。

どちらも信用できない。




そりゃそうだ、といった所が私見だった。


「代わりに話をしてくれるのはありがたい。前向きに考えてみてくれ。俺たちは戻って報告をする。誰か寄越すだろうから結論はそいつに伝えてやってくれ。保証は出来ないが分かった事は伝えさせるように頼んでみよう。森の入り口で待つよう伝えるが、それで気付いてもらえるのか?」

「人間。貴様がもう一度来い。森に入れば我々が見つけてやる」


その言葉に、思い切り顔を歪ませた。

「いや。他のやつでいいだろ?」

「リューン・フライベルグ。お前が来い」

「名前、聞いていたのかよ」


「いいじゃないですかリューンさん、もう一度来ましょう」

「お前……」

後ろで余計な事を言うクレイルを睨むが。

彼の視線は先程の女を見つめており、しかしその視線の先で目を伏せる女は木の陰に隠れる。

だからやめろと言っている。


そんな事は兎も角。

確かに多少は話し込んでおり現地の状況を理解しているのは俺、若しくは同行している誰かだろう。

気は進まないが。


「手紙渡すだけじゃなかったのかよ」

思わず口をつく愚痴。

結局、スライの嫌な予感はしっかりと当たっていた。


「人間。何か言ったか?」

「いや。……ついでだから言っておくが」

「聞こう」

「杓子定規に言えば。あんた達は、人質の奪還と両国と不干渉という事で交渉するのが一番いいと思う。割り切れない理想論かもしれないが、仇なんてのは考えない方がいい。関われば関わる程、本当に不干渉なんて訳にはいかなくなる」


「お前ならばそうするのか?」

「俺は。もし身内を殺されたりしたら絶対に復讐すると思う。だから理想論だと言った」

「……気に留めておこう」



ゆっくりと立ち上がる。

「じゃあ、手紙を宜しく頼む」

「確かに受け取ったぞ。人間」

「だから……。もういい」


相変わらず不安そうな2人と、座り込んで欠伸をする弓使いの元へと歩く。



「じゃあ。帰ろう」

「リューン様、もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。もう一回ここまでくる羽目になったけどな」

その言葉に大きく顔を歪ませる3人を煽り、出発の準備を始める。

そして振り向いた先。


そこに彼らの姿はもうなかった。






再び馬の上。

隣のスライに口を開く。

「経緯を考えれば確かに穏やかな森の住人かもな」

「あいつら。人間人間って舐めやがって」

「嫌われてるのも織り込み済みだっただろ。なぁ。やっぱりもう1回来ないといけないと思うか?」

「だろうよ。だから嫌だって言ってんだ……」

しかしその言葉は。

次も付き合う事を暗に認めている内容だろう。

悪いな、などと言いながら再び前を向く。



もう一度ここへ来るという事。

そして今回の件について、できる範囲とは言え多少は調べる必要がある事。


気は重いが。

俺たちは一度、パドルアへの帰路に着いた。

そこで更に顔を歪ませる羽目になる事など知る由もなかったが。





そして。

再び交わる彼らの元へと場面を移す。


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