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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その6
154/262

05

とりあえず2人を縛り上げ、近くで野営に適した場所を探した。

幸いすぐ近くに木立の群生を見つけ、今晩はその辺りで陣取る事にしたのだが。



厄介な話になってしまった。

じきに明確な敵となるであろう隣国の人間を抱えたままでこの先の旅を続ける気にはならない。

わざわざ紋章が入った服などを着た人間が、ただの商人という事もないだろう。

その当人は死んでいるが。


面倒かそうでないかという点のみで言えば、2人とも殺してしまうべきだった。

トカゲに殺されそうな場面で出会わなければ、ただの敵として出会っていただろう。

しかし。

助けておいてやはり殺すというのは流石に気が進まない。



顔を歪めながら小枝を拾い集める俺の元に、見慣れた金髪が歩いてくる。

「あいつら、どうすんだ?」

「正直な話、決め兼ねてる」

「なぁ。俺らの目的、わかってるよな?」

「わかってる。とりあえず知ってる事を聞き出そう」

「俺が聞いてんのはその後だ。まさかこの先連れてくのかよ」

「だから。迷ってる」

「……お前なぁ」


当人はそこまで口に出さないが、スライの考えている事は正しい。

ここはクラスト王国の領域であり、そこでのこのこ歩いていた他国の戦闘員を生かしておく必要などない。

聞き出せる情報を手に入れた後、処分するのが理に叶っているだろう。


集めた小枝、その後を残りの人間に任せた。

少し心配そうにこちらを見ているレイスに笑って見せ、縛られて横たわる2人の元へと向かった。

やはりこちらを見ていたスライは……無視した。





後ろ手、ついでに足も縛られた2人を見下ろす。

青年の心底困ったような視線。

目を覚ましたらしい女の突き刺さるような視線。

対照的なそれを無視して、青年の方に話しかける。


「で。お前ら、こんな所まで来て何をしていた」

沈黙。

実際の所、何か喋ろうとしても轡を噛まされた彼らは喋ることなどできないのだが。

……それがなくとも何も喋らないだろう。


しかし。

先程、素直に投降しなかった事。

そしてこの沈黙。

それらは残念ながら、彼らが何も知らない訳ではない事を示していた。



恐らくはこういった事に向いているであろうヒルダを呼ぶ。

一体何だ、とでも言いたげな顔の彼女に頼み事をした上で、縛られながらもばたばたと暴れる女の方を引きずっていく。

思わし気にミデルの方へにやりと笑って見せるヒルダ。

そこへ更に追い打ちをかける。


「話したくないならいい。でも、早めに話してやるべきだと思うぞ」

ミデルと名乗った青年の方に持ってまわった言い方をし、ばたばたと暴れる芋虫を馬車の幌の中へ放り込んだ。

追って半笑いでその中へ入っていくヒルダ。

不安げな青年の轡を外してやる。


「アルメをどうするんですっ!」

焦ったような口調に、平然と先程と同じ言葉を返す。


「もう一回聞く。こんな所で何をしていた?」

顎を噛みしめる青年。

そして程なく、馬車の方からばたばたと暴れるような音が聞こえ始める。

「ごめんね、あんたに恨みはないけど――」

少しわざとらしい程のヒルダの声、そしてそれに続く言葉にならないくぐもった悲鳴。


「話すなら早い方がいいぞ」

「何かするなら僕にして下さい!彼女は――」

「答えろ。一体何をしてる」

幌の中から響くばたばたという音、そして悲鳴が一層激しくなった。

……やり過ぎだろう。

本当に死んでしまう。


「言います!言いますから!やめさせて下さい!」

「先に話せ。それ以外にも聞きたい事は沢山あるんだ。さっさと答えて行かないと大変――」

「話しますから!約束します!お願いですから彼女は――」

手足を縛られたままで、額を地面にこすりつける青年。


「とりあえず。仲間はこれで全員なのか?」

「全員です!突然襲われて、最初に魔術師がやられてしまってどうしようもなかったんです!」

「応援は?」

「僕達だけです!他の2組は経路が別だから応援には来ません!お願いします!彼女を――」

もう、充分かもしれない。

必死の形相の襟元を掴み、馬車の近くへ引きずっていく。



「約束、守れよ?」

念の為もう一言を掛けながらその襟元を引き上げ、幌の中へ頭を突っ込ませる。

その視線の先に広がるのは。


縛られた女が、ヒルダにひたすら(くすぐ)られている光景だった。

振り向くヒルダ。


「あれ。意外とあっさりだね」

「もういい。助かった」

「はいはい。こんなんでいいならお安い御用」


涙目で懸命に鼻で息をする女を引きずり出し、馬車の後ろで青年の隣に並ばせる。

ついでにこちらの轡も外してやった。

そのまま置いておくと息が詰まって死に兼ねないと思ったからだが。


「約束通り、ちゃんと話せよ?」

「こんなんで話すわけないでしょ!馬鹿じゃないの!?」

「……ごめん」

「あんたも丸め込まれてるんじゃないの!」

目の前で繰り広げられる脱力するようなやり取りに、気を取り直して割り込む。


「おい。痴話喧嘩はそれくらいにしてくれ」

こちらを刺すような視線を向ける女。

……立場が分かっているのだろうか。


「絶対に喋らない――」

「安心しろ、すぐに喋りたくなる。今のは遊びだからな」

「ふぅん。やれるもんならやってみなよ」

「取り敢えずお前は黙れ。そっちの連れに、お願いだから殺してやってくれとでも言わせてやろうか? 一応言っておく。楽には死ねないからな」

「……。」

今までの柔らかい雰囲気を振り払う。

流石に黙り込む女を尻目に、再び青年の方へ向き直った。


「で。ミデルって言ったな。約束通り話を聞かせて貰おう」

「……。」

「助けておいて結局殺るのは後味が悪い。お前たちが生きている理由はそれだけだ。わかるか?」

「……話せば彼女は助けてもらえますか?」

「な、なに言って――」

その言葉に、再び割って入る女を睨みつける。


「黙れと言っている。大体、こんな所で捕まって無事で済むと思ってるのか?」

「そんな……」

「取り敢えず質問には素直に答えろ。答えなければ希望もない」

視線を地に落とす、女の絶望したような表情。

……充分だろう。

まだ騒ぐようであれば急所を外して何度かナイフを突き立てる必要も考えたが、そこまでする必要はないらしい。

大切な人間の命がかかっている訳でもなく、好んで拷問する趣味がある訳でもない。

内心ほっとしながら、火の番をするスライに手招きして見せる。




野営の準備を始める皆を視線の端で眺めつつ、彼らにいくつかの質問を始めた。



しかし、それを終えた後。

隣の金髪は空を仰ぎつつ、だから嫌だったんだ、などと呟き。

それを聞く俺も、歪んだ顔を隠し切れなくなっていた。

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