表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の、新しい日常
15/262

変わり始めた日常09

森の中を歩いている。

俺を入れて武装した冒険者が7人。依頼者の騎士が1人。大した人数だ。




パドルア近郊、国境付近の村が魔物の襲撃を受けた。

助けを求めにパドルアに辿り着いた少年以外の、恐らく村の住人全ての死亡が濃厚視されている。

入った情報は即座に王都、パドルア赴任の騎士に連絡され、偵察、可能であればその殲滅、という依頼が至急案件として張り出された。


この所の人手不足で、報酬、特に野盗や魔物の討伐は値上がりしている。

人手不足と入っても、俺を含め、稼ぎたい人間は居る。

午前中に依頼の受託をし、夕方には人数が揃った。

至急案件の報酬の上積み

片道1日半あれば到着できる近郊という所要日数の少なさ。

そして目撃された魔物がゴブリン…緑色の体色を持つ人より少し小柄な低級の魔物、だけだった事。

申し分ない条件だった。


即日顔合わせが行われ、

戦士3人、弓使1人、魔術師1人、僧侶2人。

そして監督者である騎士が1人。

翌日早朝の出発が決まった。







「明日、近場だが出かける事になった」

夕食を食べながら、懲りもせずに決まった事実を述べる。

正面に座るレイスが絶句するが、すぐに自分を納得させるように

「はい。分かりました」

無感情に答えると、自分の前に寄せられた食事に手をつける。


暫く無言での食事が続き、俺は皿の上を片付け終えた。

「養成所、1人で行けるか?」

「はい。大丈夫です。何日程ですか?」

「3,4日で済む」

その後に、問題なく済めばな、と続けようとしてそれを押さえる。

「…わかりました」

レイスは目を合わせず、器の上にフォークを置いた。


食器を重ね、厨房に戻す。

何を言うでもなく、部屋に戻りレイスは先日養成所付近で買った魔術書を読み始めた。

俺も何を言うでもなく、翌日の出発の準備を始める。

準備と言っても、そこまで長距離の移動は無い。

小さめのバッグに雑多なものを放り込み、武器の類に不具合がないか確認する。


時折背中に感じる視線に気付かない振りを続け、準備はあっさりと終了した。


荷物を部屋の隅に置き、振り返る。

「明日は日が出る頃に集合の予定になっている。悪いが先に眠る」

目を伏せるレイスに宣言し、俺はさっさと横になろうとする。

「リューン様。あの…」

食事の時振りに彼女が口を開く。

少し考え込み、意を決したように俺に言う。

「あの、1つお願いをしてもいいですか?」

「あぁ。…土産は多分無理だぞ?」

「違うんです、あの、おまじないと言うか約束というか…」

俺の目の前に彼女の細い小指が差し出される。

「本当に、ちゃんと帰ってきて下さい」

苦笑いしながら小指と小指を掛け合い、ゆっくり三度振る。

昔からある約束のおまじないだ。


「おやすみなさい」

彼女も本を閉じ、蝋燭を吹いてまわる。

「あぁ、おやすみ」

先程の宣言通り、横になった。




約束のおまじない。

幾度となく、幼い自分と父の小指が交わした約束。

最後に約束した後、父は帰らなかった。

それから一度もこんな事をした事は無かったが。

彼女に、あの時の様な気持ちを味合わせる訳には行かないだろう。

肩の荷も重いが、糸の切れた凧のような今までと比べれば、余程いい心地だ。


大きく深呼吸し感傷を切り捨てると、程なく俺は眠りに落ちた。






何の気なしに目を覚ます。

そろそろ時間だろう。

ベッドの上のレイスを起こしてしまわない様、そっと立ち上がり、手早く着替えを済ます。

荷物を背負い、扉に手を掛けたその時。

「…リューン様」

「…ごめん、起こした」

「あの、気をつけていって来てください。」

寂しそうに微笑みを向けられる。

若干の罪の意識のようなものを感じながら、笑顔を返し、右手を上げてみせた。

「あぁ、行って来る」

「…はい」

背中で小さな音を立て、扉が閉まった。








集合場所に到着すると、依頼主の騎士を除く全員が揃っていた。

「済まない、遅くなった」声をかける。

「あぁ、まだ大丈夫だろ。親分が来なくちゃ話しが始まらん」

戦士の1人、大斧を持った体格のいい男が欠伸をしながら答える。

道の端に座り込み、眠そうな顔を隠しもしない。


今日集まっている連中は、みなパドルアのギルドの仕事を主に請け負っている者だ。

一度は見たことがあるような顔と良く見知った顔が並んでいる。


「リューン、お前どうした、いつもこういうの断ってるじゃないか」

魔術師の男、スライが意外そうに聞く。

スライは俺と同年代で、同じ依頼を受ける事が結構な回数あり、互いに技術を信頼している。

ハンサムな顔立ちと美しい金髪、そして気さくな性格。何より的確な行動で、俺以外の周りからの評価も高い。

「女でもできたのか?」

弓兵のヒルダが楽しそうにそれに乗る。

褐色の肌、短く切った銀髪を持つ王都の正規軍弓兵出身の女。技術は高いと思うのだが、どうも軍でうまくいかなかったらしく、弓兵兼盗賊職として冒険者の隙間を埋める形で色々な依頼をこなしている。


2人にああでもない、こうでもないと勝手な話をされ、

女である事は間違っていないが…。心の中でぼやきながら答える。

「今回は断り辛くてね。それはそうと、依頼の比率がおかしいんじゃないのか?戦争でもする気か」

無理やり話題を終わらせる。

「この所、魔物が多いらしい。以前のように1,2匹でなく、両手くらいの数で襲撃を受ける事もあるらしいね」

答えるヒルダに、

「そんな、らしい、らしい、と人の話に流され過ぎなのでは?」

と白いローブを着た中年の女性の僧侶が変わりに答える。

苦笑しながら背中の弓を取り出し、射るようなポーズを取り、ヒルダが続ける。

「まぁゴブリンくらいなら近づかれる前に私がみんな打ち抜いてやる」

離す右手が開放した弦が、ボッ、と空気を裂く音を立てた。


雑談をしている所へ、遠くから馬が近づいてきた。

「おい、来たぞ」

弓を背負い直しながらヒルダが大斧の男に声をかけている。

男は斧をさも面倒くさそうに肩に掛けて立ち上がり、馬が目の前に着くのを待つ。


馬から、甲冑を着た若い男が降りてくる。

甲冑は白く塗られ、花の模様が描かれている。

「依頼者の、クレート・ウォルアだ。よろしく頼むぞ」

演劇でも始まるのか?という小さい声が後ろから聞こえるのを打ち消すように、俺は声をかける。

「クレートさん、よろしくお願いします。もう出発という事で宜しいでしょうか?」

「構わない。いける所までは馬で行かして貰おう。」

「では行きましょうか。」

そろそろ日が出る時間だ。

なるべく早く現地近くに到着して、休んでから戦闘を行いたい。

俺はそれ以上声もかけず、歩き始めた。


それなりに旅慣れている人間が揃っている事もあり、夕方には村がある森の近くに辿り着いた。

重たい荷物を背負わされた馬が、いかにも疲れた雰囲気だ。

「ここから先は馬は置いていくべきでしょう。それと、もう夕方になります。夜は奴らの時間、ここで明日の朝まで待ったほうが良いのではないでしょうか」

女性の僧侶が提案する。

ゆっくりと考え込んだ若い騎士が宣言する。

「今晩はここで仮眠を取り、明日の午前中に奴らと戦おう」

異存は無い。適当な場所に荷物を下ろす。

「それじゃ私は少し様子を見てくる」

弓と矢以外の荷物を足元に置いてヒルダが森の中に消えていく。



距離が近い事もあり火を使うわけにもいかず、簡単な食事を各々が済ませ手持ち無沙汰になり始めた頃、ヒルダが戻った。

皆が集まり、彼女の報告を聞く。

ここから村までは小一時間程度でもうかなり近い事。

少なくとも見える範囲にはゴブリンのみで、確認数は7匹。

但し、家屋にもっと潜んでいる可能性が捨てきれない。

確認できたのは、5軒のうち、2軒。

森の中を切り開いたような村で、真ん中に道が走り、その左側に2軒、右側に3件、互い違いに家が建っている。

ここまで報告するとヒルダは後は誰かに任せると言わんばかりに、端の方へ座り、食事を始めた。

残る者は地面に簡単に絵を書いて打ち合わせを行う。



魔術師と僧侶2人、そして今のヒルダ、依頼者の騎士は後衛で、大斧使いがその護衛につく。

俺と残る戦士(…確かユーリという名だった)の2人が、1軒ずつ家を調査する。

こういった概要となった。

今晩は、少し村と近すぎるので若干後退し、休憩を取り、夜明けに攻撃を行う。



交代の見張りの間、魔術師のスライと、一緒の割り当てになった。

当然、依頼者は全休だ。

「この間グラニスさんに会ったんだけど」

別に隠す事ではないが、ぎくりとしてしまう。

「いま毎日特別に教えている子がいるらしいんだけどさ、その子、女の子らしいんだけど、なんでか片腕なんだってさ。

良くわからないけど、後天的な話らしくて。拷問でも受けたのかね。そんな若い女の子の腕落とすなんて言ったらよっぽどだろ。

たまらない趣味の奴がいるよなぁ。」

「あぁ。…たまらんな」

視線を落とす俺を見て興味が無いと思ったのか、話をやめ、自分のロングスタッフ(長めの杖)の具合を確認し始める。

スライが使っているのは肩の高さほどの杖で、そこそこ重量がありそうだ。

レイスが使うには…重たいだろう。

「なぁ、スライ、そのスタッフっていうのは、やっぱり長いと性能というか。使いやすいとかあるのか?」

「いや、相性だよなぁ。どっちかって言うと。本来は長い方が絶対的に有利だがね、実際使い始めると短いほうが扱いやすい場合もある。」

「へぇ。そこそこの価格帯って幾らぐらいなんだ?」

「安いのから高いのまであるから何とも言えないなぁ。なんだ、魔術の勉強でもするのか?」

「勉強はするが、自分で使おうとは思わないな」

「まぁ、お前は向かない気がするよ。習得には情熱が必要、と俺は考えている」

わざと偉そうに言ってくれる。

「そうだな…。」

頭を掻きながら立ち上がると、交代の人間の目を覚ましに入る。

俺とスライは、明日に備え、素直に眠る事にした。



翌日、早朝に準備を整えた俺たちは、目的を果たすべく、行動を開始する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ