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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常02
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2人の日常22

結局、午後から養成所に向かう事にした。


見慣れた道のりを歩き、魔術師の養成所へ向かう。

良く座り込んで居た階段を登る所で丁度、出てくるグラニスと鉢合わせした。


「グラニスさん。こんにちわ」

「いい所に来たな。レイスよ。昨日、本が届いたぞ?」

「この間のお話のですか?」

「そうだ」

嬉しそうにこちらを向くレイス。


「悪い。どういう話だ?」

「すみません、実は魔術の本のお話を先日グラニスさんとしていたんです。物を動かすような類の魔術をもう少し学びたいと言ったら、王都から取り寄せて頂けると」

「あぁ、なるほど」

所で。

それは、一体幾らなんだ。

喉元まで出かかった言葉を止めきれず、それを口から吐き出そうとした所だった。



「リューン、悪いが値段が値段でな。読むのであれば私の家にして欲しいのだが」

「家だとかそういう問題なんですか。ちゃんと払います……」

絶望的な顔をする俺にグラニスが笑う。


「別に構わんさ。蔵書の一つになるだけでそこまで高価な物ではない」

先程とは矛盾する言葉。

気遣いと言うか、彼女へ掛ける期待なのか。

2重の意味でその払いを諦め、頭を下げた。





結局。

その本が読みたいと言うレイスは、本人不在のグラニスの家でその本を読ませて貰う事となり、

彼女の居場所には関わらず暇を持て余した俺は。

いつも通り、剣士の養成所で暇を潰す事となった。



体格の劣る少年に、先日ここを訪れた少年兵を思い出しながら細身の剣を勧める。

腕力を持て余す力任せの一撃を払いのけ、力押し以外の技術を学ぶよう諭す。

そんな事を繰り返しながら、次第に夕暮れ前となる土の上。


こちらもいつも通りなのだが。


突き出される少し大ぶりな右拳を、右に引き込みながら周り込む。

必然的に背中を向くような格好になるセイム。

その背中を、後ろで待っていたロランの方へ突き飛ばす。


「くっそ。遊ぶなよ」

「なら早く遊べないくらいになれ。欠伸が出るぞ?」

「うわぁ……。むっかつく」

振り向き再び勇敢に立ち向かってくるセイムは結局。

数度の打ち合いの後、無言になった。


「すみません、じゃあ宜しくお願いします」

丁寧に頭を下げるロラン。

「ああ。暗くなるまでだからな。早くかかってこい」

それには答えずに踏み込む少年。

予想外に素早い踏み込みと、そこから繰り出される数発の軽く牽制するような左拳。

構えた両手に当たるに任せ、次の手を待つ。

軽く下がるように見せかけた体勢から、やはり鋭い右足が振り出される。

弧を描くその軌道を左腕が掴み……軸足を払って土に叩きつけた。


「牽制するのはいい。蹴りは止めにもう少しとっておけ」

頷きながら再び構えるロラン。

相変わらず悔しそうにこちらを眺めるセイム。

そして。

養成所の建屋から出た所で手を振る人物が見えた。


以前、よくレイスがああやって手を振っていた。

尤も。比較するのが無駄に思える程度に控えめにだったが。


そんな事を考えていた俺の脇腹に、恐らくは止め用に取って置いたのであろう蹴りが突き刺さる。

「っ!!」

声にならない声を出しながらしゃがみ込んだ。


「ちょ、リューンさん、大丈夫ですか?」

「先生さぁ、いつもどっか見ててやられるよね……」

ひどく心配そうな声と、ひどく呆れるような声。


「悪い、今日はもう終わりにしよう……」

「本当さ、なんで俺の時は余所見しないわけ?」

「してても、お前には負けない」

「今、後ろから蹴っていい?」

「いい訳ないだろ」

脇腹をさすりながらのろのろと立ち上がる所にかかる、今度はその姉の方の言葉。


「先生ってさぁ。いつもよそ見してるよね」

「……もうその話は終わった」

「はぁ? まぁいいけど」

すぐ隣で、ほら、とでも言いたげな顔のその弟。


「何しに来たんだ? 弟の迎えか?」

「え。勘弁してよ気持ち悪い」

気持ち悪い呼ばわりされている弟は、さっさとその友達と歩き出していた。


「気持ち悪いとか言うな。大事にしてやれよ」

「一体何? そんな事よりさ。家、できたの?」

「いや、まだ2階にも上がれないし、できても暫く住まわせて貰えないらしい」

「ねぇ、中見せてよ。1階だけでもいいからさ。表から見ると大体完成してる風に見えるんだよ」


「俺は昨日見た所だから今度にしてくれよ。何が悲しくて毎日あんな所」

「いいでしょ、その時にも見せてくれればいいんだから」

滅茶苦茶な事を口走りながら伸びてくる右手を、俺の左手が躱す。

そして。

いつかと同じように服を掴まれ、溜息をつく。


「……分かった。少しだけな。レイスも迎えに行かないといけない」

言いながらその手を払い、先を行くセイムに声をかけた。


「ってことだ。お前も行くか?」

その言葉に顔を歪めるセイムが手招きをしている。


「なんだよ?」

「先生さ。俺に、死ねって言ってるなら行くけど。出来ればやめておきたいかな」

ひどく力強く説明するセイムと、それを笑うロラン。




結局。

2人とは別れ、少し早足のミリアの後ろをとぼとぼと歩く。


昨日のレイスとのやり取りを忘れている訳もなく。

進ませる足は少し重かった。


「先生さ、大出世だよね。普通もう少し喜ぶと思うけど?」

「色々あるんだよ。鎧とか」

「鎧? なにそれ」

「後で説明する」


「先生。この間、あそこで会った時さぁ」

「……。」

「……あの時からは進むのは早かった。結構、あっという間に出来るもんなんだね」

「出来てないけどな」

「ああ、そっか」


何とも言えないやり取りをしながらも、目的地に到着する。

片付けを終え、今まさに帰ろうとする大工たち。

そしてシャルトル。


「よう。少し中見せてくれ。鍵はどうすればいい?」

「鍵はそこの植え込みの中です。所でそちらの――」

「余計な事言うなって言ったろ?ちゃんと鍵はかけるし、長居もしない」

「わかりました。よろしくお願いします」

相変わらずの完璧な礼と無表情な顔。

背を向け去っていく彼の背中を見送る。


「余計な事?」

「あいつ。いつも余計な事ばっかり言うからな。ほら、見るならさっさと入るぞ」

「ああ、ちょっと待ってよ」


扉を開き、昨日となんら変わらない薄暗いホールに入り込む。

そこで相変わらず不愉快に鎮座する鎧。


「鎧って、これ?」

「ああ。」

言いながら、昨日は触れなかった大斧に手を伸ばす。

引き抜いたそれは当然のことながら重心が先端に偏っており、お世辞にも扱いやすいとは言えない代物だった。

軽く構え、首を傾げながらそれを戻そうと振り向く。


振り向く正面に、甲冑の面があった。

流石に少し驚く俺の顔の正面で、それを被ったミリアが顔の部分を覆う面をがばりと開く。


「わっ!」

少しおどけたような顔が、開かれた兜の中で楽しそうに笑っている。


……昨日も含め、俺はこいつの所為でそれなりに悩んでいた筈なのだが。


素早く右手を伸ばし、その楽しそうな顔の中央にある鼻をつかむ。

「いやー、1回被ってみたかったんだ――んわわ……」

顔を歪ませながらのけぞり、逃げようとするミリア。

そしてその右手が。勢いよく面を閉じた。


「いてっ……!ちょ、痛い!」

逆にそこに手を挟まれ、悲鳴を上げる。

……再び開かれる面。

そこには勝ち誇った顔が収まっていた。


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