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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の、新しい日常
13/262

変わり始めた日常07

初めて養成所に彼女を連れて行ってから1月が過ぎた。

グラニスに言わせれば有り得ない速度で彼女は技術を習得しているという。

5日目で、何もない手のひらに小さな氷の塊を作り出した。

10日目にはそれは人の頭ほどの大きさになり、レイスがその重さに耐え切れずそれ以上は進まなかった。

15日目。それは氷の槍のように、盾のように、自在に形を変えた。

その後、その速度や正確性を高めつつ、今日に至っている。

…もう、初級の内容は過ぎている様子だ。



彼女の才能は、すさまじい物だった。

グラニスは、費用など要らない、知り得る全てを彼女に教えると言って息巻いている。

流石にそういう訳にも行かず、通常の費用を払おうとするが、

その費用は彼女用の小型の杖を買う費用に当てるべきだ、と何故か説教をされた。



後ろから近づく足音。

「リューン様」

階段に腰掛ける俺の左肩の後ろ辺りに、レイスの細い掌がそっと置かれる。

「あぁ、お疲れさん」

立ち上がり、少し疲れた顔の彼女の髪を、くしゃくしゃとしてやる。



夕暮れの町を、彼女とゆっくりと歩いていく。

しかし、彼女の素養は凄まじい。

「さっき、グラニスさんに聞いたよ。その調子だと、果ては宮廷魔術師か?」

「そんな…。私はリューン様のお手伝いが少しでもできれば、嬉しいです」

彼女が、はにかみながら答える。

「この調子じゃお偉いさんも放って置いてくれないだろ。本当に養って貰うかもな」

「ふふふ…わかりました。そうしたら一緒に来て下さいね?それに、それでもリューン様はリューン様ですよ?」

「いや、それなら様付けで呼ぶのはやめろよ。俺がレイス様、って呼ばせてもらうよ」

「え…。それは……だめです」

苦笑しながら振り返ると、彼女もこちらを見ていつものように、少し恥ずかしそうに、はにかんでいた。







「草原の息吹亭」に戻ったのはいつも通り、日が概ね傾いた頃だった。


いつも通り夕食の準備をし、運ばれてくる料理を小さく切り分けながら彼女に告げる。

「仕事を受けようと思う」

彼女の先程までの柔らかい表情が硬くなる。

「…なんの…仕事ですか…」

不安を隠しもせず、彼女の右目が俺の目を見つめる。

「近場の村の魔物の討伐だ。どうも仕事の件数に対して冒険者が不足しているらしい」

「貯金にも不安がある。ギルドへの義理もある。それに…体がなまる」

情けないような顔で笑いながら、腕を大きく回してみせる。

が、彼女の表情は全く浮かばない。

下唇を噛み、俺の胸の辺りに視線を落としている。

その視線を横切るように、料理を彼女に前に押しやり、

「なに、この辺りでの魔物の討伐の依頼なんてのは大したことはない。

それに、俺1人で行くんじゃない。確か最低7人て話だったはずだ。

大丈夫、そんなに俺が頼りなく見えるか?」

そこまで一気に言い、肉の塊を頬張る。

「…はい」

彼女は俯いたまま、フォークを取り、食事を始める。

「レイス、俺はお前の才能が育っているのを見ているのも嬉しいんだ。

その為に、小銭を稼いで来るのは全く苦痛じゃない。

数日開けるが、帰ってきたら何ができるようになったか教えて、俺を驚かせてくれ」


「………んです。」

レイスの食事の手が止まる。

「…違うんです!」

いつもの彼女には有り得ないボリュームの声が響き渡り、一瞬店内が静まり返る。

すぐに我に返り、いつも以上に俯く彼女と、視線を浴びて苦笑いする俺。


一瞬の静寂の後、店内は元の喧騒に包まれた。


「取り敢えず、食べよう。な?」

「……すみません」


いつも通り、彼女が食事を終えるのを待つと厨房に食器を運ぶ。

厨房のおくからルシアの刺すような視線を感じながら、気付かないように元の席に戻る。

「少し、表を歩くか?」

俯いたまま頷く彼女と、再び店の外に出た。



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