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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常02
129/262

2人の日常20

昨日、誤って掲載するつもりのなかった話を掲載、削除しました。

読んで頂いた方につきましては大変申し訳ございませんでした。

難しいかもしれませんが。

忘れて頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いいたします。







隣国の少年兵が突然現れた日から数日が過ぎた。


相変わらずの、今までの生活の焼き直しのような毎日。

その根底に流れる何かがなければ、焼き直しなどと言わないで済むような日常。

そしてその日常を過去にするであろう新しい家。

概ね家の体を為しており、完成はそう先でもないように見えた。



「なぁシャルトル。これ、もうじき完成だろ? いつ頃から住めるんだ?」

「まだ内部の作業が残っています。それを終え使用人たちが到着しますが、その教育後にフライベルグさんへの勲章の授与を行います。その後――」

「ああいや悪かった、もういい。適当に声かけてくれ。所で使用人てのは?」

「質問の意味を分かりかねますが。身の回りの事は彼らが行います。確か4名だったかと」


「彼らはここで寝泊まりを?」

「そうですね。フライベルグさんと2名、いや3名の方の部屋は2階にご用意してありますので――」

「え、3人? 誰がだよそんな……」

「そういった設計になっています。申し訳ありませんがもう変更出来かねます。足りないのであれば――」


「いやいや、足らなくないって。本当あいつ……」

「ある程度の備品などはそろそろ到着してしまう予定ですが。見て行かれますか?」

「備品?」

「一部の家具や、フライベルグさんの場合には騎士に貸与される鎧などもありますね」


「鎧って。そんな物まで寄越すのか?使わないだろ……」

「それについてはミネルヴ様からの伝言がありまして。どうせ使わないのだろうから余りを寄越すので一応どこかに並べておけ。との事でした」

「事実だから文句もないけど。なんていうか……」

「何か伝えますか?」


「いや、もういい。中、入れるのか?」

「大丈夫ですが、2階にはまだ上がれません。あと、壁や扉には触らないように気を付けてください」

「わかった。……レイス、折角だから見に行こう」

俺とシャルトルの脱力するようなやり取りを少し呆れるような表情で聞いていたレイスに声をかける。


「あ、はい。本当に入っていいんですか?」

「いいって言ってるんだからいいだろ?」

念のため視線を向けたシャルトルが無言で頷く。



「ちょっと。……緊張しますね」

「緊張というか。落ち着かないな」


建物の中央に設けられた大きな扉をくぐる先で俺達を出迎えたのは。

まだ継ぎはぎだらけの内装と、不愉快な人型だった。


「余り物って言ったって。どれだけ悪趣味なんだよ……」

「どうしたんですか?」

無言で指さす先に鎮座する一式の甲冑。

そしてそこに組みつけられた大斧。


「あれってもしかして……」

「お前が大穴開けたやつだ。ついでに言うと……俺を半殺しにしたやつ」

以前、北の街でほぼ一方的に俺を屠った鎧と斧。

流石に中身はないのだが。

使わないのがわかっているとはいえ、幾らなんでもこれは無いだろう。

しかもまだ家が完成していない状況で、厄介払いのようにここに届いている。

レイスに貫かれた胸の部分だけが真新しい鉄板鎧に交換されているそれは、洗浄の上で塗装まで施されたのだろう。

が、やはりその違和感は否めない。

問題はそこではないのだが。



「……もう少し他のは無かったのかよ。流石に悪趣味だろ」

振り向いて館の外にいたシャルトルに文句を垂れる。


「鎧ですか?聞いているお話では、ウルムからの輸送の関係で先に送った、との事でしたが」

「順番の話じゃない。いや、金が掛かるのは分かるんだけどな? 俺、これ着た奴に殺されかけたんだぞ?」

「……それが何か?」

「……もういい」

感情が抜け落ちたような青年に文句を言うのを諦め、その不愉快な鎧に手を伸ばす。

脇腹のあたりに、俺が拳を打ち付けた跡が残っていた。

そして俺の命を奪いかけた大斧を眺める。

確か。これには魔力が込められていた筈だ。


「シャルトル、あまり期待はしないが。この斧、どんな魔力が?」

「そちらには腕力の補助の魔力が込められているとか」

「補助?」

「扱うのに腕力が足らない折に軽くなる、との事です」

「……要らねぇ」

「……そうですか」



かつて俺を圧倒したその一式が、不愉快な門番のように置かれたホール。

それから視線を外し、広間と客間を覗く。

広間を通り過ぎ、恐らく厨房なのであろう部屋を抜けた先でレイスが、わっ、などと声を上げた。

何とも言えないが。多分これはそうだろう。まさか洗濯場などという事はあるまい。

浴室があった。


「うわあぁ……」

口を半開きにしたままで、その石作りの小部屋を歩きまわる姿を眺める。

ひとしきり見て納得したのであろう、彼女がやっと口を閉じてこちらに振り返った。


「…もういいか?」

恥ずかしかったのだろう、顔を少し赤らめながら頷く彼女に苦笑いを浮かべ、その先の戸をあけ外に出た。

恐らくは先程の浴室に使う湯を沸かすためだけに用意されたのであろうかまどらしき物があり、その先に見えるのは多分、井戸だ。



「大変です。浴室があるなんて」

「わざわざ出掛けなくていいから楽だな」

「違いますよ、リューン様、浴室なんて備え付けてあるのは……」

そこまで言いかけた彼女が軽く俯く。


「どうした?」

「すみません。そういったものがあるのは、比較的裕福な家が多かったかと思います。……昔の事を思い出していました」

先程までの嬉しそうな雰囲気がすっかりと消え失せた彼女の頭に手をやり、ゆっくりとその髪を撫でる。


「もう大丈夫だ。忘れられないかもしれないけどな、もうそんな目に合う事はない。大丈夫」

「……はい」

少し涙目になった彼女が顔を上げるのを待ち、再び家の中を通り過ぎる。

やはり不愉快な鎧に一瞥しながらホールを通り過ぎ、表に出た。



「流石にあれはないよなぁ」

「あれ?」

「鎧だよ。必要なくなったら床下にでも片付けてやる」

その言葉に苦笑いを浮かべる彼女。


何れにせよ、まだ暫くは住めない事と不愉快な鎧が鎮座している事がわかった。

取り敢えずは十分だろう。

相変わらず無表情な青年に軽く挨拶してそこを後にする。




腰高の塀にわざとらしく取り付けられた門。

それをくぐった所に、見慣れた金髪の魔法使いが立っていた。


「ようリューン。何やってんだ?」

「いつまでたっても住めなくてな。お前こそ何やってんだ」

「ああ、グラニスさんの所に行った帰りでよ。お前が中に見えたもんで、大工でも始めたのかと思った。そういや前に通った時に何もなくなってたから、この後どうすんだって思ってたんだよ」


「そういやスライ、ミネルヴに何か言ってやってくれよ。なんなんだあいつ」

「何かやったか?昔っから悪乗りが過ぎる気はあったけどよ」

先程のシャルトルとの話をつらつらと説明する。

それを半笑いで聞くスライに苦々しげな表情を見せつけた。


「まぁ、いいんじゃねぇの?余ってるなら倉庫にでも使えばいいじゃねぇか」

「お前なぁ。それに鎧、流石にあの選択はないだろう」

「それこそ余った部屋にでも置いときゃいいじゃねぇか」

「いや、床下か屋根裏がいいとこだな」

「そりゃ流石にひでぇな」

楽しそうに笑うスライが、あぁそうだ、などと何か思い出したような顔をしている。


「なぁリューン。それはそうと、えぇと……」

スライの視線が、作業が続く家をぼんやりと眺めるレイスの方に泳ぐ。

何となくその意図を理解し、その視線の先の彼女に声をかけた。


「レイス、ちょっといいか?」

「え、はい。どうなさったんですか?」

「ちょっとスライと散歩行ってきていいか?」

「どうかしたんですか?……夕飯までには?」


「あぁ、そんなに遅くはならない。だよな?」

「大丈夫だ。俺の家には、お前に食わす飯はねぇ」

「なんだそれ……」

相変わらずなやり取りに苦笑するレイスと別れ、スライの家の方角へ歩き出す。




「で、なんだ?」

「あの子、大丈夫か?」

「何がだよ」

「俺が気付かねぇとでも思ってんのか?」


「そこまで行くと。正直、気持ち悪いな」

「冗談だ。この間、不死者の件の時に色々聞かれたもんでよ」

「お前にも何か聞いたのか?」

「医者の範疇の話だったから取り敢えずライネに聞けって言ったんだけどよ。……それで大体わかるだろ」


「……どうするんだろうな」

彼女がやっと口にしたことを、立ち話で簡単に話す気には到底なれなかった。

俺の浮かない表情を眺めるスライが口を開く。


「そういやこの間の嬢ちゃんは? あの子も毎度散々だよなぁ」

「ああ、本当に運がないのか何なのか」

「随分懐いてる風だったじゃねぇか。修羅場にでもならないのか?」

そう言いながら楽しそうに笑うスライ。

修羅場も何も。


「あれは。そういうんじゃない」

俺は相変わらず浮かない表情を浮かべていた。


「大事に扱う人間が多くて大変だな?」

「うるさい」

「まぁ。何かあれば相談くらいは乗るからよ。考え込み過ぎると碌な答えが出ないぜ?」

「ああ。何故か大概そういうもんなんだよな」

「あと、俺ももう少し大事に――」

「それは無い」

「……。」


結局。

スライの家に上がり込むような事もなく、再び定宿への道を一人歩き始めた。

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