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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の日常02
126/262

2人の日常17

文字数の調整を忘れまして、少し長いです。

通常話の2倍ほどあります。

軽い吐き気を堪えながら夜道を歩く。

恐らくはその原因であろう思考は止まらなかった。



先程の恐らくはミリアの人生の行先が込められたような言葉たち。

それでもレイスが見たいと望む未来は実現できるのだろう。

さらに言えば、ミリア自身に嫌う要素はない。むしろこちらも好意を持つ位だ。


だが、本当にレイスはそれで満足なのだろうか。

その相手が2番目だなんだなどと口走っていた事は一度置いておくとして。


心底大事に思う相手が他の誰かと幸せそうに暮らす姿を眺める。

そこに居場所も許容されたとしても、それを心の底から願えるものなのだろうか。

少なくとも、自分にはそんな事は出来そうにない。

……子供云々などと考えた事もない、俺の浅はかな人生観で許容できないだけかも知れないが。


レイスの思いには、本当に意味での将来など考えてもいなかった俺への配慮も含まれているのだろう。

そんな彼女を守るなどと。

これではどちらが守られているのか分かったものではない。


しかしそんな事を考えていること自体が自分自身の一旦の答えなのだろう、などという結論に至るのには大した時間を要さなかった。


それでもレイスが望む未来は。

堂々巡りの思考に答えが見つかるはずもなく。


とっくに宿の前には辿り着いている。

ある意味では渦中のミリアのいつかの姿のように、看板を見上げては考え込んでいた。

この姿に声をかけてくる、俺のような者が居る訳もない。


結局、色々な事を一度後回しにする事を決めた俺はその扉をくぐった。






暗い階段を登り、いつもの扉を開ける。

そこに広がる狭い世界。

見渡すその世界の半分弱を占めるベッド。

その端に寄りかかるようにして、彼女は座ったまま眠っている。


書置きは見たのだろうか。

寝ていてくれと書いた筈だった。

歩み寄りながら彼女の細い右腕に視線を落とし、思い出し笑いを浮かべた。

続いて先程のやり取りを思い出す。


一度大きく息を吐き出し、気を取り直して彼女の肩を軽く掴む。


「レイス、悪い。遅くなった。ちゃんと横になってくれ」

ゆっくりと上がる顔。

うっすらと瞼を開き、こちらをぼんやりと見つめる。

……少し。口の端に涎が垂れている。

苦笑いしながらそれに手を伸ばした。

為す術もなくそれを拭われながらも、段々と開く彼女の瞼。


「す、すみません。起きていた筈だったんですが」

「いや、寝ていてくれって書いてあっただろ?」

「違うんです、こんなに遅くなっちゃって。実はミリアが――」

「結構いいのを見舞ったらしいな。こんな時間だが……さっきたまたま会った」

説明は省略できたものの、やはり困ったような顔で再び俯く彼女に笑いかけた。


「今度からは前衛やって貰わないといけないな」

「何言ってるんですか」

レイスは相変わらず眉の端を下げ、心底疲れたような顔をする。


「とりあえず寝よう。できれば明日の朝は普通に食べたい」

「何も食べていないんですか?」

「いや、さっき食べた。変な物食べたせいでちょっと気分悪いんだよな」

「え、大丈夫ですか? 私、何か貰ってきます」


「ルシアさんだってもう寝てるだろ。明日の朝でいい」

「すみません。こんなに遅くなるつもりはなかったんです」

「いや、寝てただけだから気にするなって」

「……わかりました。明日の朝ですね」

力強く頷く彼女の決意を見ながら、朝までどれくらいの時間があるのだろうなどと考えていた。



「レイス、少し所持金の勘定をしてから寝たい。そろそろ先払いした宿代も期日になる。移る先があれじゃあ、いつになるかもわからないしな」

「明日でいいんじゃないでしょうか。もう遅いですよ?」

「なに、確認するだけですぐだ。先に寝てくれ」

「……。」

少し不満げな顔をする彼女に手で追い払うような仕草をみせ、ベッドの向かいの定位置に座り込む。


「だからすぐだって。早く寝て、明日の朝ちゃんと起こしてくれよ」

「……わかりました。そうします」

相変わらず少し不満そうな顔の彼女がベッドで横になるのを確認し、机に顔を向けた。





仕方ないとは思うのだが。

この所無償の行動が多く、所持金にあまり余裕がない。


もっとわかりやすく、かつ正直に言うと。

金がない。


しばらく待てば家が手に入り以降はそんな心配もしなくて構わないのだろうが、それまでとりあえずここに居る為の金を払うと少し苦しい。

装備品の修理は依頼するべきではなかっただろうか。


引き出しにいい加減に投げ込まれた貨幣たちをかき集め、種類別に並べる。

その金額を合算し……軽く溜息をつく。

その時はそんな事は思っていなかったが、彼女と幾度かの依頼を受けた折の報酬は今となってはとてもありがたかった。


その仕事の安い報酬額を思い出し、そして彼女と初めて仕事に向かう前日の夜を思い出す。

真新しい厚手のローブを着た彼女。

彼女は俺の目の前でゆっくりと回って見せ、おかしな所がないかを少し不安げに聞いたのだ。

いつの間にか、ひどく昔の事のように感じている。

再び軽く溜息をつき、机の上の少し寂しい所持金たちを引き出しにしまい込んで立ち上がった。


振り向いた先の彼女はもう規則正しい寝息を立てている。

今度は言う事を素直に聞いてくれたらしい。


狭いベッドの開いた場所に、起こしてしまわないようそっと潜り込む。

横になり一度向けた視線の先、彼女の目に薄く涙の跡が残っていた。


「言わんこっちゃない……」

雑な言葉を口走りながら目を背け、代わりに見つめる天井。


しかし再び堂々巡りを始めようとする思考はあっさりと睡魔に負け、俺の意識は幾らの時間も掛からずに沈んでいった。






凄まじい既視感。


窓から差し込む光。

漏れ聞こえる表通りの喧騒。

圧し掛かる彼女の重さと、そこに添えられた左手。

ぼんやりと彼女が目覚めるのを待った。


数刻の後。

細く溜息のような声を出す彼女に微笑みかける。

まだ朦朧としている様子の彼女が再び俺の胸に顔を埋めた。

暫くの後。

彼女はゆっくりと起き上がり、向こうをむいて大欠伸をしている。


「すみません、ちょっと寝過ぎたかもしれないです……」

「別にいいだろ。昨日は遅かったし何がある訳でもないからな」

欠伸のせいであろう涙を、手を伸ばして拭う。

何とも言えない表情でそうされている彼女のその目が突然見開かれる。


「すみません、朝ごはん貰ってきます」

慌ててベッドから飛び降りようとする肩を掴んだ。


「いや、もういい。でも何か食べたいからルシアさんの機嫌見て、駄目そうだったら表で食べよう」

ひどく落ち込んでいるような様子で俯く彼女の髪を軽く撫で、やたらと重く感じる体をベッドから立ち上がらせた。


「レイス、多分無理だろうから出かける準備をして行こう」

「……はい。すみません」

「別にいいって」

俯いたままの彼女に笑いかけ、簡単な身支度を始める。

気分は、悪くなかった。





予想外に機嫌のよいルシアが運んできてくれた朝食を、いつものように切り分けて彼女の方に押しやった。


「なぁ、殴り倒したんだってな」

「嫌だって言ってるのに、そうしないと帰らせないって怒るんですよ……」

思い出したように少し泣きそうな顔をしている彼女を、軽く笑いながら眺める。


「今日は行かないんだろ? 用はないけど大通りの方にでも行こう」

「そうですね。毎日行っても迷惑ですし」

「迷惑じゃなければいくのか。もうお前ら二人で暮らせばいいんじゃないか?」

「えぇ……」

その様を想像したらしい彼女は複雑な顔を浮かべ、そしてその後少し悲しそうに笑う。

この場合、ひどく余計な言葉だった。


テーブルの上、少し暗くなった空気にルシアが現れる。

これ幸いとそちらに顔を向ける俺に、空気とは対照的な笑顔のルシアが口を開く。


「リューン。そろそろ宿代なくなるけど?」

先程よりさらに重い空気を纏い、俺はその視線をテーブルに落とした。






じきにここを引き払う話はもう少し時期が固まってから話したい。

取り敢えず当面の宿代を明日にでも支払う事を告げ、俺達は予定通り宿を出た。


いつかのように目的もなく歩き回る。


幾つかの服屋を巡った。

何枚かの服を肩にあてて見せ、少し恥ずかしそうに微笑むレイスを冷やかす。

結局何も買わず、彼女のお気に入りである砂糖まみれのドーナツを持って中央の広場へ向かう。

胃もたれしそうなそれを頬張る彼女を眺め、視線を巡らせた。


あの時と、何も変わっているようには思えなかった。



何の気なしに口をつく言葉。

「毎日こんな感じだったら…」

なんとなく、その先が続かない。

代わりに彼女が静かに続けた。


「きっと。楽しいですね」


通りを行き交う人々の話し声。

色々な物音。

それらが全て違う世界の物のような感覚。


ドーナツを片付けた彼女が口を開く。

「そういえば。何か贈り物をさせて下さいって言いました」

「まだ……決まらないな」

苦笑いする俺に、微笑む彼女。



「そういえば、昨日。ミネルヴの使いが来た」

「ミネルヴさん、大変そうですよね」

「大変なのはわかるんだけどな……」

「どうかしたんですか?」

「いや。何でもない」

ゆっくりと立ち上がる。


「折角だ、暇潰しに家でも見に行こう。少しかかるって手紙に書いてあった。今日も何かやってるだろ」

先日の風景を思い出したのであろう彼女が少し渋い顔をしているが、それに笑って見せ歩き出す。







当たり前だが昨晩とあまり変わらない風景の中で、数人の工夫が忙しそうに何か作業をしている。

2人でそれに苦笑いしている所へかかる声があった。


「すみません。急がせますので」

昨日オルビアと話していた折に現れた無表情な青年。シャルトルだった。


「いや、急ぐ理由もないから気にしなくて……いや。やっぱり急いでくれ」

その良くわからない言葉に訝しげな顔を浮かべ、視線を巡らす青年。


「……そちらの方は?」

その不躾な視線を遮る。


「どこまで聞いてるんだか知らないが、こいつは俺の連れだ。というか、余計な詮索をするな」

「失礼いたしました。あなたがレイス様ですね。お話は伺っています」

「え……。はい」

困惑した声を背中で聞きながらシャルトルに付け加えた。


「あと、ミネルヴには余計な事を言うなと伝えてくれ。また見に来る。よろしくな」

「はい。確かに伝えます」

相変わらず無表情に頭を下げる彼と別れる。




「結構、かかりそうですね」

「そうだな。ルシアさんには時期が定まってから説明しようかと思ってる」

「喜んでくれるでしょうか」

「どうだろうな。空室も出来るし」

そう言いつつも恐らくは、良かったと言って送り出してくれるだろうと考えていた。


あの部屋もじきに、誰か知らない者が寝泊まりすることになる。

そんな事は当然なのだが。

少し寂しかった。






夕食前に再び宿に戻り、いつも通り彼女の前へ食事を押しやる。


「なぁ。暫くは暇だ。やっぱり養成所に行かないか? 毎日これじゃあ、腐るだろ」

「何か依頼を受けるべきでは? その。少し苦しいんですよね?」

「装備も戻ってないし、なんとなく今はやめた方がいいような気がするんだよな」

「……そうですね。じゃあ明日、行ってみましょう」

「とりあえず最近の雰囲気も分からないし、グラニスさんの所に一度行ってみよう」

頷く彼女から視線を外し、食事にフォークを突き立てる。



このまま永遠にあの家が出来上がらなければいい。

全ての結論も悩みも。

そんな逃げ腰な考えを頭から振るい落としながら、最後の一切れの肉を口の中へ放り込んだ。


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