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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の、新しい日常
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変わり始めた日常06

養成所の建屋を抜け、裏手の屋外訓練所に出た。


埃っぽい土敷きの屋外訓練所、そこに1組のテーブルが置いてある。

テーブルの上には中に水が入ったガラスの器、レイスはその脇の椅子に座って本を読んでいた。

足音に気付き俺の姿を見つけると、緊張した面持ちで立ち上がる。


グラニスがレイスに一言二言説明し、こちらに戻ってきて

「まぁ見てやれ」

とだけ言うと、レイスの方に向かって頷いた。

彼女は一度こちらに視線を向け、テーブルの上の器に視線を移す。


目を閉じ、手をかざし、口が小さく動いているのが見えた。

彼女の右手がゆっくりとかざすように動き、その先の細い指が彼女のイメージを放つようにゆっくりと動く。

大した時間ではなかった。

器の水がゆっくりと凍り付いていく。

水の芯が凍り始めると、そこから加速度的に周りの水が凍りつき、器にひびが入る。

その器の表面が真っ白くなり、そこからテーブルの上に丸く白い模様が広がっていき、テーブルがみしみしと嫌な音を立て始めた。


「よし、そこまで」

グラニスの一言で彼女は目を開き、目の前の光景に少し驚き、嬉しそうにこちらを見るが、

俺の視線はそのテーブルに釘付けだった。

なんだ、これは。


「凄まじい素養だ。このような才能の持ち主がいるものか…。」

グラニスが改めて驚嘆する。

先程俺を呼びに来る前に何度か同じ事をしたのだろうが、それでも驚嘆に値するという事か。

我に返った俺はテーブルから彼女に視線を戻す。

先程までの集中のせいか、額に汗が浮かんでいる。

「すごいじゃないか、なんだ、お前どうやったんだ」

懐からハンカチを取り出し、彼女の額をぬぐってやる。

嬉しそうに顔を拭かれながら、

「あの、なんて言っていいのか分からないんですが、こう集中して、体の中から手の先に集める感じです」

「あぁ、全く分からないな……」

苦笑いしながら彼女の頭をがしがしと撫でてやる。


ゆっくりとテーブルの上の氷は水に戻り始め、今度は水の輪が広がり始めていた。





養成所の入り口でグラニスに挨拶をする。

「しかし、本当に大したものだ。このような物は見たことがない。どうだ、暫くここに通わせてみんか?」

グラニスは興味津々といった様子で、年齢を感じさせないほどに目を輝かせている。

「ちょっと待って下さい、相談してもう一度、明日来ます・・・その時で構いませんか?」

「大丈夫だ、いつでも待っているぞ。いや、嫌でなければ是非来て欲しい。頼むぞ」

念の為、答えを引き伸ばそうとする俺にグラニスが念を押す。

頭をさげ、養成所を後にした。


養成所の区画を抜け、道が石畳になった辺りで、レイスが小さな声で伺うように言う。

「リューン様、あの…」

「いいよ、行きな。帰りに本を買おうと思っていたんだが、ここまで来てしまったから明日の帰りにでも買おう」

「本当ですか?」

顔をぱっと明るくさせ、喜びを表現する。まるで小さな子供か犬のようだ。


その後、彼女は一日中顔に笑顔を貼り付け、ルシアにも訝しげな顔をされていたが、気にする様子は無い。

自分には何もない、と思っていた所で非凡な才能を見つけたのだ。気分も高揚するだろう。

誰も見ていなければ小躍りし始めそうな雰囲気だ。

そんな彼女を見ながら。

俺は懐具合の心配を始めた。









翌日も朝早くから目を覚ました俺たちは、養成所に向かう事にする。

入り口で首を長くして待っていたグラニスは、目を輝かせている。

こんな非凡な才に立ち会えるなど、魔術師冥利に尽きるという物だ、との事だった。

また昼に迎えに来る、とレイスを見送り、ただ待っても仕方がないので、冒険者ギルドに依頼件数の状況を見に行く事にした。


「あれ、今日は1人?」

受付で声をかけられるのを適当にあしらい、依頼が貼り付けられているボードを眺める。

…ボード自体が真新しく、大きな物に交換されていた。

護衛、ストレートな傭兵業務と野盗の討伐、そして魔物の討伐が端の方に数枚張られている。

割合からすると、2、7、1、といった所か。

戦闘する前提の物が非常に多い。

先日オルビアが、また戦争になるのかもしれない、と言っていた事を思い出す。


レイスがいる事もあり、長期で不在となる護衛は受けづらい。

傭兵も野盗討伐も人間を殺しに行くのが目的だ。

魔物はどんな物が出てくるか分からないが、この辺りでは強力な魔物など現れないだろう。

……受けるのであれば、魔物の討伐か。

しかし、少なくともここ数年は魔物に関わる依頼など、時折見られる程度だった印象だ。

「キマムさん、何だかキナ臭い雰囲気だけど…。戦争でもやるの?」

何か知っているかもしれない。一応、聞いてみる事にする。

「どうも最近魔物の被害が多くて、難民みたいになる人が多いらしいね。

それで食っていけなくて山賊みたいになるような話を最近聞いたよ。

だから護衛の依頼でも、結構危ない状況があるみたいでさ、この所いつでも人不足なんだよ。

あのボード、結構依頼溜まってるだろ? どれか、受けない?」


先日の護衛の折の襲撃を思い出していた。事実、傾向があるのだろう。

状況自体はありがたいとは到底思えないが、金にはなる。

恐らく依頼の単価も上昇傾向となるだろう。


とはいえ、今という事はない。

傾向と方針を検討できただけで収穫だ。

「いや、ごめん今日はやめておくよ。でもこっちも食い扶持だからね、早めに消化に協力できると思う」

「ホントに頼むよ?こっちも何とかしてくれって依頼者の方から文句言われててね。ったくそうそう丁度良く回る訳なんか無いだろうにね」

疲れた顔で愚痴を流す彼女をなだめ、養成所の方に戻ることにした。

そろそろ昼時だ。



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