表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その5
110/262

13

効率よく、そして必死に掃除を行う。

苦悶に満ちた表情を浮かべる不死者達の隙間に、濃紺の鎧が不死者の群れの中をこちらに向かって突き進む様が見えた。

その長剣を左右に大きく振るい、その姿だけ見ていると遊んでいるようだ。

周りにばらばらと飛び散る死体がなければだが。



結局、数人の怪我人と死者1人という犠牲で、外部に居た守備兵たちを片付けた。

グレトナ達の勢いに乗せられている感は否めないが、振り返った先の正規兵たちはその手応えに自信を持った様な雰囲気さえ感じる。

犠牲の少なさ、その恐らく最大の功労者であるスライは少し苦しそうだ。大きな魔法はあと2発が限度といった所だろうか。

その隣でこちらを見詰めるレイス。それなりに消耗している筈だがまだその気配は感じない。

屋内でも活躍してもらう事になるだろう。



怪我人に補助をつけてライネたちの所へ送り返す。

今更になって建物から時折出てくる守備兵達を片付ける様を眺めながら、再びグレトナと顔を合わせた。


「やっぱりそっちの方がしっくり来るじゃねぇか」

「…何がだ?」

「変に気負わないで突き進めばいいんだ。お前みたいな奴は」

死体の海を気にもせず踏み越えるグレトナは半笑いだ。

左右に大きく首を振って見せながら話を切り替えた。


「屋内になる。戦い辛いんじゃないのか?」

「あぁ。この剣、長すぎるんだよな」

腰の長剣を手で叩きながらぼやく。

軽々しく感じる程に死をばら撒いていたそれは、一般的な長剣と比べて確かに少し長い。

それでも恐らく、一方的に不死者達を片付けて回るだろう。


やる事は決まっており、改めての相談事は少ない。

「それじゃあな。ばらばら出てくるのを待ってるんじゃ日が暮れちまう」

「確かにな。また後で合流しよう」

「今晩は屋根の下で眠れそうだな」

今日中にこの建物を制圧するつもりのようだ。

尤も、それはこちらも同じだが。



建物内へ進入するにあたり少人数の班を構成する。

クレイルとスライを組ませ、そこに補助をつけた。

同様に俺はレイスと正規兵2人と同行する。

その他に2班が組まれ、4箇所から建物内に入り込む。

残る人員には、建物内から時折出てくる不死者の対応を任せた。




先程通り過ぎた建物の脇、そこに配置された少し頼りない扉を蹴破った。

目の前の長い廊下。その先でふらふらと歩いている不死者にレイスが氷の槍を放ち、叫びだす前の不死者が崩れ落ちる。

それを横目に見ながら廊下に並ぶ小部屋の扉を開いた。

質素な小部屋。恐らく兵達の宿直室なのだろう。

残る生活感にこの部屋の主の事を考え少し陰鬱な気持ちになった。

それを振り払いながら廊下に戻り、延々と並ぶ扉を眺める。


「…はずれ引いたな」

「そうですね。これ全部確認するんですか?」

「しょうがないだろ…」

自分で指示を出した事だ。

苦笑いする同行者達に聞こえないよう溜息をつきながら一つ一つ扉を開く。


時折どこからか聞こえる絶叫と戦いの音。

一方こちらでは、この行為に意味があるのかと疑いたくなるほど何も起こらない。

当然、何も起こらないのが一番なのだが。


やはり数を数えるのを諦めた頃開いた扉の中、反対側を向いたまま立っている不死者が居た。

こちらを振り向く前にその首を切り落とす。

床に転がるその顔は、驚いたような表情を浮かべたままだった。

遅れて崩れ落ちる体には深く短剣が突き刺さったままだ。


もはやこの程度では何の感慨もない。

振り返り再び廊下に戻る。







数刻が過ぎ、宿直室が並ぶ廊下が突き当たった先のホールに俺達は居た。

部屋の片隅には首を落とされたまだ新しい死体が転がっている。

何班かが通り過ぎた後なのだろう。


ホールから数本の通路が延びており、2階に上がる少し豪勢な階段が部屋の中央に下りてきている。

ここが本来の玄関とでもいった所だろうか。


各通路の間口の床に、恐らく守備兵が身につけていたのであろう剣が刺さっていた。

こちらに向かう、とでもいった所だろうと判断し自分達が通ってきた通路の入り口にも剣を突き刺しておく。

残るのは2階に向かう階段だった。


「気が進まないが」

言いながら振り向く。

視線を巡らす先の3人がそれに頷くのを見て、階段に足を掛けた。



見上げる階段の先には少し豪勢な作りの大きな扉が見える。

登り切った先には再び小さなホールがあり少し豪勢な作りになっていた。

恐らくこの先は領主の住処に分類される範囲なのだろう。


正面の豪勢な扉に手を掛けたその瞬間だった。

扉の先で聞き慣れた絶叫が響く。

既に誰かがこの先に進んでいるのだろう。

扉の向こうには幅の広い通路が続いており、更にそこにはいくつもの扉が並んでいる。


突き当たりにあるやはり大きな両開きの扉、その片側が開いたままだ。

そして声は少し先から発せられたように感じた。

声の主は恐らく、その開け放しの扉の先だろう。


「部屋も広そうだ、手伝いに行くぞ」

振り向く先、再び頷く彼らを連れて小走りに駆ける。


…俺の視線の先で、恐らくは生きた人間のくぐもった悲鳴が聞こえた。




少し楽観視しすぎていたかもしれない。

或いはただ慣れてしまっていたのか。

事実、それなりの訓練を積んだ不死者の対応にも慣れてきていた。

あくまでそれは、それなりの訓練を積んだ者、だったのだ。


あと10歩程で扉に手が届く程の距離。

念の為、使い捨てにしても惜しくない右肩の剣に手を掛けていた。


その俺の目の前で残る片側の扉が弾かれる様に開いた。

扉を開いた主は、腰から上だけになったマルト聖王国の兵の1人だったのだが。

扉を開けて飛んできたその上半身、それを目の前で両腕が受け止めた。

受け止めるというよりは直撃をなんとか防いだ、と言った方が正しい。


その顔は口を大きく広げて何かを睨んだままだった。

半身の断面から飛び散るおびただしい量の血。



舌打ちしながら視線を上げた。


大きな体躯。

鉄板鎧を身に纏い、柄の長い大斧と大型の盾を身につけた戦士がゆっくりと扉の向こうから歩いてきた。

兜の奥に歪んだ口元だけが見えており、その表情の全てを伺い知る事は出来ない。



「領主を守っていたんでしょうか」

後ろから聞こえるレイスの声。


「あぁそうだろうな。守備兵長って所か。その領主様もこいつが殺してそうだが」

左足を一歩前に出し、両腕を胸の前に構えなおす。

それを見て、一歩下がっていた正規兵二人が隣に並んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ