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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その5
109/262

12

幾度と無く歩き回った道を街の中心部に向かって歩いている。

人の気配のない見慣れた町並。

見慣れた面子。

やはり見慣れつつある10人程の正規兵達。


ラヴァルにも同行するべきだと訴えたが、お前にやらせるという命令を出すのが俺の立場だ、と言って笑うだけで取り合ってもらえなかった。

報酬分は働け、という事だろうか。




町の中心部にある大きな広場。

ここから通りを北上すると城壁に囲まれた領主の館がある。

今回の恐らく一番犠牲も出るであろう場所、そこへ向かう折にはここで集合となるだろう。


途中1人の不死者を片付けながら到着し、マルト王国側の人間を待つ。

苦労して掃除し終えたこの場所。

見渡す景色の中に人の気配はまるでない。

最近まで沢山の人が行き来していたであろう広場の端で腐敗しつつある死体から目を逸らす。



「あのよぁ、今思ったんだけどな?」

「あぁ、なんだ?」

「この街全部、燃やしちまえば良かったんじゃねぇか?」

とんでもない事を言い出すスライ。

そしてとんでもない理由で同意するクレイル。

「確かにそうしたら遺体の処理も要らないですね」

「お前、本当に騎士かよ…」

率直な感想にクレイルは少し不満顔だ。


「それに全部燃やすのは流石にないだろ。復旧だってできる」

「復旧ねぇ…」

気が乗らない顔で、後日突入するであろう城壁を眺めている。



「あぁ、またお客さんだ」

言いながら弓を引き絞るヒルダ。

その弓から放たれた矢は、通りの脇から歩いてきた不死者の頭を正確に貫く。

それをじっと見詰めるレイス。


「どうした?」

「いえ。上手いな、と思いました」

「お前もそうそう外さないだろ?」

「狙っている時間が違います。まだまだです」

考え込む彼女の頭に軽く触れ、その注意を再び辺りへの警戒に戻す。






一刻程の後。

東側の通りの先に数人の部下を伴った、見覚えのある濃紺の鎧が見え始めた。

思わず軽く笑みを浮かべてしまう。


「よう。待たせたな」

その辺りで待ち合わせでもしていたかのようなグレトナの言葉には、緊張感のような物は微塵も感じられない。


「そんな軽い雰囲気かよ?」

「…重苦しい雰囲気が良かったか?」

その半笑いの顔に呆れながらも気を取り直して本題に入る。


「あそこだ、どうする?」

「あぁ。さっさと叩き潰そう」

英雄は、通りの先の城壁を指差す俺に事もなげに言ってのけた。


「守備兵の詰め所があるそうだ。それなりに苦労すると思う」

「今までだって苦労しているさ。お前みたいな元冒険者が厄介でな。みんな違う戦い方しやがるからやり辛くて敵わん」

「確かに統一性はないな。守備兵ならやりやすいんじゃないか?」

「そうだな。まだやりやすい」

冗談で言ったのだが。


しかしこいつは相変わらず。

苦労すると思っていたこの先での戦闘も、難なく済ませられるような気になってくる。

大した物だ。


「分かった。さっさと片付けると言うのには賛成だな。いつ行く?」

「明日でもいいぞ?少し人数がいた方がいいか。突っ込んで片端から片付けるんじゃ流石に疲れる」

「そういう問題か。ゆっくりでいいから1人で片付けてきてくれよ」

「お前も付き合え。1人じゃ寂しいだろ」

そういって笑って見せるグレトナ。


「まあ、いつも通り変わらん。敵が居るから蹴散らす。それだけだ」

いつも通りと言う言葉に、かつて見たクラスト王国の兵を蹴散らして突き進む様を思い出す。

先頭を切り開くグレトナ。

そして後続たちがその左右を切り開いていく。

…不死者達をいつもと同じように薙ぎ倒す彼らの姿を想像し、苦笑いしていた。


「分かった。突入は尻馬に乗らせて貰っていいか?」

「だから一緒に先頭に来いって。そういうのは大事だろ?」

「お前と一緒にしないでくれよ。そんな事してたらお前以外の奴は普通、死ぬ」

「…自分で思ってるよりしぶといと思うぞ、お前」

何を言っている、とでも言いたそうな顔を向けられた。


「…兎も角だ」

仕切りなおす。


「あそこはきちんと掃除しておきたい。後で街を復旧する時にもああいう場所は必要だ」

「まぁそうだろうな。途中からは屋内ってのが気にいらないが」

「あの広さだ。建物に入ったら散るようになるな」

「こんな所で雁首並べて狭い廊下を行進する気にはなれない。仕方ないだろ」




やはり緊張感のないやり取りを暫く続け、概ねの作戦を決めた。

細かいところを省略すると。

城壁内に入って城壁の中を歩いてる奴を倒す。

建物内に入って建物の中を歩いてる奴を倒す。

……作戦も何もない。

強いて言えば、突入時に火球の魔法で少し数を減らす、という所が作戦らしいところだろうか。




「それじゃあな」

手を上げるグレトナに右手を上げて返す。

まるで酒を飲んだ別れ際のような挨拶に、やはり呆れた顔をしてしまう。


「リューン様。あの人。その、なんていうか…大丈夫なんですか?」

「ああ。多分」

「多分かよ…」

近くで聞いていたスライの顔が緩んでいる。


「大丈夫だ。あいつより強い奴を俺は知らない。言っていた通り、問題なく片付けるだろ。…多分」

「じゃあ多分て言うなよ…」

悪乗りする俺の言葉に、更に緩んだ顔になる金髪。

やり取りを見ていた周りの皆の顔が情けなく歪むのを眺めながら、この調子ではいけないと態度を改める。


「すまない、悪ふざけが過ぎた。とにかく一度戻ろう」






2日後。

再び同じ場所に集まった俺達。

ラヴァルには野営地となっている門に10人程の正規兵と共に残ってもらい、残る正規兵と見慣れた仲間をここに集めている。

そして広場の向かい、少しこちらよりも多いマルト王国の兵。

その中から濃紺の鎧が歩いてくる。

俺もクラストの兵、そして見知った仲間たちの中から歩み出た。


その中央で握手して見せる。


グレトナは楽しそうな顔だ。

「よろしく頼むぜ相棒」

「助けを頼んでいるのはクラストだけどな。お手柔らかに頼む」

「随分と弱腰じゃねぇか」

「お前と一緒にするなよ。俺は普通の人間だぞ?」

「なんだそりゃ?」

相変わらず緊張感のない会話。

そして2人同時に振り向き、それぞれの仲間に視線を戻す。


「じゃ、行くか」

「あぁ。気が滅入るな」




広場から北に伸びる道を進む俺達の視界に、大きく開け放しの門が見えてくる。

その先で歩き回る恐らく守備兵だったのであろう哀れな不死者達。

更にその向こう、横長の大きな建物が見えている。


一度振り返り、スライとレイス、そしてヒルダを呼ぶ。

隣ではロシェルと見知らぬ年配の男性を呼んでいる。


その暫く後。

その城壁の中では壮絶な爆発音が響き渡っていた。


隣で短い金属製の杖を振るうロシェルに張り合うように、スライが大型のスタッフを構えなおす。

城壁の中から響く絶叫、そしてその門からこちらへ歩み出てくる不死者を氷の槍と矢が貫く。


「予定通り、ヒルダとライネ、さっきの10人はここに残れ。危ないと思ったら逃げろよ?」


屋内での戦闘となった際、ヒルダは相性が悪いだろう。

そして散った人員が傷を負った場合を考慮すると、ライネにはどこか確実にここにいるという場所に控えていて欲しかった。

マルト側も10人程をここへ残す事となっていた筈だ。

20人居れば仮の拠点としては申し分ないだろう。最悪、撤退となった折の退路も確保しておきたい。



隣に立つグレトナの顔が笑っていた。

「戦闘狂か?勘弁しろよ」

「似たようなもんだ」

いつかのような軽口を叩きながら門をくぐる。


4度の爆発音が響いた後、俺達は突入した。




先程の火球により、門から視線が通る範囲の不死者はその殆どがただの肉塊へと変わっている。

巨大な建物を正面に見据え、その左右に残る不死者を見渡した。


「そっち任せたぞ?あの建物の裏手で合流だな。外掃除しているうちに死ぬなよ?」

「結局先頭かよ。まぁ危なくなったら先に逃げるから安心してくれ」

暫くお預けになるであろう軽口を叩き、走り出す。



視界に入り込む不死者。

手前に6人、その先に…数えるのが面倒くさい程度の数。

その全員が揃いの鎧を見につけている。

先頭でこちらに向かって絶叫する守備兵。

受け止めようとする斧の柄に青白い刀身を振り下ろし、柄ごとその頭を両断した。

崩れ落ちるその体を思い切り蹴り飛ばす。


その後ろの2人の不死者がその手に持った剣と斧を振り上げた。

斧を振り上げた不死者が頭を氷の槍に貫かれ、膝をついてゆっくりと倒れ込む。

振り下ろす剣を受け流したクレイルが、その姿勢からはじき返すような動きで不死者の頭を切り飛ばした。

残る不死者に正規兵達が切りかかる。

1人が不死者の斧の1撃で弾き飛ばされ、しかしその不死者は直後に2本の剣で右腕と頭を切り落とされた。

視界の端、長柄の斧で頭を叩き潰された不死者が地面を転がっている。


…大丈夫だ。もう少し突き進んでもいいだろう。


手前の6人を片付け終えたところで振り向く。

言われなくてもわかっている、とでも言いたそうな顔でスライが火球を放ちその先の不死者達を纏めて吹き飛ばした。




えぐれた地面を踏み越えて早足で進む。

その先で再び響く絶叫。


聞き慣れたその声を気にも留めず、早足でその距離をつめていく。

どたどたと走り始めた彼らの足を狙って適当に放たれる氷の矢。

バランスを崩して転がる不死者達を見て駆け出した。


のろのろと起き上がろうとする不死者の頭を踏み台にして跳躍し、正面の不死者の頭を叩き割る。

右から振り下ろされる小剣を小手が受け流し、体を回転させてその顔に左拳を打ち込んだ。

仰け反るそいつの止めを後続に任せ、正面の不死者に再び切りかかった。


綱渡りで不死者達の群れを切り開いていく。

自分で止めを刺さなくても、後続がその役目を果たしてくれる事を理解していた。

自身が不死者の絶叫を集める事で、片づけが一層効率よく進められる事も。


振り下ろされる斧を体を捻ってかわす。

ただでさえ重たい一撃を馬鹿力が振るっているのだ。掠るだけでも大きな被害だろう。

その斧を再びこちらに振るう前に、手首を切り落とし正面に視線を戻した。



ひたすら剣と拳を振るう。

20人目までは切りつけた人数を数えていたが、先程それもやめていた。

おびただしい数の死体を本来あるべき普通の死体に戻しながら突き進む。




肩で息をしていた。

その巨大な建物の脇にまでたどり着き、少し身を低くしながら先を眺める。


先程までで片付けたのと同じような数の不死者。

息を整えながら振り返り、眉間に皺を寄せるスライを呼んだ。


先程から力が入りすぎな高威力の火球を放っている彼の顔色は、まだあまり悪くない。


「スライ、すまない。…とりあえずもう一発だ」

「悪いがあと3、4発がいい所だな」

言いながら杖を構えたスライが火球を放ち、頭を掻きながら部隊の後方へ下がっていく。


飛び散る肉片、瓦礫、砂埃。

そして絶叫する守備兵たち。


大きく息を吸い込む。

「行くぞ!」

建物の角から飛び出して疾走する俺達の目には、やはり大量の不死者が写っている。


再びその群れを切り開く作業に取り掛かった。



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