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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その5
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重苦しい空気の中、ラヴァルに今日の出来事を説明する。

死亡者が出たこと、予想外に手強い不死者が混ざっていた事。

そして。


「国境に近いという事は、当然守備兵も配置されていたという事ですよね?」

「残念ながらそうなるな」

言いながらラヴァルが指す地図上、街の北寄りに大きな建物が記載されている。

それは城壁に囲まれたこの町の中で更に城壁に囲まれており、王都の貴族達が住まう区画を思い出させた。


「本来、領主は国境部隊の指揮官を兼ねている。この数十年、この辺りは小競り合いもなく完全に形骸化していた。それ自体はいい事だったんだがな」

「それで今回の事態にも対応できなかったと?」

「残念だが否定できないな」

悔しそうな顔をしているラヴァル。


グレトナの言葉が本当であれば、マルト王国領には今の所、被害はない筈だ。

その違いが今のこの国の姿を象徴しているように思えた。



「それでもここにいた守備兵たちはきっと必死に戦ったと思います。彼らの命をいつまで冒涜されたままには出来ないでしょう」

「…そうだな。すまない、気を使わせたか。しかし恐らく勇敢に戦ったであろうその彼らを二度死なせなければならない。堪らないな」

「そうですね。彼らは。何かを考えたりしているのでしょうか」

そんな事は当然分からないが。それこそ彼らの仲間にでもならない限り。




地図に描かれたその建物を眺める。

その建物を表す縁取りの黒い線は、地形を表すような大きさで複雑に曲がって結ばれており、その囲われた空白は殊更に巨大さを示していた。


「マルト王国の連中は東から掃除を始めているんでしたよね?」

「そうだな。もうじきに町の中で出会ってもおかしくはない頃合だろう」

「ここを攻める時には足並みを揃えたいですね。こんな心配する必要が出るとは思わない雰囲気でしたが」

「…そうだな。とにかく使いを出す事には賛成だ。明日の朝一番で送っておこう」

目の前のラヴァルが見渡す狭い野営地。


やっとそれなりになった戦争中らしい雰囲気。

この結果だけを見れば、死んでしまった彼らは必要以上にその役目を果たしていた。

そんな犠牲も無くこういった状況を得られればそれが一番良かったが。


「明日からはどうするつもりだ?」

「すみません。犠牲が出ないとは思っていませんでしたが…。10人近くも死なせてしまった」

「止むを得ないだろう。本来戦いとはそういうものだ。そしてお前は自分の手でそれを処理した。兵達から見ればそれは信頼に足る物だろう。…それを自分の手で行わない事が大切だと普通は習うがな」

その言葉に、意味を分かり兼ねるといった顔でラヴァルの顔を見返す。


「本来、指揮をするものとはそういう場所に居るべきだ。今回のお前の立ち位置はとびきり特殊な事を覚えておけ。気分のいい悪いは別にしてな」

悔しそうな顔で語るラヴァルと別れ、皆が休む場所へと戻る。





ラヴァルの言葉に、以前グレトナが語った事を思い出していた。

「この先もずっと自分で戦う。後ろで控えて若い奴らがくたばる様を眺めている、そんな事は俺には出来ない」

…そして今のラヴァルの言葉を再び思い出す。


正しいのはラヴァルだろうが、恐らく自分はグレトナと同じことをしてしまうのだろう。

別に先頭に立って戦いたいとか、彼のように英雄になりたいなどと考えている訳ではない。

しかし安全な所に控えたまま、一言で幾人、下手をすれば数百人分もの命を散らせる事など、自分には到底耐えられるとは思えない。

そして先程ラヴァルが見せた表情は、その苦痛の表れなのだろう。

この仕事が終わる頃、その表情はより一層深くなっているかもしれないが。

出来ればそうならない事を願いたい。





いつも通りに同じ顔が集まっている筈の焚き火を目指して歩く。


「よう、どうだった?」

聞き慣れた声で呼び止められた。

振り向く視界に見慣れた金髪が立っていた。


「とりあえず明日も掃除だな。少しやり口は変えるが。所でお前は何やってんだ?」

「色々とな。っていうかよ、お前は幸せだよなぁ…」

「……?なんだ?」

「あーなんでもねぇ。とにかくここを片付けようぜ」

立ち止まった俺をさっさと追い越すスライ。

追い越した金髪を追いかけて焚き火に戻り、レイスの隣に座り込んだ。


「…どうでした?」

こちらを見上げるレイスの右目。

それに微笑んで見せてから皆をぐるりと見渡し、明日からのやり口を伝えた。






翌日。

昨日と同じ事が繰り返される。

雰囲気は昨日までの楽観的なものから明らかに変わっていた。

士気や緊張感ついてはもう、文句のつけようが無い。

しかし逆に、危ないと思ったらすぐに戻るよう徹底させている。


時折遭遇する憲兵や守備兵だったであろう者達、冒険者だったであろう者達。

彼らのように戦闘経験が豊富な者達との戦闘は危険だと判断していた。


撤退してきた兵達から場所を聞きそれを片付けに向かう。

俺とレイス、スライの3人がその撤退してきた班に加わって出直すというやり口をとっていた。

空いていればヒルダも連れて行くが、どうも彼女は運がいいらしくその折にはいつも居ない。

クレイルは先述の理由で連れて行かないのだが、彼の場合も何故かその様な状況には直面せず、予定通りにここへ戻る事を繰り返していた。





数日が過ぎた。

犠牲を出しつつも、地図の大半が清掃済の線で埋め尽くされている。



今日2度目の呼び出しを終えて戻る俺達の足は重い。

夕闇迫る野営地、その中からクレイルが手を振っているのが見えた。

手を振り返す気にもなれず、そのままのろのろと歩く。


今日対峙した5人組の冒険者だった不死者達。

長剣で肩口から脇腹にかけて両断された兵の、驚いたような顔を思い出していた。


やはり少し疲れた顔のヒルダ。

「お疲れ様。どうだった?」

「1人やられた。5人組の冒険者だ。あいつら結構いいランクだったんだろうな」

「あー、勿体無いね」

「そんな余裕ねぇって…」


頭を掻きながらスライが悪態をついている。

今日5回の火球を放ち、そして炎の矢で援護を行っていた彼は疲れきっている様子だ。

…出力を調整すればもう少し回数をこなせると思うのだが。

レイスも数え切れない数の氷の槍を放っていた。先程から足元が怪しい。

ついでに俺も、さっさと横になりたい気分だった。


連日の呼び出しと、その先で戦う危険な相手。

自分が指示した事ながら流石に疲れた。

それに付き合っている彼らは、現地で精神の集中が必要な魔法を使っている。

俺以上に疲れているだろう。



しかしその甲斐もあり、もうじきに街の大半は掃除済みとなる。

無駄な労力とは感じられないのが唯一の救いだろう。




その翌日。

マルト王国側からの使いが届いた。

大半の清掃を終えており、城壁で囲まれた区画を攻める時期を考えているという。

二日後に町の中心部で打ち合わせを行う事とした。



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