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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その5
106/262

9

幸いにも、仲間内で最初に目が覚めた。

握られた手を引き剥がして起き上がり、皆が起きるのを待つ。



「今日からが本番だ。とりあえず正規兵の連中の具合を確認してくれ。そう錬度が低いという事はないと思うんだけどな」

抑えた声。

聞こえてしまうと気分が悪くなるであろう内容を改めて皆に伝えた。


「分かってるって。問題ねぇだろ。互いの力量を知るのは重要だからな」

スライは寝起きで少し機嫌が悪い。

先程から眠いだの疲れただのとぼやいている。


「あんたも今日から知らない連中と組むんだから人の心配ばっかり出来ないんじゃないの?」

対照的に寝起きが良い様子のヒルダ。


この2人は後衛だ。前者は正直前衛向きだと思うが。とは言え、前衛如何によっては簡単に命を落とす立場の彼らの事を内心では少し心配していた。


「…俺は?」

大口を開けて眠っているのを起こさずに放っておいたクレイル。

口の中が乾いたらしく目覚めるなり懸命に水を探していた。


「お前は大丈夫だろ?」

昨日の件の軽い復讐だった。

やはり不味かったか、といった顔をするクレイルに続ける。


「本当、勘弁してくれよ」

「やっぱり失言でしたかね」

そのやりとりに、お前もだろうというスライの視線を無視して準備を始める。

しかし準備と言っても大した話ではない。

何しろ数刻の戦闘を繰り返して戻るだけという前提だ。

装備の確認程度をすぐに終えた俺達は、同様に準備を終えた正規兵達の中を歩いていく。


昨日、少しだけでも戦う様を見せておいたのは正解だったらしい。

若干の畏敬に似た視線を感じていた。




「じゃあヒルダ、頼むぞ?」

「はいはい」

「俺は?」

「お前は心配無さ過ぎるんだよ。その杖、俺の剣と交換して行けよ」

半笑いで列に入っていくスライを見送った。

今日の1組目として出て行く2班分、およそ15人の正規兵達に混じった彼らを見て、大きく息を吸い込む。


「それじゃあ昼前には戻ってくれ。どうせ先は長いから無理するな。死んだら意味が無い」

大きく張り上げた声に、皆の視線を浴びる。

「よし、行ってこい!」


その声に、威勢のいい返事を返す者、ただ頷く者、無言で振り返る者。

様々な姿を見ながら彼らを送り出した。



「板についたんじゃないですか?」

隣で含み笑いをもらすレイス。


「今のは事実を言っただけだからな。嘘でも真実みたいに言わなきゃいけない場合を考えると気が滅入る」

「誰でもきっと最初はそうですよ。その気持ちも無く平気で嘘を言うより余程いいんじゃないですか?」

そんな言葉を返す彼女に少し驚いた顔をしてしまう。

本当に成長した物だ。


「そうかもしれないけどな。何れにせよ、やりづらくて敵わない。とっとと前線に出たほうが余程気楽だ」

その言葉に大げさに考え込んでみせるレイス。


「まぁ気にするな。どうせ昼からはその前線だ」

言いながら振り返り、次の組の人員を確認する作業を始めた。







じきに1組目が戻るであろう時間を迎えていた。

先程から彼らが向かった先でいつもの絶叫が響いている。

そして時折混じる爆発音。

幸い、生きた人間の物であろう断末魔や悲鳴はここまでは聞こえてきていない。

彼らの無事の戻りを祈っていた時だった。


町の反対側、彼方から聞こえる爆発音、そして辛うじて見える火柱。


「マルトの方にも同じような魔術士がいるな」

「スライさん、変に張り切らないといいんですが…」

レイスの心配を裏切るように、もう戻る時間を迎えるにもかかわらず数度の爆発音が響き渡る。

その音は、先程よりも大きい。


「あいつ…」

苦笑いしながら顔を伏せる顔を、レイスが楽しそうに笑いながら覗きあげていた。







無事戻った彼らを迎え、その首尾を簡単に聞く。

屠った数、回った道順。

一度掃除を終えた道を地図に薄く記載しておく。

実際には家屋の中までは見ていないので安全とはいい難いが、数の上では同じ道を巡回するよりも効率がいいだろう。

あともう一つ。


「お前…張り合うなよ」

「別に張り合ってねぇよ。沢山居たからな」

目を逸らすその顔。

すぐ後ろにいる兵達が笑っている。

取り合えず、関係は良好なようだ。


「わかった。じゃあこれからもやめとけよな?」

「当たり前だろ?…もうしない」

その言葉に矛盾を感じながらも、彼らには休憩に回って貰う。








そして2組目。

俺とレイスはここに加わる。


「よし。行くぞ」

2班分の人員、およそ15人を率いて進んでいく。

町の規模からすれば大した範囲ではないが、門から見える範囲は静かな物だ。

昨日道を逸れた曲がり角で、予定通り2班に別れる。

分かれる班に、見知った顔は居ない。


「さっきも言ったが無理しないでくれ。3本先で曲がってその辺りを片付けながら戻る。その次も同じだ。いいな?」

大きく頷く彼らに背を向け、曲がり角を左に曲がった先へ歩き出す。

既に視線の先に1人、ふらふらと歩いている姿を見つけていた。







心配していた正規兵達の錬度については問題がなかった。

時折不安な瞬間もあるが、控えにさせているレイスがそれをフォローしている。

その礼に無表情で頷くだけの彼女に当初戸惑っていたようだが、それにも慣れてきたようだ。


今回の場合、戦い方が特殊だ。

普通の戦いでは普通に選択肢となるやり口、腕や足などを狙う事に殆ど意味がない。

とにかく頭を潰すか切り離す。

慣れるまでもう少し苦戦もあるかと思ったのだが。






手を広げてこちらに迫る中年の男。

それを殴り倒し、腰から引き抜いた剣で首を刎ねる。


ふと、昨日ヒルダに言われた事を思い出して独り言をもらしていた。

「確かに痛そうだよな」

「何がですか?」

隣に居た青年にも聞こえたらしく、訝しげな表情で聞き返された。


「いや、何でもないんだ。…また来たぞ」

すぐ先の曲がり角からふらふらと歩いてくる3人を指差す。


後衛の弓使いがその1人の頭を射抜き、崩れ落ちる残る2人に前衛3人が駆けて行く。

その後姿を見ながら俺は、これはうまくないと考えていた。






予定通り夕刻前には戻り、交代の3組目を送り出す。


「クレイル、気をつけろよ。正直な話少し気が緩む筈だ。そういう時は危ない」

少し意外そうな顔をするクレイルはそれでも、分かりましたと返事をして正規兵達に混ざっていく。



出発する3組目を見送った。


「リューン様。これでは…」

少し眉をしかめたレイスは同じ事を考えていたようだ。

「手応えがなさすぎる。士気を維持するのが難しいな。人数を少し減らすべきか?」

「まとまった数がいなければ3、4人で対応できていますね」

「そうだよなぁ…」


不死者たちとの戦闘経験。

人数で勝る場合、それなりの技術を持った兵であればまず負けは無い。

…それが余計に危険なのだ。


ひたすら戦闘を繰り返す状況。

そしてその相手はそこまで強力ではないと認識されている。


その結果は簡単だ。

手を抜いてしまうか、過信から来る無謀な行動に至るか。

それでもそのまま最後まで行ければ気にする事はないのだが。



どこまで聞き入れられるかは別として、明日の朝にでも何かしら伝えるべきだろう。


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