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冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
行く果てを語る上での蛇足 その5
103/262

6

夜半に見張りを引き継ぎ、何の動きも無い風景を眺めている。


そこへ先程レイスとミリアが顔を出し、他愛も無い話をして戻って行った。

皆の寝息に気を使ってひそひそと話してはいたが、迷惑だからと元の部屋に戻らせたのだが。


少なくとも表面上、ミリアに落ち込んでいる様子は殆ど見られない。

内心それなりに辛い部分もあるのだろうが、皆が眠る頭の上でそんな話をし始めるべきではないだろう。




空が白み始めた頃、交代のヒルダを起こす。

「…なんかあんたも大変だね。相談なら乗るよ。どうにもならなそうだけど」

「もう放っておいてくれよ」

疲れた溜息交じりの声に、おどけるような仕草をしながら場所を代わる。

思い出したように騒いで悪かった、と謝って再び床に横になった。






どれほどの時間が経ったのだろうか。

体を冗談のように激しく揺すって起こされた。

「いて、いてえって、なんだよ?」

「おい、早く起きろって」

見下ろすスライが窓の外を指差している。


ゆっくりと体を起こし、ヒルダの脇から窓の外を覗く。

村の南側にクラスト正規軍の派手な旗が見えた。


「あー、良かった。とりあえずこれで安心だね」

となりでぼやくヒルダに苦笑いしながら階段を駆け下りる。

棚を押しのけて表に出て、兵達に向かって大きく手を振ってみせた。

進んできた兵達が、その辺りに転がる死体の数々に視線を向けているのを無視して声をかける。



「ここで合流する事となっていたリューン・フライベルグだ。村に到着した所、既に生存者はいなかった。こちらは人数も少ない上に――」

説明を始める俺の前に、兵達の中から老齢の騎士の乗った馬が歩み出てくる。

青い甲冑。腰から吊った装飾の施された長剣。背中に背負われた盾。

そしてその面構え、大柄な体躯。年齢を感じさせてなお感じるその圧力。

場数を踏んでいるのだろう。腕も確かなはずだ。


「リューンフライベルグか?」

「…そうだ。あんたが親分か?」

「そうなるな。私はラヴァル・ヴァンゼルという。宜しく頼むぞ」

わざわざ馬を下りて右手を差し出される。

少し驚きながらその手を握り返した。


「ミネルヴ様から話は聞いている。前線の指揮を任せる事になるだろう」

「あまり期待しないで下さい。人に指示を出すのは得意じゃない」

「気にするな。皆、大まかには自分の判断で動く」

それなら指揮なんぞいらないだろうと思いつつ、今の状況を説明する。

そして。


「あと。1人非戦闘員が混じっている。パドルアのリンダウという家の長女だ。ここへ到着した折にその護衛も全滅していた。パドルアまで護衛をつけて送り返してやってもらえませんか?」

「…分かった。少し待て」

「恩に着ります。出発は?」

「すぐに発たせよう。その護衛も再びこちらに合流させる必要がある。本隊の出発は明日の朝だろうな。簡単に埋葬も済ませてやりたい」

見渡す通りに転がる、やっと埋葬される事になった死体達。

この人数がいれば比較的すぐに埋葬作業も終わるだろう。

しかし、この先のウルムの町でも同じような事が言えるのだろうか。



「パドルアへの件の当人を呼んで来ます。先にそれを済ませましょう」

振り向く俺の後ろに響く、遺体の埋葬を指示する声。

そしてそれに答える気の進まない雰囲気の返事。

少し申し訳ない感情を抱きながらも、再び皆の元へと戻った。





1階に全員に集まってもらう。

正規軍と合流し、その雰囲気も先日の隣国での折のように不穏ではない。

どちらかと言うと楽観的な空気が流れていた。


「それじゃあ皆、少し聞いてくれ。

まずミリア。後でパドルアに送って貰える事になった。準備は無さそうだが一応心得てくれ。

ヒルダ、ライネ。あんたらはミリアの救出の為に無理を言って来てもらった。一緒に帰って貰って構わない」

ミリアはその言葉にゆっくりと頷き、後者は沈黙している。

何だ?という顔をする俺に気の進まない表情のヒルダが切り出す。


「それなんだけどさ」

「何だよ。ここに住むか?」

「いやいや。とりあえず私達2人は恩を返して来いって言われてる。足手纏いじゃなければ付いて行くよ」

「……正直薦められないな」

昨日の一件から、今回の相手に関する印象がすっかり変わっている。

安全だと思っていた訳でもないのだが、予想よりも危険な仕事になるだろう。


「大体、とっくに死んでいたかもしれないんだから今更遠慮して貰わなくたっていいんだよ」

「そうですね。私もあの後どうなっていたか分からなかった」

渋い顔をしている俺にヒルダとライネが続ける。


「…分かった。ミリアの出発までもう一度考えてくれ。幾らも時間は無いが」

2人に判断を任せ、ミリアの方に振り向く。


「何れにせよ、良かったな。とりあえず戻ったらセイムに礼を言っておけ。あいつが居なかったら俺達はここに来てなかった」

「…うん。わかったよ」

「グラニスさんにも宜しく言っておいてくれ」

「分かった」

何かまだ言いたそうな雰囲気を無視し、再び正面に向き直る。


「で、だ。スライ、クレイル。俺達は穴掘るの手伝うぞ」

「本気かよ」

「やっぱり手伝うんですか?」

「俺も行く。何もしないで見ていた、って扱いになるのも癪だしな」

空を仰ぐ二人に苦笑しながら、振り向く視線の先。



レイスのこちらを見詰める視線に、ミリアを顎で差して見せ、出発まで着いていてやれといった事を伝える。

彼女の視線が少し俯くミリアに移るのを確認すると纏めに入った。

「ウルムへの出発は明日の朝だ。今晩はしっかり眠らせて貰えるよう調整する。」




少し考え込んでいる女性陣4人を置いて、死体を運んでいる者達に混じる。

それ程の期間が経っていないので腐乱はしていないが、やはり気分のいいものでもない。

更に。

彼らが不死者として活動する前に犠牲となった者達はひどい有様だった。

目を背けながらそれを運んでいると、先程の老騎士ラヴァルに呼び止められる。


「少しいいか?打ち合わせたい事がある」

少し離れた所から2人分の恨めしい視線を浴びつつ、そこを離れた。





仮設の天幕が設置され、状態のいい家屋を組み合わせて今晩の野営とするようだ。

その家屋に通され、テーブルの上で広げられた地図を見せられる。

ウルムは国境に近い事もあり、少なくとも地図上ではしっかりとした城壁で囲まれている。

しかしその間口の数。

10数箇所に門が設けられているが、それぞれの大きさは地図からは読み取れない。


「どう見る?」

随分と大雑把な聞き方だが。


「門の数が多い。城壁に問題が無いのなら出来る門は閉鎖して、交代で掃除に入るのがいいんじゃないですか?」

「それなりに犠牲が出そうだな」

「あちこちに散られると余計に犠牲が出る。それよりは余程いいのでは?所でマルト王国の加勢は?」

「ここから行動予定を送り、概ね同時にウルムに到着する予定だ」

「であれば…」



東半分近くを任せてしまう前提で、お互いが到着後、城壁沿いに一周する。

閉鎖できる城門は閉鎖、出来なければそこを封鎖する人員を残して次に行き、とにかく街を包囲。

その後、残った人員で交代で街の内部を掃除する。



ラヴァルは反対する事も無く、ほぼそのままの内容で手紙が書かれる。

「そんな簡単に決めてしまっていいのか?」

「まぁいいだろう。お前の意見は間違っていないと思う。ここにサインをしてやってくれ。マルトの軍が出張るのは、お前が同行している事が条件らしいからな」

苦笑いするラヴァルに、やはり苦笑いしながらサインし、それを持った使いが町を発つ。


「しかし…お前はマルトの縁のものか?」

「いや、以前別の件で知り合った相手が奴だっただけなので。こんな話になるとは思わなかった」

「そうか。噂で聞いたが大した人間らしいじゃないか。いい友人を持ったな」

「あいつは…英雄です。なんと説明していいのか分からないが。そういう人種ですよ」

ラヴァルは、極めて適当な説明に少し考え込みながらも頷いた。


「確かにそういった人間は稀にだが現れる。問題は…それが敵でないか、という所だな」

「そうなれば刈り取られるただの悪役になりますからね」

「違いない」

そう言って大きく笑って見せる。

好感が持てる相手だ。

それなりの立場の者なのだろうがそれを主張したりもせず、適当な話にも上手く合わせている。

やはりそれなりの場を潜り抜けているのだろう。宮廷の中も含めて。



「それと。そろそろパドルアへの送りは出発するぞ。挨拶はいいのか?」

少し気が進まないが。

顔も見せないのもそれはそれで気が引ける。

礼を言い、馬車が待っている南門へ向かった。


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