表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者と奴隷少女の日常  作者: 超青鳥
2人の、新しい日常
10/262

変わり始めた日常04

町の中心部に向かう途中、やたらと往来の人と目が合う。

先頭を行くオルビアは人目を引きやすい。

そしてその後ろを歩く隻腕・隻眼の少女と体格のいい男。

まぁ目立つだろうとは思いながらも、見世物じゃないぞとでも言いたげに不愉快そうな顔をして歩く。


レイスはそういった視線には慣れているようだがやはり居心地が悪そうだ。

彼女と位置を入れ替わり、左側を歩いてやる。

少し経ってから意図を理解したようで、

「あの、ありがとうございます…」

右目の視界に入るよう、大きくこちらを向きながら礼を言う。

先頭を行くオルビアは全く気にしていない風に人混みを押し退けながら石畳を突き進む。


程なく中心部に到着した。

中心部でも一番大きな通り…の1本裏の道に入る。

「あっちの通りはどうも高いか安いか行き過ぎた店が多いんだ」

オルビアが解説しながらいくらか人通りが少ない道をどんどん歩いて行き、女物の服屋が集まる区画に到着した。


非常に居心地が悪い。

「さぁ行くぞ」

オルビアが振り返り、楽しそうにわざわざ俺に向かって言う。

「いや、ここで待ってるよ」

「駄目だな、最初から逃げるなんぞ許さん。1,2軒でいいから着いて来い」

「1,2軒じゃ終わらないのか…」

少し前のめりになる俺と少し楽しそうなレイスを連れ、1番手前の店に入った。



店の中に所狭しと服が吊り下げられている。

吊り下げられている服を、オルビアが凄まじい速さで手にとっては戻し、また手にとってはレイスの肩に当て首をかしげ。

左手に持っている服が増えたり減ったりしながら最終的に2着にまで絞ったようだ。

恥ずかしそうな顔のレイスの肩に交互に服を当てると

「やはり実際に着てみないと判らないな。試しに着てみるか」

レイスを店の奥の試着室に連れて行く。俺までも。

「1人で着られるか?じゃ着れたら開けな、前に居るから」

店の奥深く試着室前で俯く俺に、オルビアが話しかける。


「さっき、お前が2階から降りてきた時、あの子なんて言ったと思う?」

「…わからん。何言ってたんだ?」

「お前と私が恋人なのか、だってさ」

喉を鳴らしながら笑い声を出さないように笑う。

「はぁ?それでなんて答えたんだ?」

「ゲホゲホっと」

「いや、それは答えじゃないだろ」

「違うから大丈夫、取らないから安心しろと言っておいた」

「取らないってお前…」


その時、試着室のカーテンが開いた。

レイスが恥ずかしそうにこちらを見ている。

黒と白を基調とし、少し薄目の生地、肘先までの袖、膝下丈のワンピースで大人しそうな雰囲気だ。

「あぁ、いいんじゃないか?可愛らしいな」

「本当ですか…」

顔を赤らめながら再びカーテンが閉まる。



「全く見る目がない。不幸になるな」

オルビアが断言する。

「見る目が何だって。なんとなくひどい事を言われている気がするんだが…」

少し真面目な顔になってオルビアが言う。

「ああいうのは思いつめると何するかわからん。

過去を推察するに、今までそういうのがあったとは思えない。

経験が少ない奴は行き過ぎた事をしがちだが、彼女の場合は少ないどころじゃない。ゼロだ。」

「だから何が」

「お前、あの子に何した。優しく抱いたとかか?」

「……。」

昨晩の出来事を思い出して眉間に皺を寄せていた。


「まぁ今のは冗談だが、寄り添う先のお前が全て、という風に見える。もっと言うと騙されて周りが見えない小娘みたいだ。」

「騙されてって…」

「だから例えだ。お前、どうせ自活能力を身につけさせようとか、そんな事を考えているんだろうが気をつけろよ」

「気をつけるってなんだ?」

「覚悟がなければ手は出すなよな。そもそも手を出す気がないなら…うまくやれ」

「わかった。良くわからないが、うまくやる努力はする」

うな垂れる俺をつまらなそうに見ながらオルビアは更衣室に顔を突っ込んだ。



結局、その店では、最初に着た服を買った。

試着室から出てきたレイスは少し思いつめた表情だった。

「リューン様、やはりこんな物を買って頂く訳には…」

などとまた言い出したので、その手から服を奪い取り会計の係に渡し、服が仕舞われた可愛らしい紙袋をレイスに手渡してやる。

少し目に涙を滲ませながらも彼女は紙袋を受け取った。


店から出る。

「あの、本当にありがとうございます。もう本当に大丈夫ですから…」

と、レイスがすっかり恐縮している。


「よし、もういいぞ。お前はあっちの通り見に行くだろ?早めに終わらせてここでまた落ち合おう」

オルビアが指差す大通りの向こうは確か、武器、防具など少しこちら側とは違った毛合の店が並んでいた筈だ。

オルビアはそれだけ言い終えると、慌てるレイスの肩を抱いて人混みの向こうに連れて行ってしまった。

「いえ本当にあ、リューン様…」

困った顔の彼女が遠ざかる。

苦笑いで手を振り、自分の興味のある店に向かった。




何軒かの店を冷やかしで覗き、追加で投擲用のナイフを注文していた事を思い出す。

馴染みの店の方が価格は安いが、品揃えがやはり豊富だ。

柄から前に振り出すように独特なカーブを描く中型剣や、腰溜めに構えやっと振れるような大型剣を眺める。

こんな物を持っていたら慣れる前にくたばるな…などと考えていた。


そういえばいつも身につけている厚い革の胸当てがかなり痛んでいた事を思い出し、ついでに防具店を覗く。



リューンは主に、補強を施した小手で打撃・防御での戦闘を行う。

蹴りや組みついての体術も使うが、実際の殺し合いで蹴り損ねてバランスを崩せばすぐに死に繋がるし、組討は1対1ならば兎も角、実際の戦闘では背中を刺されかねない。

結果的に手での打撃に傾倒している。

その技術は祖父に習ったものだ。


剣も扱う。父はかつて首都に出張っていた田舎の騎士で剣術を習ったが、リューンが10歳のときに戦争で死んだ。

祖父も故人だが、結果的に祖父に学ぶ時間が圧倒的に長かった為、剣が二次的な武装となっている。

実質的な主武装・主防具である小手は、金回りが良かった時期に、何の因果かかつて父が身につけていた物、と思われる物がオルビアの付き合いの経由でたまたま手に入った物だ。

最早、記憶は定かではなかったが。

強力ではないが単純な強化の魔力が込められており、特殊な何かは一切ないが変形してしまったりする事もなく、その実用性を起因として長年付き合っている。


防具である革の胸当ては、両肩と鳩尾のベルトが体の前後を挟みこむような形状の簡単なものだ。

肩当もなく防御という点では期待できない反面、非常に動きやすい。


「少しは気を使うべきなんだろうな…」

簡単に死ぬ訳には行かない立場になった事を考え、もう少し体を覆う面積が大きい鎧を見て回る。

が、やはり金属製の鎧は重過ぎる。

結局、胸当てに腹回りを守る追加部品がついた革の鎧を試着だけさせて貰い、店を出た。





待ち合わせ場所に向かうため大通りを横切る時、一つの露天が目に入る。

髪留めや長い紐(髪を縛る為の物だろう)。

そういった女の子が好きそうな色とりどりの装飾品が並んでいる。

「お兄さんどうだい、安くしておくよ」

こちらを見もせずに定型句を述べる店番を一瞥し、等間隔に流された桟木にぶら下がる装飾品を眺める。

「これ、いくら?」

初めてこちらを見た店番が、次いで俺の指先に摘まれた鈍銀色に光る髪留を見る。

おいおい冗談だろう?というような価格を提示され、

それを黙って戻そうとした俺は結局、最初の提示額の4分の1の値段でそれを買った。




待ち合わせを、と言っていた場所でぼんやりと人通りを眺めて2人の戻りを待つ。

どこからこんなに人が集まる、と思うくらいに延々と川の様に人が流れている。

もう空は暗くなり始めているのに人波は激しさを増しているように見えた。


ふと、振り返ると、レイスが立っていた。

先程、別れる前に買ったワンピースを着て恥ずかしそうに

「リューン様、すみません、お待たせしてしまいました…。それに…」

言ってうつむく。

足元を見ると、靴も踵の少し着いた物になっていた。

あまり多くは説明しなかったが、オルビアは概ね必要そうな物を買いまわってくれたらしい。


視線を流すと。

冗談のような大きさに膨れ上がった袋を持ったオルビアが立っている。

「服がもう数着に靴、下着にその他諸々だ」

言いながら俺にその大袋を押し付けてくる。


渋々袋を受け取り、渡し忘れた購入資金を渡すため、ポケットの中身を財布を引き出す。

「あぁ、金は今度でいい」

オルビアが機嫌よさそうに手をひらひらと振る

「そういう訳にはいかないだろう」

「いや、今度にしろ」

少し怒ったような表情をする。気が利かないとでも言いたげだ。

目の前で代金の授受などされれば、レイスはまた恐縮してしまうだろう。

「わかった。次会った時に払う」

怒られてばかりだが、彼女には助けられてばかりだ。

「オルビア本当に助かった、ありがとう」

「お前のためじゃない。な、レイス」

レイスがまた肩を強引に抱かれ、はにかみ困った顔をしながら

「ありがとうございま…

オルビアに揺すられて最後までちゃんと喋れていない。




今まで辛かった分、少しは楽しい思いもしてもらわないといけない。

「そろそろ帰ろう。またルシアさんに怒られる」

俺は苦笑いしながら言った。







帰り道の途中、オルビアは自分の家に直接帰ると言って別れた。

夕食を一緒にとも言ったが、そんな事よりも眠いので露天で簡単なものを買って帰ると言い張って今度こそ聞かなかった。



宿に戻る石畳をレイスと並んで歩く。


オルビアにうまくやれと言われた事を思い出し、迂闊な事を喋るべきではない、などと考えていた。


意外にも、先にレイスから話しかけてきた。

「リューン様、あの、本当にありがとうございます。こんなお洋服まで買っていただいて」

「大丈夫、気にするな。本当に俺がしたくてしている事だから」

「私も何か恩が返せればいいんですが…」

「そのうち返してくれ、出来れば俺が死ぬ前に返してくれると助かる」

「そんな事は言わないで下さい。…私は、リューン様より後に死ぬのは嫌です」

冗談のつもりだったが、すぐさま悲しそうな重い声が返ってくる。

「悪かった、冗談だ。そのうち、俺を養ってくれればいいから」

「…はい、頑張ります」

冗談を塗り重ねたつもりだったが無駄だった。



ふと、太腿に違和感を感じポケットの中を探る。

何か入っている。取り出してみるとそう、さっき露天で買った髪留が入っていた。


「え…。」

それを見るレイスの目が潤んでいる。


…これがうまくやるという事か。

自虐的に心の中で呟くと同時に、レイスが俺のわき腹の辺りの服を掴み、下を向いて肩を震わせ始めた。

道を行く人が、先程の出掛ける折とはまた違った視線をこちらに向けて行く。



鈍く銀色の光を放つ髪留めを着け、ぐすぐすと泣く彼女の手を引きながら「草原の息吹亭」に着いた頃、

日はとうに沈み、蝋燭とオイル灯の明かりが通りを支配していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ