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カミラと食事

 サラゴサの市場の外れにある飲食店。ここでカミラと一緒にご飯ことにする。

 何度かこの店には足を運んでいたので勝手は知っている。それにカミラの手料理程じゃないけどこの店の値段の安さの割に美味しい。


「カミラ、今日は私の奢り。何でも食べていいわよ? バーガー? それともステーキ?」

「人狼族=肉食と言うわけではありませんよ少佐。……ステーキの方で」


 やっぱり肉食じゃないの、という無粋なツッコミはやめておく。カミラが肉好きだということは知っている。この子凄い肉好きなのに全然太らないのよ。


「じゃあ私はハンバーグで……あ、店員さんちゅーもーん!」


 ふふふ、私の懐の深さと暖かさを思い知るがいい!

 注文を取りに来たのは若い女の子。見た目的には18歳かそこらで私と同じくらい。え? 本当は25歳だろって? 心はいつまでも18歳だからセーフ! むしろカミラが25歳な気がする! 私より仕事と起きる時間早いし。


「えーっと、私はこのハンバーグのMサイズ。で、この子は……」

「私は牛ステーキ2ポンド(※約900グラム)でお願いします」


 パタリ、と私の持っていた注文票が倒れた音がした。

 あの、いくらお肉が好きだからって2ポンドって何よ。1ポンドならともかく。てかこの店2ポンドのステーキ置いてあったの!? 初めて聞いたよ!?


「わっかりましたー!」


 払う側である私の意見を無視して、店員さんはそのまま注文を受け入れた。

 ま、待って待って。値段は……。


「私のハンバーグの3倍……?」


 おかしい。カミラって人狼族とは言え15歳の女の子だよ!? 少しは肉を食らうことに抵抗感持たないのかなぁ!? それとも私の感覚が変なの!?


 十数分後、仕事の早い店主はステーキをさっさと焼き上げ、美味しそうな匂いを立ちこませながら私たちのテーブルにそれを置いた。


 ……私のハンバーグがSSサイズに見える程のビッグステーキが皿の上に乗っかっていた。

 そして神にお祈りするカミラ。神に祈るというより、これから食べる肉塊を完食できるかという祈りにしか見えないけど、カミラは思い切りフォークを突き立てた。


 そしてナイフで丁寧に切ったりせずそのまま2ポンドの肉にかぶりつき、食いちぎった。


 狼だ! 狼がいる! 怖いよお母さん!


「冗談です」

「冗談なの!?」


 カミラは一口食べた後ナプキンで口を丁寧に拭き、そして今度は普通にナイフでお行儀よく肉を切る。

 なんだったんだいったい……。


 ……でも、


「なんですか少佐? そんなにニヤニヤして。気持ち悪いですよ」

「いやいや、肉をほおばるカミラが可愛いなー、って思っただけ」

「なっ……!」


 そう言ってカミラは慌てて後ろを向いて必死にもぐもぐする。口の中にある肉をすべて呑み込むための作業だろうが、それもまた可愛い。狼なのにリスみたいよね。


 はぁ、幸せ……。2ポンドステーキの値段が気にならなくなるくらいには幸……


「ゴルァ! この店の責任者出てこいやぁ!!」


 …………。

 私の幸せを邪魔したのはどこの豚野郎だ?


 醜く気持ち悪い声がした方向を見やると、そこにいたのは似合わない高級服に身を包み牛のように肥え太り、頭をハゲ散らかしてる大変残念な人間がそこにいた。


「なんでしょうかね、アレ」

「さあね。でも目を合わせちゃだめよ。面倒事に巻き込まれるのは嫌だから」


 そんな存在するだけで周りに迷惑なその人物であっても、一応は客ということでこの店の店主が男の下へ。相変わらず仕事が早かった。

 店主が来たことに満足した男は立ち上がり……って、だいぶ太ってるから立ち上がれないと思ったら立ち上がれるんだあの人。すごい。

 まぁともかく立ち上がって、店主に怒鳴り散らす。


「ここは、あんな臭ぇモンを店にいれるのか、あぁん!?」


 臭ぇモンって、お前が言うな。さっきから男からオーデコロンの強い臭いが漂っているのだ。肉の味が堪能できないでしょ!


「お客様、仰っている意味が……」


 店主が明らからに嫌そうな顔をしている。そらそうだ。店の中で一番臭ぇモンが異臭について騒ぎ立てているんだから。

 だけど空気の読めない男は抗議を続けて、そして唐突に私を指差した。


「あの犬っころのことに決まってんだろうが、このスカポンタン!」


 否、人狼族であるカミラを指差した。


「俺の肉に犬の臭いがくっついて離れねぇんだよ! それともなんだぁ? この店はドッグフードを提供する店なのかぁ!?」


 唾を吐き怒鳴り散らす男の気迫の前に、さすがに店主はたじろいでしまう。それを「自分の意見は正しいんだ」と錯覚したのか、男は益々調子に乗る。


「第一あの犬は、俺ら人間に使われるために産まれてきたようなもんだろう! なのになんで俺のような高貴な人間と、あんな低俗で汚らしい排泄物まみれの犬と同じ場所でメシ食わなきゃならねぇんだよ!」


 男は言いたい放題。顔は怒っているというより、嗤っている。自分より下等なものに対して好き勝手やれる快感をきっと味わってるんでしょうね。


 そしてその男の罵倒先であるカミラと言えば、


「…………」


 ナイフを動かすのをやめて、俯いている。


 はぁ……ったくもう。

 折角の幸せな気分でご飯食べてる可愛いカミラの顔が台無しじゃないの、このクソがぁ!!

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