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カミラの信仰

ぬるっとタイトル/あらすじ変更

 カミラが敬虔な信徒である、というのは半分意外だった。


 半分というのは、人狼族は元々敬虔な信徒が多いから。人狼族は、旧大陸でも宗教が根付いている地域に住んでいた。そして移民してきてからもその敬虔さは変わらない、と。


 でも、やっぱりカミラが信徒であることは意外だ。

 主日は出来るだけ礼拝に行こうとするし、仕事でそれが無理だとわかると砦の中にある簡易礼拝室でお祈りしている。勿論、今みたいに綺麗な声で讃美歌を歌ったりはしない。


 カミラは見た目だけは武人だ。勿論、年相応の可愛さとか幼さはあるけど、彼女は凛々しい目と顔を持っている。このままの調子で10年ほど成長すれば、戦場を縦横無尽に駆け(ているように見え)る戦士になるはずだ。


 まぁ人狼族は身体能力高いから、喧嘩したらたぶん大人でも苦労すると思うけどね。カミラもその辺の才能あるみたいだし、今度稽古つけてみようかしら。


 なんて考えていたら、段々眠くなってきた。カミラの為とは言え、早起きなんて慣れないことするんじゃなかった。それにカミラの歌声が良い感じに子守唄になって…………。


 舟を漕ぎかけた時に、こつん、と小突かれた。見ると、カミラがこちらをジト目で「神の前で居眠りたぁいい度胸だなァ?」って言いつつ変わらず讃美歌を歌うという器用な事をしている。とりあえずウィンクして誤魔化そう。


 ということを5回くらい繰り返した後、讃美歌と牧師様? とやらのありがたいお話となんかの儀式が終わっていた。ていうか聖典借りた意味私あるのかしら?


 そして私たちが教会に入って40分くらいした後に、牧師様がいなくなって無事礼拝は終了。……って、案外短いんだね。私が想像していたのは、延々と聖典を読み上げて延々と牧師様とやらのありがたいお話を聞いて神様に祈って……みたいなものかと思ったのだけど。


「少佐! なに典礼中に寝てるんですか!」

「……つい?」


 だって牧師は何言ってるかわかんないしカミラの歌声は心地いいし眠いし。あと眠いし。教会ってなんでこう、眠くなるんだろう。神様って睡魔を操ることができるの?


 でもこんな適当な答えをしたらまたカミラに怒られちゃうかな。まぁそれもいい。カミラって怒った時の顔も可愛いから怒られるのは全然苦じゃないし。


「おやぁ? カミラちゃんじゃないかい、典礼で会うのは久しぶりだねぇ」

「あっ、炭屋のおばあちゃん! 久しぶりです、お元気でしたか!?」


 カミラの背後からヌッと現れたお婆ちゃんに、私の貴重なひと時を奪われた。別にいいし。カミラは私だけのものってわけじゃないから。


「カミラちゃんの顔みたら疲れなんてすぐ吹っ飛ぶわ。孫の子供の時にそっくりだし。まぁこんなかわいらしい耳はついてなかったけど」

「あらあら、でも無理しちゃダメですよ。これから暑くなりますから、体調管理に気を付けて……」


 あの子ってもしかしたら生粋の従卒なのかもしれない。誰にでも優しくて、誰相手でも気遣って。でも私とカミラが会ったばかりの頃とは大違いなのは確か。


 そしてこの炭屋のおばあちゃんを皮切りに、カミラの周りには人が集まってきた。大半はなんでもない挨拶だったけど、でもみんなの顔は事務的なものではなかった。なんていうかこう、穏やかだ。

 にしてもカミラは私の知らないところではこんな顔するのね……。


 ……ちょっと嫉妬しちゃう。


「あ、そういえばカミラちゃん。後ろの女性は誰だい?」


 どもー、後ろの女性でーす。アイリア・S・ハーコート、22歳だよー。うふふ。

 とばかりに私は手を振って営業スマイル。パーフェクトビューティフルウーマンたる私の笑顔を見ればどんな男も落ち……、


「あの人はポンコツさんです」

「ちょっと待って」


 たまには私に優しくしてもいいのよ?




---




 結局カミラが信徒たちに解放されたのは、礼拝が終わってから1時間経った後だった。礼拝途中参加だったせいもあるけど、礼拝よりも長い雑談って何? あと今さらだけど礼拝と典礼の違いって何?


「すみません少佐、遅れてしまって」

「……気にしないで。別に1時間も放置されたこと根に持ってるわけじゃないし」


 寂しいとか思ってないし。


「少佐は子供ですか!?」

「まだじゅうちゃんちゃい」

「嘘吐かないでください25歳でしょう?」

「こんなところで言わないで!」


 若かった私も彼氏もいないの! 朝起きたら私が買った家財道具ごと消えてたの!

 あぁ、もう悔しい!


 その時、私とカミラのお腹がほぼ同時に鳴った。そう言えば慌てて砦から出たせいで、朝ご飯たべてなかったわね。丁度いい。少し中途半端な時間だけどやけ食いご飯の時間にしよう。


「よし、カミラ。ご飯にするわよ。今日は私の奢り!」

「え、いいです別に。砦に戻れば安く済みます」

「そんな味気ない事言わないで、料理だけに!」


 ふふん。どうだ。私の語彙力に平伏すがいい!


「…………」

「ごめん、ご飯しよ? 神様の前でカッコつけさせて?」

「虚栄心は身を滅ぼしますよ。……それに」


 そう言ってから、カミラは唇を噛んで続きを言わなかった。

 まぁ、何を考えているのは容易に想像はつく。彼女にも色々あるのだ。人狼族故の、ね。でも、だからと言っていつまでも砦の中にいられるわけじゃないから。


「大丈夫よ。カミラってば案外この町の人に好かれてるし、それに何かあったら私が助けるわ!」

「……頼りないですね」

「酷い!」


 本当に、なーんでこんなに私にだけ厳しいんだろ……。

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