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カミラの意地

 合衆国南部方面監部。

 各砦を統括する司令部であり、援軍を送るかどうかの決定権を持つ、サラゴサ砦の上級司令部。


 司令官はケレンティ大佐。

 私が到着した時、大佐以下3000名の合衆国軍人が広場で演習中でした。しかし緊急事態のため、私は諸々の手続きを省略して、サラゴサ砦の危機を伝えました。


 そして大佐は、私に言い放ちます。


「……今、今なんと仰りましたか!?」

「何度言っても変わらん。援軍は出せん、と言ったんだ」


 衝撃、と言うほかありません。


 援軍は出せない? なぜ? どうして?

 疑問の言葉が脳内を巡ります。


「なぜかと問うならば、簡単な話だ。サラゴサは遠く、そして今にも失陥する。失陥が決まっている砦を、わざわざ遠路はるばる取り返すなんて愚の骨頂だと思わんか?」

「な、しかしそれではサラゴサにいる少佐を……ハーコート少佐たちを見捨てることに――」

「なるだろうな。残念だが、これが戦争だよ。こういうことに関しては、君達『オオカミ』が一番詳しいのかと思ったのだが、そうではないのかな?」


 私は、溢れ出る怒りを収めることができません。

 侮辱されたことではなく、こんなにあっさりとハーコート少佐ら兵たちを見捨てる決断をする、この司令官に怒っているのです。


「あなたは……部下を助けようとか、そういう心もなく見捨てようなどと言うんですか……! ハーコート少佐が知ったらどう思うか……!」

「そのハーコートだが、多分知っているんじゃないか?」

「……は?」


 ケレンティ大佐は、あっけらかんと言います。


「あなたに何が……」

「あいつは私の教え子だからな、よく知っている。だからこそ言える。彼女は『この状況下で司令部が援軍を出さない』ことを理解しているだろう」

「なっ……そんなはずありません! だって、私を使者として――」


 そこで、ふと気づくのです。


 ハーコート少佐はそう言う人だと。へらへらした顔で重要な事を言わない。起きる時間は遅い癖に、頭の回転は妙に速くて、そして、いつも私に構ってばかりで……。


「私を……私をここまで行かせるための方便……?」


 誰に言うでもなく、自分に問いかけるように、自然と漏れ出た言葉がケレンティ大佐に伝わります。

 彼は何も言いません。やっとわかったのか、とでも言いたげな目はしていましたが。


「話は終わりだ。下がりたまえ。見ての通り、今は訓練中なのだ」


 突き放すような声。


 でも、それでも……、いや、だからこそ――


「――――です」

「ん? なんだ?」


 だからこそ!


「嫌です!」

「……」


 ここで、引き下がるわけには行きません!

 少佐の真意を理解したからこそ、引き下がるわけには行きません。


 ハーコート少佐は何度も何度も、私を助けてくれました。そして、今回も。だから……恩返しをされる前に、死なれたら困ります。


「あなたは合衆国軍人として正しいかもしれませんが、合衆国国民としては失格です。勇戦する者を見捨て、使者に来た私を『諦めろ』などというあなたが、自由と正義の合衆国に住む国民とは思えません」

「…………ほう」


 司令部のど真ん中で、罵声を浴びせます。 

 社会的地位の低い狼人族の私がそんな事を言ったらどうなるかなんて言うべくもなくまずい事。


 でも黙りません。


「司令官たるあなたがその体たらくでは……そんな軍隊、必要ないです。抜けますよ、こんなの」

「……それで、抜けてどうする?」

「決まってます」


 毅然と、バカげたことを言って見せましょう。

 私の信じる合衆国というのは、そういう国です。


「――――心ある兵と共に、脱走しますっ!」

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