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サラゴサ砦の戦い ‐防城戦4‐

 8月13日、籠城5日目。


 サラゴサはその日朝から雨が振っていた。火薬が湿気る旧式銃を使う王国軍はこの日攻勢に出ることができず、サラゴサ砦は久々に平穏な時を刻んでいた。その平穏な時を利用し、作戦会議室において一部の士官による会議が開かれる。

 議題は当然、サラゴサ砦の現状について。


「――と言うわけで、王国軍は増援を得たようです。数は1000程、砲も補充されたようです」

「……」

 

 現在、砦を包囲している王国軍の総数は2300。対する合衆国軍サラゴサ砦守備隊は180。時を経るごとに王国軍は次々と増援を得、そして合衆国軍は戦死傷者を出して戦力を減らす。

 さらに合衆国軍は、増援の見込みが立っていない。


「……方面管区は、増援を寄越すでしょうか」


 第五小隊隊長ガーリー少尉は沈鬱な表情で、司令官ハーコート少佐に尋ねる。だがハーコート少佐はその質問には答えられなかった。何故なら、時分も砦に立て籠もっている身である以上、砦外の事情を知ることができないからである。


「出して欲しい、としか今のところは言えないわ」


 眉間に皺をよせ、重々しく答えるハーコート少佐のこの言葉には2つの意味がある。

 1つはある程度増援が得られれば、勝てないまでも砦から脱出できる可能性があるために戦力が欲しい、という意味。

 そしてもう1つは、あまり口には出せぬ絶望的な事であった。


 だがハーコート少佐が言わずとも、この場にいる士官やこの場にいない下級兵の一部は既に肌でそれを把握していた。


 防城戦開始当初こそ、前哨戦における戦術的勝利と要塞砲により敵砲兵の損耗を強いたことによって士気は上がっていた。増援が来れば勝てるとも思いもした。

 しかし現在において、その士気の高さは既に存在しない。


「兵達は増援が一向に来ないことに対しての不安が募っています。この状況が長くなると我々の敗北は必至です。何か手を打たねば」

「わかってるわよ」


 内側からは援軍が来ないことに対する合衆国軍の不安が、外側からは増援を得た王国軍の歓声が聞こえる。

 マクナイト大尉の指示によって周辺の砦や方面管区に増援を求める書簡を出した。にも拘らず増援が来ない。彼の指示に誤った点は見られなかった。


「……情報が欲しいわ。増援が来るのか、来ないかだけでも」


 砦に振る雨は、止みそうにない。




---




 翌8月14日。

 雨が止み、王国軍は攻撃を再開、南から砦を強襲する策に出る。


撃て(フエーゴ)!」


 砲と銃をさらに増大させ、さらに前日雨に降られて攻撃できなかった王国軍は、今までの鬱憤を晴らすかのように苛烈な砲撃と銃撃を繰り返した。


 ハーコート少佐やマクナイト大尉が前線に立ち、守備隊を指揮し続ける。


「反撃して! 敵に付け入る隙を与えないで!」


 王国軍の規律ある戦列歩兵の一斉射撃に対し、合衆国軍は胸壁を利用して各個に射撃する。だが彼我の戦力差が巨大であるが故に、砦の砲が弾切れであるために、合衆国軍は苦戦を強いられた。


 そしてハーコート少佐の下に、慌てた様子のカミラ・ウィールドン上等兵が駆けつける。


「少佐! 大変です!」

「どうしたの、カミラ!」

「西側に王国軍の新手、城壁に取りつかれました!」

「なっ……」


 その報は看過できないものであった。

 城壁に取りつかれては、王国軍はすぐにでも梯子を使って城壁を乗り越えようとする。それを阻止するために西側にも戦力を振り分けなければならないが、すると今現在ハーコートがいる南側の戦力が疎かになる。


「西側の敵の数はどれくらい?」

「そう多くはありません。でもこちらの戦力も同じです」


 ハーコートは思考する。

 なまじここで混乱して戦力を大きく動かしてしまうと、西と南両方を突破されて砦はあっという間に陥落するだろうと。であればあまり戦力を動かさない方が得策なのではないか、と。


 しかし西にしても南にしても、少数の増援で防衛できるとは思えなかった。


 そう説明するハーコートに対し、カミラは深く溜め息を吐いた。


「せめて大砲が使えれば……」


 大砲は、たった1門で多くの敵兵を追い返すだけの威力を持っている。装填や照準を雑にやれば銃並の装填速度も維持できるのである。しかし現在、砦の砲は弾がない。


「まぁ確かにそうだけど、弾がないと何も――」


 カミラの独り言をすぐに否定しようとしたハーコートだが、そこですぐに言葉が詰まった。


「少佐?」

「――使えるかも、大砲」

「は?」


 彼女はカミラの疑問に答えず、砲兵士官を呼んですぐに指示を飛ばした。

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