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サラゴサ砦の戦い ‐前哨戦2‐

「ねぇねぇ見た見た!?」

「見ました見ました。敵が追って来……」

「王国軍が使ってる小銃、私たちより旧式の燧発フリントロック式小銃だったよ! 凄いねカミラ! 私たちより装備が貧弱な軍隊があるなんて!」

「どこにビックリしてるんですか!?」


 それにしてもよく見えましたねあの距離で! 50メートル以上離れてますよ!?


 私たちが使っている雷管パーカッションロック式小銃よりさらに1世代前の小銃が、先程少佐が言った燧発式小銃と呼ばれるものです。雷管式と違うのは雷管を使用せず、その代わりに火打石で発射火薬を点火させることです。

 この銃の欠点は雨や湿気に弱く信頼性には雷管式に負けると言うことです。まぁ燧発式より古い火縄マッチロック式よりはマシですね。火縄式は間違えると隣の人が火傷したり持ってる銃が暴発したりしますから。


 我が国では燧発式小銃は生産していません。

 その意味では確かに旧式ですが、でもハーコート少佐の言葉は少し間違っています。サラゴサ以上に装備の更新が必要ない合衆国内陸部の過疎地域の軍隊や警察などでは未だに旧式の燧発式小銃が使われていますから。


 閑話休題。


「変な事言ってると舌噛みますよ少佐! 口じゃなく足動かしてください足!」

「カミラもわざわざ突っ込まなくていいよ!」

「じゃあ突っ込まれるようなこと言わないでください!」


 と、傍からではどう頑張っても戦争をしている最中に見えない会話をしている私たちは、王国軍から見ればさぞ奇妙な事だったでしょう。いえ、既に一緒にいる友軍にも変な目で見られてますけど。声、向こうにも聞こえてるかな、と少し不安になって後ろを振り向こうとしたとき、


「わわっ」


 少佐の素っ頓狂な声と、銃の発砲音が聞こえました。全力で逃げている私たちに痺れを切らした王国軍兵数名が発砲したようです。王国軍の銃弾は距離があったため幸いにして誰にも当たらず地面を軽く抉っただけでした。


 そして、迎撃予定地点に到着します。


「小隊停止! そーれ、(ワン)(ツー)!」


 ハーコート少佐の情けない声によって、その半秒後には全員が停止し、そして王国軍の方角へと素早く振り向きます。見ると、王国軍は先程よりも遠くにいるようでした。50人が全力疾走する間、王国軍は全力で走るというよりは早歩きをしていたようです。まぁ砦はまだ遠いですから普通はここで走りませんよね。


再装填リロード!」


 少佐の号令と共に、私たちは銃の再装填作業を行います。マクナイト大尉に叩きこまれた高速再装填技術がここで役立ちました。

 しかしマクナイト大尉のように15秒程度で装填できたとしても、その間にも王国軍は駆け足で接近してくるのです。15秒もあれば、敵は小銃の有効射程に私たちを入れ、そして発砲するでしょう。もしそうなれば、数で圧倒的に劣る我々は全滅です。


 そう考えると、焦りも出ます。槊杖さくじょうを銃口に入れたまま撃鉄を起こそうとするくらいには、慌てていました。


「カミラ、慌てないで。大丈夫よ。あなたの作戦と味方を信じなさい」


 囁くように、ハーコート少佐は私を励ましてくれました。味方云々は信じれるのですが、どうも自分の作戦に自信はないので余計に不安になりました。

 そうこうしているうちに、王国軍はついに私たちから距離50メートルの地点に到達。戦列を組み直しはじめます。

 一方の私たちは、まだ半数が再装填を終えていません。本来ならば少佐が「各自、随意に射撃(ファイアアットウィル)」と命令するところでしょうが、少佐はその命令を下しません。


 そしてその時が来ました。


撃て(ファイア)!」


 私の耳に聞こえたのはハーコート少佐の声ではなく、もっと遠くから、かつ低い声。人狼族でなければ聞き逃してしまいそうなほどの声量でしたが、問題はありません。なぜって、それよりも大きな音が1秒しないうちに私たちの耳に届いたから。


 つまり、銃声です。先程まで息を顰め塹壕に居た130人程の合衆国軍兵が一斉に射撃した音は、雷にも似ています。


 今私たちと王国軍侵攻部隊がいる狭い街道の両脇には森があり、森には先日私たちが訓練と称して掘った塹壕があります。そしてその塹壕は街道にはありません。むしろ街道を突き進む敵軍の為に設置されたような構造になっています。

 ですので敵を深く引き込んでから両脇から銃撃をくわえるのが順当なのです。


 問題は、どうやって敵を引き摺り込むか。

 それに対する私の回答がこれでした。つまり有効射程外からの一斉射で敵を挑発後全力で迎撃地点にまで逃げる。それだけです。


 ……自分で言うのもなんですが、これに引っ掛かる人はどうかしています。

 そしてそれを本当に実行してしまう人はもっとどうにかしていると思います。


 ですが、この作戦は成功してしまいました。

 130発の銃弾の半数は木々に遮られたり的外れな方向に飛んで行ったでしょう。ですが命中精度の悪い滑腔式マスケットであっても、1500名を数える王国軍に当たらないはずはありません。


 彼らの方から、数え切れないほどの悲鳴が上がります。


「流石私のカミラの作戦ね!」


 そして隣からは数え切れないほど聞いた呑気な声が上がります。とりあえず私は少佐のものじゃないです。


 とかなんとか言ってる間に、麾下全隊の再装填が終了していました。突っ込む前にそれを報告しなければなりません。


「少佐、装填完了ですよ」

「おっけー。……構え(レディ)!」


 そして先ほどと同じように、少佐の命令によって攻撃を開始しました。

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