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カミラの報告

 監視塔の階段を駆け下り、すっぐにハーコート少佐の執務室に行きます。

 少佐の事ですから伝声管の口を開けてないだとか慌てふためいて指示が出せないとか、そう言うことになってそうなので急ぎました。そうでなくても敵の詳細を伝える必要はあります。


 しかし意外と言えば失礼ですが、ハーコート少佐は執務室ではなく砦の中の広場に居たのです。


「第一・第三・第四小隊は先日構築した塹壕に増援、第二小隊は後詰として砦に待機、第五小隊はサラゴサ市街の警備と非戦闘員の避難準備を!」

「少佐、私はどうすれば?」

「マクナイト大尉は第二小隊の指揮を。民間人避難はガーリー少尉に任せるけど、たぶん警察の指揮下に入った方が効率的よ。彼らの方が街を良く知っているはずだから。定時報告は忘れずに!」

「了解!」


 ……ハーコート少佐が初めて軍人に見えます。おかしいですね、風邪でも引いているんでしょうか。


 一通りの指示を終えて一息つく少佐に、こっそりと近づきます。


「あ、カミラ。報告は……ってどうしたのその顔」

「……少佐、少し触らせてください」

「え、ちょっとどうしたの」


 少佐の反論をよそに少佐の身体を触りまくります。胸をポンポンと叩いたり耳を引っ張ったり頬をつねったり。


「ちょ、ちょっとどこ触って……痛い痛い耳はやめて! あ、だからと言って頬ほひゃふぁふほはひゃふぇふぇー」

「何言ってるかわからないですしいつも少佐が私に対してやってることじゃないですか」


 頬をつねってる間に少佐の顔はいつもの少佐になりました。


「私いつもカミラにこんなことしてない! カミラは神聖にして不可侵なる存在であって、そういうセクハラや暴力はしないって決めてるの! なんなのよもう!」


 大丈夫、この嘘はいつもの少佐です。どうやら中身が一瞬だけ入れ替わっただけのようですね。少し安心しました。


「少佐がいつも通りであることを確認しただけですよ。あと嘘は言わないでください」

「え、確認って何がどうなったら胸を揉むことに繋がるわけ?」

「揉んでませんよ!」


 叩いただけです! それにその無駄に大きい乳房は伏せ撃ちの邪魔ですからどけてください!

 ……って、そんなこと言ってる場合じゃないです。


「それよりも少佐。王国軍が南方より接近しています。国境の向こう側に王国軍、数や構成は不明ですが王国軍の軍旗は確認しています。進行方向から察するに我が国に対する侵犯行為であるところは明白かと思います」

「…………」

「あの、少佐?」


 ここでポンコツになってしまうと困ります。

 そう心配する私を余所に、少佐はクスリと微かに笑いました。


「凄いね、カミラは」

「な、何がです?」

「カミラが敵襲の報告をしたすぐ後にね、斥候が同じ報告をしてきたの。今カミラが言ったことそっくり同じそのまんま」

「そう、ですか」


 なら、私が慌てる必要はなかったってことでしょうか。少し恥ずかしいような……。


「落ち込むことはないよ。私的には斥候よりカミラの報告の方が信用に足るもん」

「はぁ……まぁ、その、ありがとうございます」


 嬉しいようなそうでもないような。慰めているつもりなのでしょうか。


「さて、じゃあ王国軍を迎えに行きますか。私は今から前線に行って指揮を執るからカミラは……」

「私も同行します」


 キッパリとそう言うと、少佐は慌てて私の肩を掴みます。ちょっと痛いです。


「だ、ダメ! カミラみたいなかわいい子を戦場に連れていけないよ」

「少佐も女性です。それに従卒たる者、少佐について行かないで何をしろと言うのです」

「いやほら、マクナイトの補佐とか……」

「何言ってるんですか。少佐は私がいないと何もできないじゃないですか」

「そんなことないって! さっきの見たでしょ!」


 えぇ見ました。指揮官らしい指揮をしていたと思います。少佐が少佐であることをようやく思い出せるくらいには。でも、私はついていきます。だって、そうじゃないと少佐はポンコツですから。


「少佐、拳銃とサーベルはどうしたんですか?」


 士官の必須装備は小銃ではなく、接近戦でも扱いやすい拳銃と、士官の象徴にして指揮統率に使うサーベルです。これがなければ士官ではありません。

 ですが、少佐は今どちらも所持していません。と言うより、この砦に来てから少佐が拳銃やらサーベルを持っている姿を見たことがありません。先日の訓練の時でさえ、彼女は丸腰でした。訓練ならまだしも、実戦でそれはまずいです。


 私の質問に対して少佐は、明後日の方向を見ながら頬をポリポリと掻きながら


「……どこに置いたかなぁ」


 と予想通りの答えを返してきます。


「少佐、拳銃のメンテナンスと予備シリンダーの準備は万全ですか? そしてそれらをどこに置きました?」

「…………」

「丸腰で行くとか言わないですよね?」

「…………」


 少佐は完全に沈黙し、そして数十秒後時間がもったいないと考えたのか、少佐は降参しました。何度か聞いた言葉を口にして。


「あ―――も―――面倒ね! カミラもついて来て! でもケガしちゃダメだから! あと銃とサーベルどこにあるの!」


 いつもの調子に戻った少佐に対して、私はいざというときの為にメンテナンス等の準備しておいた拳銃とサーベルの在り処を、少佐に教えました。

 私もサラゴサ砦守備隊主力小銃M1694と予備弾薬その他諸々を携えて、少佐に同行します。

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