《地下世界:モンスター救出編》 第六話:腐った不死者とカナンの街(1)
街をとり囲む石造りの高い外壁。
四方の出入り口には、長槍を持った鋼の装備の門兵。
とくに通行証も必要なかった街の中に入れば───
石畳の地面の広い大通り。その両脇には、様々な商店と家々。
大通りは、十分ほど歩くごとに広場があり、中心には噴水が設置されている。
吹き出した水がキラキラと光り、噴水の縁では子供たちが遊んでいた。
……楽しそうだ。
街の治安はいいのだろう。
カナンの街並みは高校の卒業旅行で一人で旅した、イタリアはローマのような雰囲気だった。
俺とキアリーは路地に身を潜め、街を眺める。
『一人で旅したんでしか?』
「そこはつっこむな。
……人間どもめ、人ん家の庭に、こんな大層なもん作りやがって……」
『アディ様も、モンスターらしくなってきたでしね』
「俺はもう門兵が鋼の装備をしていた時点で、なにもかもが憎いんだよ」
『いいじゃないでしか。水晶玉売って装備を買うんでしよね?』
もちろん、一見してモンスターだとわかるキアリーは俺の中に影に潜んでいる。
キアリーはコスプレでは済まされない。だって常時、浮いてるんだもん。
俺は外套を着ていれば一見は人間なのに、街に入るとき門兵に引き留められた。
『おい、そこのお前』
『おい、誰か呼んでるぞ?』
『いや、お前だ。フードを被ってるお前のことだ』
『なんだ俺か? この街はフードを被っちゃいけない法律でもあるのか?』
『お前……仕事帰りの開拓民か?』
『……? まぁ、そんなところだ』
『仕事に精を出すのは感心するが……』
『……なんだよ?』
『臭うから風呂に入れ』
『ぶっ殺すぞっ!!』
街道を歩くと、道行く人々が振り返り、いぶかしげな目で俺を見るので、
現在───暗い路地を歩いている。
「憎い……人間が、憎い。……人間が憎いっ!!」
『まぁまぁ、抑えて下さいでし。門兵相手に、ぶっ殺す発言はダメでしよ』
「ニクイ……ハガネノソウビヲシテルニンゲンガニクイ……トモダチガイルニンゲンガニクイ……」
『それは個人的な恨みでしね』
「ふん、いいさ。俺はこれから武器を手に入れるんだ。広い心を持とう。道具屋はどこにあるんだ、キアリー?」
『道具屋は五つくらいあるでし。どこの道具屋にするでしか?』
「……ありすぎだろ道具屋。コンビニ感覚でそんなに造るなよ」
『道具屋は、ある物、売れる物は、なんでも取り扱うでしけど、店主によって品揃えが違うでし』
「どっちにしろ、全部回るさ。……んで一番高いとこで売る」
『では、すぐそこの道具屋に入るでし』
二つの金づちがXに重なり合っているイラストが描かれた看板があった。
あれが道具屋のしるしのようだ。
カランカランッと、扉を開く。
「俺の名はアディ! 客であり、神様だっ!!」
『もっと普通に入って下さいでし』
「いらっしゃ……臭っ!」
「神様に向かって臭いとはなんだっ!!」
「も、申し訳ございません」
失礼なことを言ったのは、太った中年の店主だ。メガネと蓄えたヒゲが商売人の貫禄を思わせる。
店内は駄菓子屋のような内装だった。店内中央に木製の台があり、壁にも棚がおかれ、細々と商品が並べられている。
見るからに薬草だろうものがあった。しその葉に似ていて束ねられている。さすが道具屋だ。道具屋といえば薬草だからな。
本屋に本が売ってなければ本屋ではないように、道具屋に薬草が売ってなければ道具屋ではないといっても過言ではないだろう。
しかしこの薬草……食べるものなのだろうか、それとも磨り潰したりして傷口に張りつけるものなのだろうか。
「……おい、店主。これは薬草だよな?」
「見ての通りでございます」
「食べるものなのか?」
「いやいやいやお客様、ご冗談を」
どうやら食べるものではないらしい。シップタイプなのか。
「……おい、店主。毒消し草はないのか?」
「もちろんございます」
「毒消し草は……食べるもの……だよな?」
だって体内に入った毒を中和しなくちゃいけないもんな。シップタイプじゃあんまり効果なさそうだし、注射はあり得ないだろうし。
「いや……いやいや、お客様、ご冗談を……」
店主の顔が引き攣っている。毒消し草は食べるものじゃないのか。シップタイプなのだろうか?
余計な恥をかいてる気がするから、これ以上訊くのはやめよう。なんでもかんでも口に入れちゃう子供のように思われても困る。
さっさと用件を済ませようか。
「売りたいものがある……魔法の水晶玉だ」
「これはこれは、また貴重な……よくお見せ頂けますかな?」
宝箱に入れた水晶玉を、そのまま店主に手渡す。この宝箱は脱脂綿が入っていた、あの宝箱だ。宝箱+豪華なクッション+魔法の水晶玉。この組み合わせなら見た目の相乗効果で高く売れるだろうと持ってきた。
店主が水晶玉を品定めしている間、また俺は売り物を物色する。
買う気はないけど、初めて入った異世界の道具屋だ。きっと、なんだこれ? と思うものもたくさんあるハズだ。
店主に訊くと恥をかくのでキアリーに訊くことにしよう。
マッチのような商品がある。つまようじの棒より、ちょっと太めの木の棒で、先端には、楕円形の砂糖菓子のようなものがついている。
バラ売りだ。俺の知識に照らし合わせればマッチにしか見えないんだが、なんだこれ?
『●●●●、●●●●?』
『マッチでし』
「マッチかよ!? 普通にマッチかよ!? この世界にマッチあるのかよ!?」
『当然でし。ロウソクに火を点けるときとかに使うでし』
「魔法使えっ!!!!」
ファンタジーなめんなやっ!! せめて火打ち石とかじゃねぇのかよ!?
「お、お客様? どうかなされましたか?」
「気にするな。品揃えのよさにビックリしただけだ」
「そ、そうですか……」
壁の棚に大きな瓶がおいてある。中身は……胡椒の種? でも胡椒は高価だろうから違うだろう。
道具屋で調味料が売られているのは違和感があるしな。普通に花の種かも知れないけど、それだって花屋さんで売ってるハズだ。
なんだこれ?
『●●●●、●●●●?』
『お香になる花が咲くでし。ただの嗜好品でし』
『●●●●●●●●●●●?』
『乾燥させた葉っぱを、火で炙るでし』
『●●●●●●●●●?』
『いい匂い……というか、いい気分になれるでし』
「大麻じゃねぇーか!! それは大麻みたいなもんじゃねぇーか!! いい気分になっちゃダメだろっ!!」
『なんででしか?』
「依存して中毒になったらどうすんだっ!?」
『嗜み程度にやるのが大人でし』
「嗜みだろうと大人だろうとダメなもんはダメだ!!」
怖ぇもん売ってんじゃねぇよ! 店頭に並べていい品物じゃねぇだろうが!!異世界は大麻取締法とかねぇーのか!?
「お、お客様? な、なにか……?」
「なんでもねぇ!!」
『ただのラッカの種子じゃないでしか』
「名称を変えても効果が一緒ならダメだ! いまさら印象操作するなっ!!」
アルムヘイムは大丈夫なのか?
こんなもん普通に売ってて、大丈夫なのか?
「お客様、お値段がつきました」
「お、いくらになった?」
「よくできた水晶玉なので……1000Gではどうでしょうか?」
「……安いな。マジックアイテムでもその程度の値しかつかないもんか?」
「いいえ、お客様。これはマジックアイテムに似せたもの……悪い言い方になってしまいますが……偽物ですね」
『●●●●、●●●●●●●●●●?』
『本物でしよ。アディ様だって保存された映像を見たじゃないでしか』
『●●●』
『安くで買い叩いて高く売るのが、商人の腕の見せどころ……というところじゃないでしかねぇ』
『●●●●●●●●』
『水晶玉の内容は消してあるでしよ』
『●●●●●●●●●?』
『できるでしけど、消費する魔力がかなり高いでしから影内限定移動魔法が、あと一回使えるだけになるでしよ?』
『●●●●●。●●●●●●』
『わかったでし。水晶玉を手で覆って影を作って下さいでし』
キアリーに言われた通りにしてから、俺は店主の顔を覗く。
「おい、店主。あんたはものを見る目がないのか? 目利きができないのか? それは本物だぞ」
「いえ、残念ながら……」
「あんたは自分の目利きに自信を持ってるか?」
「それはもう、私はこの道うん十年ですから、自信はあります」
「そうか。目利きができるにも関わらず、それを偽物だと言うのなら嘘を吐いていることになる。そして売買の交渉で嘘を吐くのなら、詐欺になる。訂正するなら今のうちだぞ?」
「そこまで言うのなら証明頂けますかな? この水晶玉が、マジックアイテムだということを……」
「証明するのは俺の役目じゃない。あんたの自慢の目利きが証明するもんだ」
「ですから、残念ながら、偽物だと」
「俺は、この街にある五つの道具屋すべてを回って一番高い値を提示した店に売るつもりだ。もしもその水晶玉をマジックアイテムとして買い取った道具屋があったらどうする?」
「断言できますが、ありませんね、そんな店は」
「もう一度言う。その水晶玉が本物かどうか証明するのは俺の役目じゃない。あんたの自慢の目利きが証明するんだ。本物だと見極めろ」
「偽物です」
「わかった。胸クソ悪いから他の道具屋で売ることにする」
「構いませんが、1000G以上の買値を出す店は、うち以外ありませんよ?」
「仕方ないだろう? あんたが口から出まかせを言うんだから。じゃ、さいなら」
宝箱を持ち、背を向けて、店の扉に手をかける。
「またのご来店を」
あれ? 引き留めると思ったのに、帰しちゃうか......。
そうなると、この街の道具屋は五つ全部ツルんでるのか? と俺は思っちゃうぞ。それともこの水晶玉はいらないのか?
「そういえば……」
俺はくるりと踵を返した。
「武具を売ってる店も一応はアイテムの買い取りはしてくれるんだよな?」
「ええ、一応は。でも武具屋にアイテムの価値は測れません。1000Gなんて、とてもとても……」
「それでも、この水晶玉がマジックアイテムだと証明すれば1000Gくらいは出すんじゃないか?」
「2000Gは出しますよ。証明さえできれば......ですがね」
どうしてこの店主はマジックアイテムだと証明できないと思ってるんだろうな?
キアリー先生に訊いてみよう。
『●●●●●、●●●●●●●●●●?』
『多分なんでしけど、この水晶玉の価値がわかっていて、アディ様が扱えないものと判断しているからでし。それとマジックアイテムだと証明したとしても、どうとでも言い包められるものと思っているでし』
『●●●●●●●●●●、●●●●●?』
『効果までは、さすがにわからないでしね』
『●●●●●●』
『詳しくはないでし。モンスターにも商人はいるでし。商人は大体、そういうもんでし』
モンスターなのに『商う人』は、おかしいだろ? ───という、つっこみはひとまずおいといて。
さて、どう言い包むつもりだ? 言い包みようがないぞ?
店主は、この水晶玉がマジックアイテムだとわかっていても、その効果まではわかってないんだから。
「後学のために教えといてやる。俺みたいなのでも、魔法は使えるんだよ」
嘘だけど。
『●●●●●●●』
『さっきと同じように水晶玉を手で覆って、影を作って下さいでし』
キアリーの魔力で、水晶玉に音声つきの映像が映し出される。
「おい、店主。お前は見る目がないのか? 目利きができないのか? それは本物だぞ」からの、俺と店主のやり取りが、すべて───あますことなく、映し出される。
店主の顔から血の気が、さーっと引いた。けれどすぐに口の端を上げ、にっこりと微笑んだ。
あきらかなる作り笑い。客商売は大変だな。
「いやいやいや、私の目は節穴でしたな。まさか本当にマジックアイテムとは。いやいやいや、失礼しました、お客様」
「俺の名前はアディだ」
「失礼しました、アディ様。では、お詫びのしるしも兼ねまして、3000Gではいかがでしょうか?」
「なにが?」
「お売りして頂く値段でございます」
「あんたには売らないと言っただろう? この水晶玉はこの街の、売り買いできるすべての店という店を回って一番高い値を提示した店に売る。もちろんマジックアイテムだと証明する為に、この映像を見せることになる」
「いやいやいや」
「噂が噂を呼んで、あんたの店の信用はガタ落ちだろうな。それも仕方ない。あんたは俺を騙したんだ。街の連中だって今度は自分が騙されるんじゃないか……と疑うだろうからな」
「いやいやいや、3000Gというのは、あくまで最低金額として出さしてもらったまでで……」
「値段の問題じゃない。信用の問題だ。あんたは自分の店の信用を安く見積もりすぎた。あんたの店の信用は3000G程度か? 安いな。この道うん十年で、たった3000Gぽっちか?」
「……いや、いやいや」
「あんたの店の信用は、いくらだ?」
「……いやぁ」
「最後だ。あんたの店の信用は、いくらだ?」
「……いやぁ……今、出せる金額は……6000Gがせいぜいで……それでご勘弁を」
「じゃあ現金はそれでいい。出せ」
すっかり青ざめた店主が、カウンターの下から皮袋をとり出す。
俺はずっしりと重い皮袋を懐に入れた。
「足りない分は、商品をもらう。
こいつと。
こいつと、こいつと、こいつだ。
ああ、あと……こいつも」
「いやいやいやっ! それは……っ!!」
「水晶玉の映像……消さなくてもいいのか?」
「───いやいやっ! もちろん消して頂きたく!」
「消すのも一苦労なんだ。その作業分も含めてある。問題あるか?」
「……いや」
「優しい俺はこれで勘弁してやる。感謝しろ」
俺は三度、水晶玉に手をかざした。まぁ、実際消してるのはキアリーなんだけどね。
お金は持った。商品も持った。……よし。
「じゃあな。
───二度と来るか! こんな店、クソボケェッ!!」
道具屋を飛び出して、脇目も振らず即ダッシュ!!
俺は悪いことはしてないハズだっ!!
多分悪いことはしてないハズだっ!!
でも念の為、ダッシュだっ!!
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全力で十分ほど走り、後ろを確認したあと、さっと路地に隠れる。
合意の上だ。
合意は得たんだ。
訴えられても、俺は勝つ!!
反論されても異議ありっ! と指をさしてやる!!
「……はぁ、はぁ……はぁ……なんか文句ある?」
『ないでしけど、強いて言えば逃げることないと思うでしよ?』
「…………そう?」
『三日もすれば、いい勉強になったと店主は笑ってお酒飲んでるでしよ』
「そんなもんですかね?」
『そんなもんでなければ商人を、うん十年も続けていくことはできないでし。
あの店主は行商人でもなければ露天商でもないでし。大きな店をかまえる地に足をつけた街の商人でし。
6000Gくらい、はした金額でしよ』
「マジっすか? キアリーさんパネェっすね。まさか商人の経験があるんすか……?」
『ないでし。まだアルムヘイムが平和だった頃は、あちしは城仕えだったでし。ちょっと偉い立場だったでし。だからわかるだけでし』
「……へへ、そんなお偉いさんが、今では俺みたいな腐ったヘタレのパシリっすか? 落ちるところまで落ちたっすね」
『本当でし。だから早くまた、アルムヘイムを平和にして欲しいでし』
「任せてくだせぇ。キアリー姉さんの為、粉骨砕身の覚悟でございやすよ」
『なんなんでしか、その喋り方は?』
俺もよくわからん。不良の下っ端をやってたのに、何故か時代劇みたいになってしまった。
「俺は悪くないっ!! というお墨つきをもらったところで、次はお待ちかね───武具屋だ!!」
『よかったでしね。武器武器武器武器言ってたでしからねぇ』
「それ変な字面だけど、まぁ、その通り! 大体武器を持たざるして、さらわれたモンスターの救出なんかできるかっつの!!」
『武具屋はこの街に三つあるでしけど、どこから行くでしか?』
「一つの街に武具屋が三つもある意味がわからんけど、近くでいいや。走って疲れたし」
『路地を出て、左に歩けばあるでし』
「よっしゃあ行くぞーっ!! ……の前に一つ訊いていい、キアリー?」
『なんでしか?』
「俺が走って疲れたりすると、俺の影の中にいるキアリーも疲れたりするの?」
『全然でしよ? あちしは裸で寝ころんで、ジュース飲んでくつろいでるでし』
「くつろぐなよっ!! なんかテンションに温度差があると思ったら、自室気どりかよ!?」
『あちしの自室はこんな臭くはないでし』
「臭いって言うなや!! でも俺の影の中に裸の少女がいると思うと、またテンション上がってきた!!」
『裸は嘘でしけどね』
「嘘なのっ!? 喜んで損したっ!! なんでそんな嘘吐くのっ!?」
『アディ様ならそう言ったら喜ぶと思ったでし』
「わかってるなら嘘吐き続けろよ!! 優しい嘘は吐き続けろよ!! 真実だけが幸せをもたらすわけじゃないんだぞっ!?」
『……あ、ちょっと待って下さいでし。ジュースこぼしちゃったでし』
「俺の影の中でジュースこぼすな!! 今は大事な話をしてるんだぞっ!!」
『申し訳ないんでしが、先にお風呂入ってきていいでしか? カルピスが身体にかかっちゃったでし』
「ジュースってカルピスのことだったの!? ここは本当に異世界なのか!?」
『アディ様の影の中だから、アディ様の記憶が具現化したものが、けっこうあるでし』
「マジかよっ!? そんな大事な設定は先に言っとけよ!! そこには他になにがある!?」
『Hな本が、たくさんあるでし』
「読んでもいいけど、ちゃんとあったところにしまっとけよ!! バレないようになっ!!」
『心得ているでし』
「武具屋に行く前にちょっとやることあるから、ちゃんとお風呂で身体きれいにしとけよっ!! 湯船には肩までしっかりつかって百数えろよ!!」
『わかったでし』
いったい俺の影の中には、なにがあるんだろうか? とりあえず風呂があり、今まさにキアリーの入浴が始まろうとしている。
キアリー、よく温まれ。
俺の心も温まるから。
俺は路地の奥深くに入り、誰もいないことを確かめてから、外套を脱ぎ捨てた。
上着も......ズボンも脱ぎ捨てた。
そして、道具屋からかっぱらった───もとい、買ってきた包帯を、くるくると巻きつけた。
身体は全身に。頭はそのままで、顔は左目だけを隠すように巻きつけた。
『何故なら、ときどき左目が落ちるからでし』
「うぉおおおぉーーーいっっ!! その描写はやめろぉっ!! 俺が具体的にどのくらい腐っているかは口外無用だ!!」
『なにしてるんでしか?』
「道具屋でこれを見つけたとき思いついたっ!! 包帯さえ巻いとけば、ふいにフードがずれても外套が風に舞っても腐っていることがバレない!! ただの怪我人だ!! 大怪我だけどな!!」
『腐臭は隠せてないでしよ』
「わかっとるわい!! 腐臭ばかりは今のところどうにもならん!!」
『結局ミイラ男としてモンスター扱いじゃないでしか? 人間から見れば……』
「俺はお母さんじゃないから大丈夫だ!! それよりお風呂どうした!? もう上がったのか!?」
『お風呂からの中継でし』
「よし! そのまま武具屋に直行だ!!」
その武具屋には看板がなく、ドンッとおかれた樽の真ん中に、三角の旗のついた槍がつき刺さっていた。他に店らしい装飾がない。
……シュールで格好いいじゃないか。ここの店主は、なかなかのハイセンスの持ち主だろう。
俺は突撃するように、バンッと扉を開けた。
「俺の名はアディ! 神だっ!!」