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異世界クエスチョン ~モン娘は俺の花嫁~  作者: 阿由知香るブラック
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《地下世界:モンスター救出編》 第四話:腐った不死者と第一回モンスター救出作戦会議

 ここはヤギの城。別名『アンリアラパレス』

 …………あれ? 逆だったかな。


 アンリアラパレス。別名『ヤギの城』

 まぁ、別にどっちでもいい。


 地下を含めると全五階あるその城は、広いにも関わらず閑散としていて、装飾品もなにもない石造りの内観はけっこう不気味である。

 かくれんぼをしたら楽しいかも知れないが、きっと一人一人いなくなって、そして誰もいなくなる的な結末を迎えるだろう。


 いなくなった者は城の主に食べられる、という言い伝えが残っている。

 俺が今残した。


 そんな城内のとある一室の広間。

 ツルツルに磨かれた長方形のテーブルに、五つの椅子。

 でも、座っているのは『影に潜むもの』キアリーの一人だけ。


 俺は立っている。

 指揮官であり、司会進行者だからだ。


 これから行うのは───


「第一回モンスター救出作戦会議ーーーっっ!! はい、拍手っ!!」


 パチパチパチッ…………。

 パチパチパチッ…………。


 二人で拍手したけど部屋が広いので、むなしいばかりだった。


「まずは悲しいお報せがある」

「どうしたんでしか?」

「この城内に裏切り者がいる!! 欺瞞情報をタレ流してる奴がなっ!!」

「欺瞞情報ってなんでしか?」

「勉強不足だぞキアリー! 欺瞞情報───つまり、偽の情報のことだ!!」

「だったら最初から偽情報と言って下さいでし」

「雰囲気を大事にする俺なんだ! 偽情報より欺瞞情報という語感のほうが格好いだろう!!」


「別にいいでしけど。でも裏切り者なんていないと思うでしよ? 昨日まで、アンリアラ様、アディ様、あちしの三人しかいなかったんでしから」


「なら裏切り者はアンリアラだな。俺は昨日、『勇者はブタ面』という情報に踊らされ、シャムとエンカウントしてしまった。シャムが勇者だと知っていれば、俺は殴られることはなかったハズだ」


「あちしが忠告するよりも先に勇者の前に飛び出したのは、アディ様じゃないでしか」

「でないと、うさ耳三姉妹が斬られていたかも知れないからな」

「あのときのアディ様は格好よかったでし。ヒュドラも避けて通ると恐れられている勇者に敢然と立ち向かったでし!」


「サインはあとにしてくれっ!!」


「さっき水晶玉が送られてきましたでし。アンリアラ様からアディ様へ、お褒めの言葉を頂いたでし」

「…………水晶玉? どんなアイテムだ?」

「映像と音声を保存することができるでし」

「ほほう。そんな便利なものがあったのか。聞かせてくれ」


 キアリーは自分の影の中から、刺繍が施された豪華なクッションと共に野球ボール大の水晶を取り出し、テーブルにおいた。


 …………キアリーの影も便利だな。自分の影の中にものを収納できるのか。


 さも当然のように影に手を突っ込んだけれど、目の前で急にそんなことをやられると正直ビックリする。

 やる前に一言、「イリュージョン!」と両手を広げるなりなんなり心の準備をさせて欲しい。


「魔力を込めるでし」


 キアリーが手をかざすと、水晶玉がテレビのようにアンリアラを映し出した。

 丸い画面の向こうに座っているアンリアラは、唇に手をそえている。


『勇者を相手にするとは、さすが脳みそまで腐ってるだけのことはありますね…………ぷぷっ、無謀』


 華麗な投球フォームで水晶玉をブン投げる。


「お褒めの言葉じゃねぇじゃねぇーか!! 思いっきり侮辱してるじゃねぇーか!!」


「さすが、と褒めてるでしよ?」

「いいや、褒めてねぇ!! これ絶対褒めてねぇ!!

大体こんなもの送ってくるぐらいなら武器の一つでも送ってこいや!!」


「この水晶玉を売ったら、けっこうお金になるでしよ」

「よし、あとで売りに行こう! あっても腹が立つだけだ!! いくらくらいで売れるんだ?」


「3000Gはすると思うでし」

「よっしゃ! …………ってか『ジィ』ってなんだ? 3000ジィ?」


「アルムヘイムのお金の単位でし」

「……………………そうか、深く考えるのはやめよう。とにかくお金が手に入った!! ばんざーい!!」

「ばんざーいでし!!」


 3000Gの価値がよくわからないけど、剣の一本くらいは買えるだろう。

 これで素手とはおさらばだ。


「他に売れるものはないのか? ここは城だ。宝物庫とかあるだろう?」

「アンリアラパレスにお金になるものは、一切ないでし」


「さすがアンリアラの城だな。名ばかりだ。まぁ、いいさ、侵略的外来種には期待しないことに決めたんだ。会議を進めよう。

勇者はブタではなく、パツキンだということはわかった。さぁ、どうやってパツキンを倒す? 意見を訊かせてくれ、キアリー」


「はい、ムリでし」

「即答で諦めるな。少しは考えてくれ、キアリー」

「考えてもムリでし」

「諦めたらそこで終わりだぞ、キアリー? 諦めなければいつか勝利を掴むことができるハズだ」

「掴めないでし。ムリでし」


「どうしてそこまで頑なになる? 相手は推定15歳のパツキンだ。やってやれないことはない」

「アディ様は、このアンリアラパレスを瞬き一つで吹き飛ばすことができるでしか?」

「できるわけないだろう? 北斗さんだって瞬き一つでダウンは奪えても、城を吹き飛ばすことはできんぞ」


「大魔王様はできるでし」


 ……………………マジで?

 瞬き一つで城を粉砕?

 本当なら末恐ろしいことだ。目にゴミが入ったら、世界が滅ぶぞ。


「そんな大魔王様を、勇者は八つ裂きにして封印したでし。大魔王様より強い勇者を倒すことはムリでし。

あちしなんてアディ様の影に潜んでいても勇者を前にしただけで、震えが止まらなかったでし」


 そうだ。シャムと口論してる間、キアリーは一言も喋らなかった。

 俺の影の中で声も出せないほど震えてたのか。


「そもそも勇者を倒すことなんて、アディ様の任務にはないでし。アディ様の任務は、さらわれたモンスターたちの救出でしよ」

「同じことなんじゃないのか?」

「ぜんぜん違うでし。勇者を倒すことはムリでし」


 仮に、捕まっているモンスターたちを救出できたとしても、シャムの行動をとめなければまたモンスターたちは捕まって、元の黙阿弥になると思うんだけどなぁ……。


「アディ様だって勇者のワンパンで倒されてしまったでし」


 ワンパンて。

 まぁ、それを言われると実際問題、真っ向勝負じゃ勝つのはムリと考えるべきか。


 勝つ勝たないはともかく、俺がモンスターであることをシャムは知らないハズだ。俺はフードを深く被っていて、半分腐っている顔を見られてはいないし、草原は風が強かったから、腐臭にも気づかなかった。


 このアドバンテージを有効に使えば、勝つことはできなくても、負けない戦い……は、できるのではないだろうか。


 シャムにとって、俺は人間なのだから。

 さすがに人間は斬らんだろう。

 ……………………斬らないよね?


「キアリー。勇者が人間を斬ったって話は聞いたことないよな? 勇者は人間を斬らないよな? だって人間の勇者だもんな?」


「普通に斬るでしよ」

「斬るのっ!? シャムは普通に人間も斬っちゃうの?」

「勇者が盗賊の一味を壊滅させた逸話は有名でし」

「盗賊…………悪人とはいえ、人間…………斬ってしまえるのか」


 推定15歳のシャムの人生にいったいなにがあったのだろうか。

 モンスターを斬るわ、人間を斬るわ。普通じゃ考えられない。

 なにか悲惨なトラウマでも抱えてるのだろうか?

 それとも推定15歳は触れるものみな傷つける年頃なのだろうか?


「アディ様がいくら死なないとはいえ勇者を相手して勝とうだなんて考えないで欲しいでし。

ここはモンスター救出作戦を考えるべきでしよ」


「…………ん? 俺が死なない? どういう意味で言ってるんだキアリー。死なないってなんだ?」

「死なないというよりも、すでに死んでるから、これ以上は死なないという意味でし」


「すでに死んでるから…………生きていないから…………死なない?」

「そうでし」

「えぇっ!! 俺、死なないの? 死んでるから死なないの? …………それって、無敵じゃね?」


「無敵じゃないでし。腐った不死者はたくさんいたでしが今では絶滅寸前でし。

切り刻んでも、焼かれも、塵になっても死なない腐った不死者でも、成仏はするでし。無敵じゃないでし」


「…………成仏? 成仏って、どうなるの?」

「成仏は、魂の昇天でし。神職にたずさわる人間なら誰でも腐った不死者を成仏させる魔法を使えるでし」


「誰でも!? 俺弱っ!! 俺ってそこまで弱いのかっ!?」


「レベル3の腐った不死者なんてザコ中のザコでし。昇天系魔法一発で、光の彼方に消え去るでし。

ちなみに街人でも少しの才能と信仰心があれば、昇天系魔法くらいは使えるでし」


「じゃあなんでアンリアラは俺を腐った不死者として召喚したんだよ!? ザコキャラ召喚してどうすんだっ!?」


「アディ様は召喚された時点ですでに死んでたじゃないでしか」


 ……………………そうだった。

 俺は山中で遭難死して、成仏できずに自縛霊のようになって、腐っていく自分の身体を、うつろな目で眺めていた。


 そのときアンリアラに召喚されたんだ。


 腐った不死者であることは、いわば俺の責任……。

 本当は、アンリアラに文句を言える道理はない。


「シャムは、その昇天系魔法ってのは使えるのか?」

「勇者は昇天系魔法は使えないでし。アディ様を塵にすることは簡単にできるでしけど…………」


「塵になっても復活できるんだろ? 死なないんだろ?」

「死なないでしね。塵になっても回復魔法で元通りでし」


「…………大魔王すら八つ裂きにする勇者は、俺を倒せない。でも街人は俺を倒せる」 


 ゲームバランス悪いなっ!!

 ゲームじゃないけどさっ!!


 大多数の人間が、俺を昇天させる魔法が使えるなら、俺にモンスターとしての価値なんてないんじゃなのか?

 俺にとってはシャムより、街人のほうが怖ぇよ。囲まれて襲われたら、ひとたまりもねぇぞ。


 せっかく第二の人生を送ってるんだ。光の彼方になんか消え去りたくない…………。


「商人は昇天系魔法は使えるのか?」

「使えないでし。商人はお金の亡者でしから、信仰心はかけらもないでし」

「…………お前、商人にぶっ殺されんぞ?

さらわれたモンスターたちはアルスレイって街にいるらしいけど、キアリー、アルスレイの場所は知ってるか?」

「知ってるでしよ。かなり遠いでし」

「キアリーの魔法で飛べないのか?」

「近くまでしか飛べないでし。アルスレイには行ったことないでしから」

「お前、俺の影になら俺がどこにいても飛び移れるんだろ?」

「基本そうでしけど…………なに考えてるんでしか?」


 なら、アルスレイにはどうにか忍び込めるか。まぁ、キアリーに俺の影に入ってもらって普通に門をくぐればいいし。

 外套を着てフード被ってりゃ、俺のパッと見は人間だしな。


「よし、安全そうな近場の街に水晶玉売りに行って、資金を調達し、武器の購入。

それからアルスレイの下見しに行って、さらわれたモンスターたちがアルスレイのどこにいるかを確かめてから、また作戦会議をしよう」


「了解でし!! でもアディ様はすごいでしね! つい昨日、勇者に一撃で倒されたのに、もう心を持ち直して行動に移れるんでしから!! あちしはまだ、足がガクブルでしよ」


「大丈夫か? なんなら明日でもいいけどな」

「そのお心遣いだけでけっこうでし。行くでし!」

「よし、いい子だ、キアリー。帰ったら、たくさんペッティングしてやろう」

「そのお心遣いだけでけっこうでし」


 ………………さいですか。

 冗談なのにジト目で、やたら低い音調こえで返された。

 本当に冗談なのに。


 さて、出かけよう───と思ったところで、扉がノックされた。

 扉から、そーっと顔を出したのは、たれ耳のメイドさん、アーリィ。


 昨日助けた、うさ耳三姉妹の一人だった。

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